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証券の次は銀行 銀行口座のマイナンバー連携で始まる税務調査

高橋成壽

 金融機関の口座とマイナンバーの紐付けはどの程度進展するのでしょうか。銀行、証券、保険とマイナンバーが紐付けば、今までブラックボックスであった事象が浮かび上がります。最近は、証券取引においてマイナンバーを活用した税務調査が進んでいるようです。余裕資金で行われる株式投資では確定申告を行うケースもあり、意図の有無を問わず申告漏れが発生しやすい状況です。そして最後の本丸と目される、銀行口座のマイナンバーとの紐付けによって、どんなことが起こりうるのでしょうか。

■金融機関による資金使途の違い

(1)証券口座は富裕層の余裕資金のため紐付け反対なし

マイナンバーと口座の紐付けが進んでいるのが証券業界です。所得税法により、株式・投資信託の売却、配当金の受取にはマイナンバーの提供が必要です。他にも、特定口座開設、氏名や住所変更のタイミングでマイナンバーの提出が必要になります。

 証券口座は所得税の申告・納税方式を選ぶことができます。確定申告を選択する場合は、利益と損失を相殺させる損益通算等含めて、自分で取引を申告します。そのため、故意か過失か別として、申告漏れとなる取引があるようです。マイナンバーと証券口座が紐づくと、複数の証券口座の取引が把握できるため、課税庁にとっては漏れなく課税対象をリストアップすることができます。

 また、余裕資金での取引に限定される証券口座の場合は、富裕層課税と同様に反対する人がいないためスムーズに導入が進んでいるようです。

(2)生命保険契約は無申告贈与対策での紐付けが必要

生命保険業界では保険契約時にはマイナンバーの提供を求めていません。保険金支払いなど、お金を保険会社から個人に払い出すタイミングでマイナンバーを確認することになっています。

 筆者としては、保険契約締結時に保険料負担者である保険契約者のマイナンバー紐付けは実施したほうがよいと考えます。理由は、保険料の振り込みはクレジットカードの場合を除くと、誰が保険料を負担しているかわかりません。特に保険料を振込む場合は、親族であっても他人であっても本人かどうか確認する方法がないのです。

 ここでは、無申告贈与税の問題があると考えます。親が子供の保険料を負担する場合、資産性の無い、いわゆる「掛け捨て保険」であれば、保険料が安価であり問題はありません。しかし、資産性の高い「貯蓄性のある保険」の場合、将来の解約や満期、死亡による資金移転を目的として加入します。

 例えば、子供名義で個人年金保険の契約を締結し、親が保険料を負担するケースを考えます。年間200万円の保険料を親が契約者である子供に代わって保険会社に振込むことは簡単です。また、口座振替であっても、保険料引き落とし前に、子供の銀行口座に親が保険料相当を入金することもたやすいことです。

 ここでは、年間200万円の保険料を贈与する場合、贈与税の申告もなく資金が子供に移転しています。保険料の払込期間が10年、20年と続けば、2000万円、4000万円と巨額の資金が無申告で親族に移転していきます。現状では、このような提案を保険販売側ができてしまうのも問題です。解約時などにマイナンバーと紐付けても、出どころが自己資金であれば、一時所得か年金受取による雑所得による課税となります。資金移動の入り口でも紐付けを行わなければ、資金の出どころの怪しい契約は減ることが無いでしょう。

 そして、このような資金移動を確実に把握するには、後述の銀行口座とマイナンバーの紐付けにより、資金移動が確実に補足される必要があります。でなければ、親族間や第三者間との資金移動による保険契約は適切な課税ができないことになるからです。

 つまり、保険契約の入り口をマイナンバーと紐付けても、資金移動自体を把握しなければ、ブラックボックスの資金移転を減らすことができないのです。

(3)銀行口座のマイナンバー紐付け

筆者が最も大切だと感じているマイナンバー紐付けが銀行口座です。すべての銀行口座がマイナンバー紐付けにより、資金移転や口座残高等確認できるようになると、社会保険制度を大きく変えることができると考えます。

 社会保険制度には「所得再配分機能」があるとされています。現状では、社会保険の受益面では、収入に応じた健康保険料負担、高額療養費の上限、介護保険料負担などが定められています。しかし、資産があるのに収入が低いため資産規模にそぐわない社会保険給付を受けている人はたくさんいます。

 例えば、預貯金が数千万円あるのに健康保険料・介護保険料は最低額、高額療養費の上限も最低額、という場合があります。同様に、年金の受取についてはそもそも収入による縛りがありませんから、資産だけで生活できるような人にも等しく年金が支払われます。今後のさらなる少子化による保険料原資の不足を考えれば、社会保険制度全体と銀行口座のマイナンバー紐付けによる新たな所得再配分を行う必要があるでしょう。

■銀行口座のマイナンバー口座には誰が反対なの?

 銀行口座にマイナンバーが紐づくと、資産を国に補足されるという懸念をされる人が多いとされています。その懸念は、資産の移転など何もしていない、何もする気が無い人に影響するでしょうか。

 持てるものが反対し、持たざるものは反対しない、という状況であれば、特定の利益を得る人たちが反対していると考えることもできます。

 銀行のマイナンバー紐付けに対して、困る人はどのような立場の人でしょう。政治家が政治資金を受取り、汚職資金を保管するのに困ることがあるでしょう。裏金やキックバックを無申告で受け取っている場合は、銀行口座に入金するときに課税庁に把握されたら困るでしょう。

 生活保護の申請において、申請以外の口座に資金が預金されていたら困るでしょう。昔は、偽名での口座開設ができた銀行があるらしく、永久にマイナンバーがつけられない口座が残ることが判明したら困るでしょう。口座の名義を貸して何かの利益を得ている人は困るでしょう。

 銀行口座とマイナンバーが紐付けば、税務調査の行き先に困ることは無くなりそうです。一般の人たちは困ることが無いばかりか、健康保険、介護保険、公的年金の状況が改善するならば、マイナンバー紐付けは望むべきもので、早期実現すべきではないでしょうか。

高橋成壽(たかはし・なるひさ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら