日本の少子化は今に始まったことではありませんが、過去30年以上も少子化対策に取り組んできました。しかし明確な効果を発揮できたと思っている人はいないでしょう。最近では、児童手当の特例給付の改正、出産育児一時金の増額など、子育て世代にとって「そうじゃない!」と思えるような政策が出てくる理由は何か。選挙に行かない子育て層が自分たちを不利な状況に追い込んでいるのではないか、ということを考えてみましょう。
■選挙離れが子育て世代へのブーメランになる
小学校の授業でも学習するのですが、国政選挙に関し今の日本では日本国籍をもつ成人1人につき1つの投票権をもちます。かつては納税額などで選挙権が得られ、選ばれし者のみが投票することのできる仕組みでしたが、今は年齢条件さえクリアすれば誰でも投票することが可能です。
最近では、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることで、若年の選挙権者が増えることになり、啓もう活動が行われています。18歳であれば、学校で教えられた通り素直に投票に行くのかもしれません。しかし、社会に出てしまえば選挙に行くかどうかは自由な意思決定に基づきます。選挙なんて行かない、選挙なんて意味ない、と感じて選挙に行かない人も多いのではないでしょうか。
選挙離れが今日の子育て世代を苦しめる現況といったら言い過ぎでしょうか?私はそうは思いません。若者が選挙に行かなくなれば、政治家は若者向けの政策をまじめに議論する必要性を感じないでしょう。政治家にとって大切なのは明日の糧となる清き一票です。若者の一票も、老人の一票も同じ重さです。であれば、選挙権を行使して自分に一票入れてくれる可能性のある人たちに時間と労力を割いた方が合理的でしょう。
政治家は4年後、あるいは6年後に次の選挙が待ち構えています。一度雇用されれば身分が保証されている会社員や公務員と異なり、期間限定の働き方です。長いスパンで取り組むというよりも、次の自分の食い扶持を確保するために行動するのは自然ではないでしょうか。
従って、選挙権を行使しない、自分に投票する可能性の低い人たちへの政策には意欲的になれないのです。実際に私が政治家に聞いたところ、「子育て関連は票にならない」という話を聞いています。従って、選挙公約に子育て支援をうたっている政治家の多くは「ポーズ」として公約の1つに加えているだけかもしれないのです。
■投票率50%台では見えづらい世代別投票率の違い
直近の平成29年の衆院議員選挙での投票率をみてみると20代34%、30代45%、40代54%、50代63%、60代72%、70代以上61%、全体54%という数値が出ています。わかりやすく、若年層は投票していません。シニアから高齢層が選挙権を行使している結果となります。民主主義というのは、人数が多い方が有利ですから、人口が多くかつ投票率の高い年齢層にアプローチするのが効果的です。
自民党から民主党への政権交代となった平成21年の衆院議員選挙では20代49%、30代60%、40代73%、50代80%、60代84%、70代以上71%、全体69%という高さでした。
他の年代の投票率も高いのですが、20代~40代の投票率が直近の数字から比べると大きな差が出ています。平成に入り投票率は70%台から急減し、当たり前のように50%台を維持するようになってきました。まもなく40%台となりそうな雰囲気も感じられます。
若年層は子供のころから経済停滞期であり、政権が代わっても景気が変わるわけでもなく、選挙への諦めがあるのかもしれません。しかし実際には平成21年の選挙では無投票の人たちが投票に転じることで、政権交代という大きな出来事を成し遂げることができました。
ということは、子育て世代が本気で投票の意思を示せば、子育て世代に向けた政策を推進する政治家が増える可能性があります。子育て世代を重視する政治家が増えれば、日本の国家予算である100兆円の配分を変えられる可能性も十分あります。
例えば子供の教育予算でもある文部科学省の予算は国家予算全体の5%ほどで約5兆円です。年金、健康保険、介護保険など社会保障に携わる厚生労働省の予算は国家予算全体の32%となる32兆円です。子育て世代の重荷である教育費の自己負担を減らしたいと考えた場合には文部科学省の予算を増やせば達成できるかもしれません。その代わりどこかの予算を減らす必要があります。予算配分を決めるのは国会議員です。ということは、若年層が選挙権を行使すれば、子育て世代への予算を増やすことに繋がります。
■一票を金銭的価値に直せば1年で200万円?
私は最近の少子化対策がピント外れな理由は、子育て世代の意見を考慮していないからだと感じています。少子化対策を論じる政府のある有識者会議では、委員12名のうち子育て真っ只中の世代は2人だけ、男性が1人、女性が1人でした。他の顔ぶれはシンクタンク、大手企業、知事、市長、新聞社、大学教授、大企業の人事担当者などそうそうたる顔ぶれでした。このメンバーで少子化対策の何が論じられたのか。
知事や市長からは自治体の取り組みが示され、大企業流の子育て支援策が説明されました。しかし過去の報告することが多く、未来に何をすべきかという提言ではありません。もっと父親・母親の意見を聞くことはしないのだろうかと疑問に思いつつ、昨今のニュースを見る限り、やはり当事者の意見が反映されていないことを憂慮しています。このような会議メンバーの人選にも政治家の意向などが色濃く反映されているのだろうと思います。
日本の国家予算は100兆円を超える規模になりました。それに対して有権者数は約4,900万人、人口は1億2,500万人です。国家予算を有権者一人当たりで除すると、その額は一人当たり214万円になります。人口一人当たりに換算すれば一人当たり83万円です。
衆議院選挙は4年毎、参議院選挙は6年毎に行われますから、選挙権を行使して政治家を選出することを諦めれば、4年で856万円、6年で1,284万円の予算配分への関与を捨てるのと同じと考えてみてはいかがでしょう。
実際には、予算の配分権は捨てているのではなく、選挙に行ったシニア、高齢者層にプレゼントしていることになります。全体で考えるなら、投票率が54%となることで、選挙に行かない有権者の予算配分額が45兆円そっくりそのまま選挙にいった人に移転するのです。
家計に敏感なはずの子育て世代が、1年に200万円以上の価値がある選挙権を使わない手はないでしょう。もし子育て世代が投票するとすごい効果が得られます。子育て世帯は1173万世帯あると2017年の国民生活基礎調査で発表されています。世帯ごとに有権者が1.5人いると仮定すると、約1800万人の有権者がいますから、1800万票の大票田が誕生します。自民党の比例代表の得票数は2100万票ですから、子育て世代がその気になれば、子育て重視の政権を誕生させることが理論的には可能です。
国からの支援を諦めたり、文句を言うわけでなく、自分たちの意見を尊重し反映させるシステムを目指すならば、あなたの持つ214万円の権利をどう行使するかを考えてみてはいかがでしょうか。
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