運転士と車掌の乗務は維持
JR東日本は3月13日から常磐線(各駅停車)の一部編成でATO(自動列車運転装置)による運転を開始した。順次、手動運転から切り替えていき、3月末までには全ての編成がATO運転となる。
ATOとは運転士が出発ボタンを押すと、列車衝突や速度超過を防ぐATC(自動列車制御装置)の信号に従って、加速、減速、定位置停止を行い、自動的に走行する装置だ。既に地下鉄各線、新交通システム各線、つくばエクスプレスなどで導入実績のあるシステムだが、JR東日本としては初めての導入になる。
常磐線が最初の導入路線に選ばれたのは、同線の各駅停車運行区間には踏切がないことに加え、直通運転する東京メトロ千代田線でATO運転が行われており、常磐線(各駅停車)を走行するJR東日本・東京メトロ・小田急の全ての電車がATO装置を搭載しているからだ。
ATOを導入すれば運転士がマスコンやブレーキなどの操作をすることなく列車の運行が可能になるが、直ちに運転士が必要なくなるというわけではない。ATOはあらかじめプログラムされた条件に従って走行するが、前方の障害物などを感知することはできないため、緊急時には運転士が非常ブレーキを操作する必要がある。またJR東日本によれば、強風や大雨などの速度規制時には運転士が手動運転することで対応するといい、引き続き運転士と車掌の2名乗務体制が維持される。
一方、全線が高架線かつホームドアが完備されており、人や車が線路に立ち入る恐れがない横浜シーサイドラインやゆりかもめ、日暮里・舎人ライナーなどの新交通システムでは完全無人運転を実現している他、東京メトロ南北線、丸ノ内線、副都心線、都営地下鉄三田線、大江戸線、つくばエクスプレスなどでは車掌を乗務させず、運転士ひとりで運行するワンマン運転を行っている。
JR東日本広報部は、安全確保に必要な設備の検討を行っている段階で、現時点では常磐線のワンマン化は未定と説明するが、2019年10月8日付の日本経済新聞(デジタル版)が、将来的には常磐線でワンマン運転を開始する意向と伝えているように、将来的な目指す姿であるのは間違いないだろう。
常磐線では2021年度に北松戸~北柏間で、2022年度以降に亀有~松戸間、我孫子~取手間で順次ホームドアを設置していく予定で、安全確保の本命であるホームドアの整備が完了したタイミングでワンマン運転を開始し、常磐線で実績を積んだ後は、ホームドアとATOがセットになったワンマン運転を他路線にも拡大すると見られる。
背景に鉄道事業の“働き手”不足
常磐線(各駅停車)のATO化が見据えるのはワンマン運転だけではない。JR東日本はグループ経営ビジョン「変革2027」の中で、運行やサービスなどの様々な側面から鉄道を質的に変革し、「スマートトレイン」を実現するとしており、運行面ではドライバレス運転の実現を掲げている。今回の常磐線(各駅停車)へのATO導入は「将来のドライバレス運転を目指したATOの開発を進める」布石との位置付けだ。
ここでいうドライバレス運転とは電車の運転免許である動力車操縦者運転免許を保有する運転士が乗務しない運行形態を指し、無人運転を意味するものではない。運転は全てATOが担うが、緊急時に非常停止ボタンを操作する保安要員の添乗を想定している。
労働人口の減少に伴い、鉄道事業者も働き手不足に直面しつつあり、持続的な鉄道運行のためには省力化は欠かせない。またコロナ禍を受けた収益性の低下に対応するためにも経営の効率化は不可欠だ。
国家資格である運転士の養成には多額の費用と長期の時間が必要であり、運転士が必要なくなれば様々なメリットが生じる。こうした動きを総合すると、車掌ひとりのワンマン運転が当面の到達点になると考えられる。
いずれにしてもカギを握るのは運転操作を担うATOの進化だ。自動車では自動運転実現に向けた研究開発が進んでいるが、50年以上の歴史がある鉄道のATO開発もこれからますます加速していきそうだ。
【鉄道業界インサイド】は鉄道ライターの枝久保達也さんが鉄道業界の歩みや最新ニュース、問題点や将来の展望をビジネス視点から解説するコラムです。更新は原則第4木曜日。アーカイブはこちら