宇宙開発のボラティリティ

お宝積んだ「はやぶさ2」ついに地球帰還 さらに11年かけて未知の天体へ

鈴木喜生

12月6日午前2時28分、オーストラリアの砂漠にカプセル投下

 2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」が、日本時間の今月6日、ついに地球へ帰還します。

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、地球帰還のための精密誘導を10月から行ってきましたが、12月5日には地球から22万km離れたポイントで、はやぶさ2からカプセルが分離。その12時間後の6日午前2時28~29分には大気圏にカプセルだけが再突入し、オーストラリアの中南部にあるウーメラに着地する予定です。帰還完了時点で、ミッション期間は約6年(2194日)、総航行距離は52億5000万km となります。

【「はやぶさ2」地球帰還のCG動画】

秒速32km、1秒ごとに4.4km地球に接近

 はやぶさ2はリュウグウからの離脱後、約1年間かけて地球へ帰還しました。リュウグウは、地球と火星の公転軌道をまたぎながら太陽を中心に周回する小惑星です。2019年11月にリュウグウを離脱したはやぶさ2は、イオン・エンジンによって秒速32km(対太陽速度)まで加速して地球を追いかけ、最終的には1秒間に4.4kmずつ地球に接近しました。

 残念ながら帰還時の光跡を日本からは観測できませんが、現地における大気圏再突入時の予想軌跡を専用アプリで見ることができます。

【再突入カプセル予測軌跡「Reentry AR」(iPhone・iPad用)】

▼アプリは「App Store(外部サイト)」からダウンロード可能

インパクターでクレーター造成 確実に「お宝」を回収

 月以外の天体から史上はじめてサンプルを持ち帰ったのは「はやぶさ」(2010年6月13日帰還)ですが、はやぶさ2はその手法を踏襲し、さらに進化させたシステムを搭載していました。

 両機とも、「サンプラホーン」と呼ばれる装置を搭載し、それをリュウグウ地表に接地させた瞬間、内部から弾丸が発射されます。すると、舞い上がった岩石などの試料がサンプラホーンを通してカプセルに格納されます。はやぶさはこの装置によって採取を実施しましたが、はやぶさ2にはさらに「インパクター」が搭載されていました。

 人工クレーターを作る場所を決定したはやぶさ2は、その上空でインパクターと小型カメラを分離し、はやぶさ2自体はリュウグウの裏側に避難します。点火されたインパクターは秒速2kmの速度でリュウグウ地表に激突してクレーターを作りますが、その一連の様子は小型カメラが撮影し、データを地球へ送ります。インパクターによる岩石の飛散がおさまると、はやぶさ2本体がクレーターに降下し、露出した地表から外的影響の少ない、よりフレッシュな試料を採取します。

 初代はやぶさでは試料が十分にカプセルに格納されず、微粒子だけの採取に留まりましたが、さまざまな改良が加えられたはやぶさ2では、十分な量のサンプルが採取されていることが予想され、はやぶさ2の津田雄一プロジェクトマネージャも「(カプセルには)お宝がきっと入っている。きちんと成功させたい」と回収に意気込みを見せています(関連記事)。成功すれば月以外の天体からの、史上2度目のサンプルリターンとなります。

カプセル投下後、さらに11年間の旅へ

 52億5000万kmの旅を成し遂げたはやぶさ2ではありますが、機体のダメージもなく、イオン・エンジンの燃料(キセノン)も約半分残っているため、引き続き「拡張ミッション」が実施されることが決定されています。

 はやぶさ2は地球に向けてカプセルを分離すると、直後に軌道を変更し、次の目的地である微小小惑星「1998 KY26」へ向かいます。この天体は直径が30mしかなく、10分で1回自転する「超高速自転天体」です。基本的には地球の外側を、地球に近い軌道で太陽を中心に公転していますが、軌道の一部は地球の公転軌道をまたいで内側に入ります。

 これだけ小さな天体にランデブーするには非常に高い誘導精度が必要ですが、もし成功すれば、微小小惑星に到達させた史上初のプロジェクトとなります。小惑星や地球でのフライバイを計3回実行して加速し、2031年7月に目的地に到着する予定です。 もしタイミングが合えば、2回行われる地球フライバイの際に、夜空にはやぶさ2の光跡を観測できるかもしれません。

 はやぶさ2には現在、サンプラホーンの弾丸と、天体への降下時の道しるべとなる「ターゲット・マーカー」(直径10cmの球体)が1発ずつ残っているため、地表へのタッチダウンによる観測にも挑戦する予定です。地球に落下する巨大隕石はこうした小惑星だと考えられており、その特徴を知ることは人類に大きな意味をもたらします。

オンラインでテレメトリーを観測

 さて、はやぶさ2がいま現在、どのようなコンディションで運用されているかを見ることができるサイト「Haya2NOW」も公開されています。打ち上げからの経過時間、位置のほか、消費電力、スラスターの噴射積算秒数、使用アンテナなどのテレメトリーのほか、地上局からの送受信のデモ体験もでき、電波到達時間が実感できます。

【はやぶさ2のテレメトリー観測サイト「Haya2NOW」】

▼「Haya2NOW(外部サイト)

 はやぶさ2と交信している地上局は、臼田(長野県佐久市)、内之浦(鹿児島県肝付町)の観測所のほか、NASA(米航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)の施設など世界に6ヵ所あり、地球の自転に合わせて通信局を切り換え、常時そのコンディションを観測しています。

エイ出版社の現役編集長。宇宙、科学技術、第二次大戦機、マクロ経済学などのムックや書籍をプロデュースしつつ自らも執筆。趣味は人工衛星観測。これまで手掛けた出版物に『宇宙プロジェクト開発史大全』『これからはじまる科学技術プロジェクト』『零戦五二型 レストアの真実と全記録』『栄発動機取扱説明書 完全復刻版』『コロナショック後の株と世界経済の教科書』(すべてエイ出版社)など。

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