資産運用の世界では、富める者はさらに富み栄えます。一世を風靡した、トマ・ピケティは資本家による資本収益率が経済成長率を上回ると説きます。日本に住む多くの人は、資本収益率も経済成長率も触れる機会の少ない概念でしょう。端的に表現すると投資家は効率よく財産が増えることでより栄え、市民は財産形成に苦労するということになります。
筆者は10年以上ファイナンシャルプランナーの仕事に従事しており、色々なご家庭の資産運用の状況を見てまいりました。その中で、富裕層とよばれる金融資産が1億円以上の人と富裕層に入らない一般の人との違いとは何かを、資産運用という観点からお伝えします。
前回の債券投資に続き、今回はヘッジファンドについて解説いたします。ヘッジファンドとは、市場の値動きの上げ下げがあっても着実な利益を確保することを目標に、金融の技術をフルに活用して資産運用をする会社であり、運用商品です。
ヘッジファンドの悪いイメージ
ヘッジファンドという言葉を初めて聞く人の方が多いでしょう。ヘッジファンドを知っている人は、新聞から情報を得ている場合悪い印象を持っている人もいるでしょう。日本ではヘッジファンドという言葉は謎の投機集団のように捉えられています。
株式市場の暴落原因、為替の大幅な値動きはヘッジファンドの影響とニュースになることもあります。筆者は友人がヘッジファンドに勤めていたり、過去にヘッジファンドで働いていたり、ヘッジファンドのファンドマネージャーであったりと、ヘッジファンド関係者からお話を聞くことがあります。
ヘッジファンドも様々あり、着実な投資成果を求める運用から、積極的な成果を得ようとするファンドまでひとくくりにはできない多様性があります。現実にはヘッジファンドは情報が公開されていないため、よくわからないというのが本当のところだと思います。海外では投資先として認知されており、アメリカでは確定拠出年金の投資先に組み込まれるという話もあります。
過去のヘッジファンド業界の著名人はジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズなどがいます。
ヘッジファンドの運用体制
ヘッジファンドの運用体制は大きなファンドであれば、投資信託と同様にチーム制となっています。単純に考えると調査する人と投資の意思決定をする人に分かれます。大きなファンドであればファンド全体の経営と投資の意思決定を兼ねていることもあります。
筆者が知るあるヘッジファンドは運用者自らの資金と顧客の資金を一括して運用しています。このファンドの場合、運用者の利益と資金提供者である投資家の利害は一致します。ファンドとして利益を出すこと以外にありません。
運用者の利益を出すというベクトルと利益を出して資産を増やしてほしいという投資家のベクトルは一緒になります。
ヘッジファンドと投資信託の哲学の違い
ヘッジファンドの最大の特徴は絶対利益の獲得です。絶対利益とは相場の状況にかかわらず利益を上げ続けること。マイナスの成果は期待されていません。
投資信託の場合は、相対的な評価となりますので、下げ相場であれば、基準とする日経平均やTOPIXのような市場平均に対してどの程度上回ったかという評価になります。従って、TOPIXが5%下落しましたが、ファンドは4%下落したのでファンドとしての成果は出ている、という場合投資信託であれば市場に勝ったということで評価されます。一方でヘッジファンドの場合は、TOPIXが何%下落しようが、利益はプラスを求められます。当然、TOPIXがプラスの値動きであれば、それ以上の成果を求められるのです。
他にもヘッジファンドごとに投資哲学が定まっており、運用哲学に沿った成果が求められるのも投資信託とは違います。
富裕層のみ許された投資先
大きなヘッジファンドになると運用資金は兆円単位になります。投資内容がブラックボックスにあり投資内容が公開されていないため、投資信託には当然のディスクロージャー(情報公開資料)はありません。
従って、投資するかの判断は知名度、過去の成果、運用哲学次第となります。もちろんファンドとしての資料はありますが、日本の投資信託のように事細かく開示されることはありません。
投資については常に門戸が開かれているわけではなく、ファンド立ち上げの時だけ募集するファンド、定期的に資金を募集するファンド、非定期に資金を募集するファンド、常時資金を募集しているファンドがあります。
資金の引き受けを行うかはファンドの判断となり、お金を持っていれば誰でも投資できるわけではありません。例えば日本から投資する場合、特定の会社を通さなければ投資させてくれないということもあります。最低投資金額が高額なのも特徴です。投資しやすいファンドは10万ドルから、一般的には100万ドルからともいわれています。
気になる運用成果は?
ヘッジファンドもピンからキリまであり、いい成果のファンドもあれば悪い成果のファンドもあります。筆者が情報を得ているファンドは投資手法がそれぞれ違うのですが、毎月安定プラス収益をあげるファンドから、値動きが大きいものの市場を大きく上回る成果を上げるファンドまで様々です。息の長いファンドは毎年着実に10%近いプラスの運用を続け、一方で成果の出ないファンドは解散していきます。運用成果は過去のパフォーマンスを確認するしかありませんが、投資の基本戦略が定まっているため、おおよそどの程度の利回りの範囲に入るかは目星がつけられます。
今回のヘッジファンド、前回の外国債券が、日本人投資家に不足しているパズルのピースです。自分で株式を売買することを楽しむことも知的格闘技としては楽しいかもしれません。しかし、資産を増やす、成長させるということを考えた場合には、個人での運用では限界があります。今後、日本国内でもヘッジファンドの購入が一般的になることで、日本人の資産運用に対する認識は大きく変わるでしょう。
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