試乗スケッチ

使い勝手と走り味を突き詰めたトヨタ初のEV レクサス「UX300e」

木下隆之

 ドキドキするほど鋭いアクセルレスポンス

 脱炭素化の流れは、潮流となってクルマ業界を襲っている。世界が目指すカーボンニュートラルに歩調を合わせるように、各メーカーがEV(電気自動車)をリリースしているのだ。

上質な走り味を備えたレクサス「UX300e」からしばらく目が離せそうにない(トヨタ自動車提供)
上質な走り味を備えたレクサス「UX300e」からしばらく目が離せそうにない(トヨタ自動車提供)
上質な走り味を備えたレクサス「UX300e」からしばらく目が離せそうにない(トヨタ自動車提供)
上質な走り味を備えたレクサス「UX300e」からしばらく目が離せそうにない(トヨタ自動車提供)
上質な走り味を備えたレクサス「UX300e」からしばらく目が離せそうにない(トヨタ自動車提供)
上質な走り味を備えたレクサス「UX300e」からしばらく目が離せそうにない(トヨタ自動車提供)

 レクサスが初のEVである「UX300e」の発売を開始した。2月から順次予約の受け付けをはじめた。レクサス初のEVであり、それはトヨタとしても初めてのEVである。

 「UX300e」に搭載されるリチウムイオンバッテリーは総電力54.4kWh。駆動用モーターの最高出力は150kWであり、300Nmの最大トルクを発生させる。WLTCモードの航続距離は367kmに達する。都会型コンパクトハッチバックのそのキャラクターから、市街地での使い勝手を想定したシティコミューターを想像したものの、想像以上に足が長い。

 しかも、充電能力も優秀であり、50kWの急速充電約80分で、空のバッテリーが満充電になる計算である。サービスエリアの急速充電でも、平均して100Aの勢いで電気を飲み込む。点在する充電ステーションを賢く活用すれば、ロングドライブも苦にならない。都会を闊歩するだけのモデルに留めておくには惜しいEV効率を実現していることには驚かされた。

 しかも、走りが上質である。走り始めて瞬間に得る感動は様々だが、まずは静粛性が驚くほど高い。エンジンという音源がないことに加え、ロードノイズが見事に遮断されているのだ。

 加速は期待以上にパワフルである。アクセルレスポンスはドキドキするほど鋭い。スタートダッシュは、そのモータースペックを超えて鋭いのだ。レスポンスも際立っており、スポーティEVの面影が漂う。パワーフィールは軟弱なスポーツカーを完膚(かんぷ)なきまでに凌駕する。

 それでいて、車両の姿勢が整っている。限界域での挙動はともかく、常識の範疇にとどめた走りをした程度では、不自然に前後にピッチングすることなく、フラットな姿勢をともなって加速する様子は高級モデルらしい立ち居振る舞いである。

 操縦性や安定性にも妥協はない

 ハンドリングも鋭い。ボディ剛性が際立っている上に、ステアリング剛性も高い。そもそもフロントにエンジンという最大の重量物を持たないことでノーズの軽さを意識させられる。ステアリングの微小舵の、指先でわずかにステアした瞬間から反応が得られるのだ。スパルタンなスポーツカーのそれとは異なり、いたずらにドライバーをドキドキさせるものではないが、滲(にじ)み出るような上質なレスポンスなのだ。

 アクセルオフでは優しい回生ブレーキが主体である。エンジン車よりはちょっと強いレベルの減速Gがデフォルトで設定されている。ステアリングコラムの左右にはパドルが組み込まれており、それを操作することによって4段階まで減速Gをコントロールすることができる。マニュアル感覚のスポーティドライブも可能なのだ。できれば、惰性で流せるようなコースティングの設定も欲しかった気がするものの、減速Gが任意に選べるのはありがたい。

 そう、「UX300e」が褒められるのは、EVであることをすべてとしていないことである。EVであることを、環境性能や経済性だけを目的にしていないことだ。もちろん、前述したように航続距離は決して短くないし充電も効率的だ。日常の使い勝手を突き詰めている。だが、クルマとして欠かせない操縦性や安定性や、あるいは運転する爽快感といった大切な要件にも妥協なく手が及んでいることに感動したのである。

 レクサスは2019年に電動化ビジョンを発表した。RC FやLCといったエモーショナルな内燃機関モデルを揃えていながら、一方で脱炭素化にも手を抜くことはない。ハイブリッドがありPHV(プラグインハイブリッド車)もあり、近い将来にはFCV(燃料電池自動車)を発表するに違いない。そんな適材適所の施策の一つとして「UX300e」が存在しているのだ。

 とにもかくにも、上質な走り味を備えた「UX300e」からしばらく目が離せそうにない。

木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。