実物大ゴジラを体感 東宝のスペシャリストチーム「ゴジラルーム」の挑戦
ゴジラが兵庫県の淡路島に上陸した…。全長120メートルの実物大ゴジラを間近で“体感”できる世界唯一のエンターテインメントアトラクションが、淡路市の県立淡路島公園アニメパーク「ニジゲンノモリ」に設立され、10月、オープンした。来場者が、活動停止中(休眠状態)のゴジラと戦う-というリアル体感型アトラクション「ゴジラ迎撃作戦~国立ゴジラ淡路島研究センター~」を企画し、実現させたのは、東宝(本社・東京)に新設された部署「ゴジラルーム」だ。「ゴジラは日本が世界に誇るキャラクター。国境や世代も超えた新たなゴジラプロジェクトを続々と準備中です」。ゴジラルームのトップに立って陣頭指揮する“仕掛け人”、東宝常務の大田圭二・CGO(チーフ・ゴジラ・オフィサー)は、更なる構想を抱いている。
ゴジラに関するビジネスを手掛けるために、昨年10月、「ゴジラルーム」は設立された。
新アトラクション「ゴジラ迎撃作戦」は、新型コロナウイルス拡大による影響で、今年夏に予定されていたオープンが延期されたが、「ゴジラルーム創設からちょうど丸一年。ようやく淡路島でゴジラをお披露目できうれしい」と大田CGOは感慨深げに語る。
1954(昭和29)年に、特撮怪獣映画「ゴジラ」が公開されて以来、今年で66年。
以来、ゴジラ映画は人気シリーズとして普遍の人気を誇ってきた。特撮の実写映画だけでなく、アニメ映画としてもシリーズ化。また、米国の映画製作会社「レジェンダリー・ピクチャーズ」が製作した大作「GODZILLA ゴジラ」が2014年に世界で公開され、来年は、このハリウッド版シリーズの最新作「ゴジラVSコング」の公開が控えている。
日本では2016年。12年ぶりに実写映画として公開された「シン・ゴジラ」が興行収入で82億円を超えるなど大ヒットし、ゴジラブームの根強い人気を証明した。
関西に上陸したゴジラ
淡路島に完成した巨大ゴジラは全長約120メートル。映画「シン・ゴジラ」の中に登場したゴジラをモチーフに、劇中、東京で活動停止したシーンを忠実に再現したものだ。
アトラクションのコンセプトも、「シン・ゴジラ」のテーマに即した本格的な構想に基づいている。
淡路島に上陸し、猛威を振るうゴジラをニジゲンノモリまで誘導。地中に仕掛けた爆薬で動きを封じ、特殊な薬剤を搭載したミサイルでゴジラの口に撃ち込み、活動停止させる…という「シン・ゴジラ」の世界観が生かされている。「国立ゴジラ淡路島研究センター」の監視下に置き、再びゴジラが暴れださせないよう、来場者が武器で戦う、という臨場感あふれるストーリーだ。
ニジゲンノモリには、この巨大ゴジラのアトラクションの他、世界初という常設の「ゴジラミュージアム」も開設された。
ゴジラ映画の名場面を再現したジオラマ模型や、ゴジラシリーズに登場した100体以上の怪獣フィギュア、貴重な映画の資料なども展示され、ゴジラマニア垂涎の画期的な資料館となっている。
「旅客機に乗って関西の空港に近づくと、上空の機内から、この淡路島のゴジラが見えるんですよ。ここをゴジラの新たな名所、拠点にし、国内外のゴジラファンに訪れてほしい。今後は、この拠点から、映画公開に合わせたイベントなども企画し、開催していければ」と大田CGOは構想を膨らませている。
ゴジラルーム秘話
誕生から66年を経てもゴジラ人気は衰えず、国内外で圧倒的な人気を得ながらも、「実は東宝史上、正式にゴジラの冠を付けた部署が創設されるのは初めてなんですよ」と大田CGOは説明する。
ゴジラルームが設立される以前、東宝では、ゴジラビジネスを全社的に展開するために2014年、「ゴジラ戦略会議」、通称「ゴジコン」が創設されている。
「各部署から二十数人のゴジコンメンバーを選抜し、ゴジラに関するビジネスに取り組んできたのですが、それぞれメンバーには所属部署があり、仕事が掛け持ちでした。東宝にとって、“ゴジラ専従”の社員を持つこと、つまりゴジラ専門の新部署の設立は長年の課題だったのです」
大田CGOは、東宝の映像・音楽事業を担当する常務でもある。だが、名刺に刷られた「チーフ・ゴジラ・オフィサー(CGO)」という肩書に、東宝のゴジラに対する敬意とゴジラビジネスに懸ける並々ならぬ意気込みが伝わってくる。
ゴジラビジネスに専従するメンバーは、大田CGOを筆頭に東宝本社に5人。このほか、東宝グループのマーケティング事業を担う「TOHOマーケティング」の北海道、中部、関西、九州の各営業所にゴジラルームを設置し、本社のゴジラルームと連携しながら全国展開していく計画だ。
ゴジラ憲章の名のもとに…
東宝には“門外不出”の「ゴジラ憲章」があるという。
「詳細を明かすことはできないのですが…」と前置きしたうえで、大田CGOが、そっとその概要を教えてくれた。
〈ゴジラは圧倒的な生命力であなたの魂を揺さぶります〉
この文言をブランド・プロミスとして掲げるゴジラ憲章は、1年以上をかけて今年初めにまとめられたという。
「東宝社内で、規範とするゴジラのブランドと原則をきっちりと決めたのです」と大田CGOは語る。
ゴジラ憲章では、この約束のもとに、さらに細かく、(1)物語性(2)威厳(3)強さ(4)挑戦(5)ワクワクドキドキ-という5つの原則が設けられている。
「これら5つの原則の要素のいずれかを満たす…という基準を守りながら、映画化、イベント、商品展開などを図っていく。そこから逸脱せず、ゴジラブランドを守りながら、さらにゴジラの魅力をどう伝えていくことができるか。ゴジラルームの仕事は、今後、さらに増えていくと考えています」
なぜ、ゴジラ人気は一向に衰えないのだろうか?
ゴジラルームでは、この「ゴジラ人気」についても検証・分析していた。
「今、もっともゴジラを支持する世代は何十代だと思いますか?」と大田CGOに質問された。
“昭和生まれの高い年齢層”を想像していただけに、その答えを聞いて驚いた。
「現在、実は20代女性に一番支持されているのです。近年のヒット作『シン・ゴジラ』やハリウッド版ゴジラなどに最も影響を受けた世代なんです。彼女たちは昭和のゴジラ世代の子供世代でもありますからね」と大田CGOは分析しながら説明する。
幅広い世代に受け継がれてゆく息の長いゴジラブーム。「“淡路島に上陸したゴジラ”は、さらに新たな子供たちの世代にも受け入れられ、若年層を開拓していくはず…」と大田CGO。ゴジラルームの挑戦に、今後も要注目だ。