「介護を身近に考える」 女優で映画監督の黒木瞳さん
女優で映画監督の黒木瞳さんをメインゲストに迎え、介護と介護の仕事について考えるオンライントークイベント「黒木瞳さんと学ぶ介護のおしごと」が今月、介護情報サイト「ゆうゆうLife」で配信された。介護職の女性たちと接した黒木さんは「(介護を)身近なこととして、胸にとめて考えていきたい」と語った。
介護職の女性からやりがいや苦労を聞き、「強い方々だと感じた。強い中にもいろいろな葛藤があるのだろうなと思った」という黒木さん。芸能生活40周年の今年は、監督として長編2作目となる映画「十二単衣を着た悪魔」(公開中)で、源氏物語きっての「悪役」である弘徽殿女御(こきでんのにょうご)に光を当てた。原典には主人公・光源氏とその母を執拗に排除しようとする敵として登場する女御だが、同作では自身の思いは胸に秘め、常に強く品格を失わない女性として描かれる。介護職の女性たちの印象は、そんなヒロインとどこか通じるものがあったのかもしれない。
女優で映画監督。華やかなイメージだが「日々の仕事は地味。でも作品を見た方に『ありがとう』『元気をもらった』と言ってもらえる。皆の笑顔が見たいという気持ちや、チームワークが大切なことは介護の仕事と一緒です」と語る。
母と過ごした日々
自身に介護経験はないが、福岡で暮らす最愛の母がくも膜下出血で倒れた夜は、専門の医師がいる病院に電話をし続け、翌朝には福岡に向かった。「母はずっと持病のあった父の介護をしていました。その父を亡くした喪失感もあったかもしれません」。一度は「もう助からない」と言われた母は、黒木さんをはじめ家族の努力で手術を受け、一命を取りとめた。
それからは仕事の合間を縫っては福岡に向かい、母と話をし、手を握った。「楽しい話をたくさんして、母の温かい手を握るのが好きでした。亡くなるまでの半年間は、神様がくれた贈り物のような時間でした」と振り返る。
他人に頼る難しさ
母を亡くした年や当時の母の年齢は記憶にないという。「私はある意味では(母の死を受け入れられない)子供なのかもしれません。ただ、両親は『死』というものの本当の意味を教えてくれました」。
こうした経験からも「困難なとき、他人に頼るのは実はとても難しいこと」だと実感している。「でも介護職の方たちに『頼っていい』と教えてもらった。私もいつか、介護をする、あるいはされるほうになる。もっと学ばなければと思っています」。
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利用者の笑顔 やりがいに
オンライントークイベントには、黒木さんのほか、2人の介護福祉士が参加。10年間の介護経験を持つフリーアナウンサー、町亞聖さんの進行のもと、やりがいや楽しさ、家庭との両立などについて語り合った。
サービス付き高齢者向け住宅「SOMPOケア そんぽの家S大泉北」(東京都練馬区)でケアコンダクターを務める下田悦子さん(49)は3人の娘を持つ母。育児が落ち着いた5年前、初めて介護の仕事に携わった。「最初は排泄(はいせつ)ケアができるかどうか不安だったけれど、やってみたら意外と大丈夫でした」と笑う。「利用者さんの笑顔が見られること。『あなたの顔を見るとほっとする』と言ってもらい、本当にやっていてよかったと感じる」とやりがいを語った。
一方、小規模多機能型居宅介護事業所「ヘルスケアタウンむかいはら」(板橋区)の介護課長、矢新道子さん(61)は27年のキャリアを持つベテラン。印象に残る出来事として、現在の職場で出会った高齢男性のエピソードを明かした。
男性には認知症などによる行動障害があり、家族も疲弊。だが、その人生に寄り添ってチームでケアを続けるうちに状態は落ち着き、笑顔も見られるようになった。
「『ここが自分の居場所』と思ってもらいたかった。やがて成人式を迎えたお孫さんが訪ねてきてくれたときの笑顔が忘れられません」
ライブ配信は午後と夜の2回行われ、視聴者からは「介護の仕事は、提供者も利用者も双方向で感謝の気持ちのキャッチボールができる仕事だと知った」といった感想が寄せられた。