存在感の増す自工会
日本自動車工業会(自工会・JAMA)の存在感が増している。1967年のこと、乗用車、トラック、バス、二輪車など国内で生産するメーカーを会員として発足し、現在は一般社団法人としての活動を進めている。
会長は自動車メーカーのトップが歴任するのが慣例だ。現在の会長はトヨタ自動車社長の豊田章男氏である。2012年から2014年まで日本自動車工業会の会長を歴任後、2018年から再び指揮官として返り咲いた。
豊田氏は自身でレースに参戦するほどの「カーガイ」であり、経営者としての手腕も証明済みである。将来への布石も着々と打っている。それでいて、社会への発信力にも長けている。これまで存在が希薄だった自工会が、この厄災に翻弄される中、存在感が高まっていると感じるのは、氏の存在によることに間違いはない。
令和3年の元旦、自工会のCMが流れた。新聞にも1面で自工会の文字が躍った。一体なに? 内容を理解するのに時間がかかったが、確かに日本自動車工業会の広告なのである。
日本自動車工業会のYouTubeチャンネルでも年頭のメッセージを流している。そこで豊田会長が語っているのは、自動車関連に携わる550万人への感謝の言葉である。
日本の製造業の製造品出荷額約331兆円(2018年)のうち、18.8%が自動車製造業のもの。約5分の1を自動車関連が担っている。自動車関連で働くのは550万人。社会で働く就業者の8%にも及ぶ。
自動車関連の就業者には、自動車メーカーの従業員はもちろんのこと、タイヤやシートを製造するサプライヤーや、ガソリンスタンドやレンタカー、あるいはタクシーの運転手も含まれる。
クルマを走らせる550万人には、部品を含めて、製造、販売し、整備をする237万人も含まれる。タクシーやバス、輸送のためのトラックに関わっているのが269万人。ガソリンスタンドや自動車保険などのサービス分野の関係者は35万人。移動というクルマの本分に携わっている就業者は550万人に達するのである。日本の基幹産業であることは、今さら語る必要もない。
豊田会長は、その550万人に向けて、感謝の気持ちを伝えた。「あけましておめでとう」ではなく、「ありがとう」と語っているのが印象的だった。
そしてあらためて、日本における自動車産業がいかに巨大であるかを突きつけられる。雇用は550万人。10人に1人が自動車産業で生計を立てていることになる。納税額は15兆円にも達する。経済波及効果は2.5倍。自動車産業が1増えれば、全産業が2.5派生することを意味する。
自動車産業はもはや国家そのもの
温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、「カーボンニュートラル」脱炭素社会の実現を目指すと菅義偉首相が語った。それに対しても豊田会長は全面的な協力を惜しまないとも語る。そのためには自動車の排出ガス削減だけではなく、自動車の製造過程で排出される二酸化炭素や、EV(電気自動車)化に欠かせない電気を製造する際に放出されるCO2の低減にも取り組まねばならない。それはとても難題であると想像するが、ともあれ国家を挙げてのプロジェクトに協力したいとも語ったのである。
日本自動車工業会会長としての年頭の挨拶は、550万人の自動車産業の携わる人たちへのメッセージではあるが、あるいはそれは、自動車産業に直接関わりのない人たちを含めて、日本国民を鼓舞するためのメッセージなのかとも思えた。
クルマに携わる550万人の枠をもっと広げ、僕らのように自動車関係の記事を寄稿することで生計を立てている人やレーシングドライバー、さらには自動車メーカーに寄り添うことで生計を立てている人、工場に隣接する食堂の料理人や通路をきれいにしてくれている掃除の人や、そしてさらには僕にも家族がいて、養うべき人たちがいる。日本の基幹産業である自動車産業に寄り添い生活している人たちを含めると、その数は550万人を大きく超えて、数千万人になるはずである。もはや自動車産業は国家そのものである。
そんな、国民に対しての力強いメッセージだった。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。YouTubeの「木下隆之channel CARドロイド」も随時更新中です。