卵巣未分化胚細胞腫、残存卵巣を切除すべきか
Q 20歳代の女性です。令和2年2月、腹部に痛みがあり、内科クリニックを受診。便秘と診断され、内服薬を処方されました。3月に激痛となり、総合病院を紹介され、CT(コンピューター断層撮影)検査の結果、婦人科系病気の可能性が高いとのことで婦人科のある総合病院で入院となりました。検査で左の卵巣の茎(けい)捻(ねん)転(てん)と診断され、左の卵巣と卵管を摘出。右の卵巣には腫瘍が見つかり、腫瘍のみ切除して一部を残しました。診断は卵巣未分化胚細胞腫です。5月から化学療法「BEP療法」(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチンの3剤併用)を開始し、8月まで4クールを終えました。主治医からは残っている右の卵巣の切除を勧められました。
A 今回のケースの未分化胚細胞腫は、卵巣がん全体の1%ぐらいと少数です。卵巣がんの約90%は、卵巣表面の被覆上皮から発生する腺がんです。
未分化胚細胞腫は、卵巣表面の被覆上皮の下にある胚細胞が、がん化するものです。ちなみに胚細胞は出生時には左右の卵巣に合計400万個ぐらいありますが、加齢とともに徐々に減り、20歳で約20万個に、50歳頃の閉経時にはゼロ個になります。
Q どのような治療方法が一般的ですか。
A 卵巣未分化胚細胞腫は抗がん剤によく反応します。そこで最近は腫瘍のある側の卵巣・卵管を切除して、BEP療法で治療するのが標準的な治療となっています。しばしば腹部大動脈周囲のリンパ節転移が生じますが、BEP療法の4サイクルで制御できることが多いです。ただ、BEP療法は間質性肺炎という致命的な合併症を起こすことがあります。このリスクがあるため、再発した場合にこのBEP療法を十分に使えなくなります。
一方、卵巣の腺がんでは、原発(元のがん)の卵巣腫瘍の切除に加えて、対側の卵巣、子宮、大網、骨盤・傍大動脈リンパ節の切除を行うのが標準治療ですが、これにより妊娠の可能性はなくなります。
Q 残りの卵巣を切除するか、決断がつきません。
A 今回は左の卵巣の茎捻転を治療するための緊急手術でした。茎捻転は卵巣の栄養血管が通過する卵管間膜が360度ほど、何らかの原因でねじれるもので、激痛が起きたのはこのためでした。手術では左の卵巣・卵管は切除されました。しかし、右の卵巣は腫瘍のみの切除となり、卵巣の一部が残存しています。もし、この残存卵巣を切除すると、妊娠の可能性が失われます。妊娠可能な状態を保つために温存手術を適用することもあります。
Q 治療を優先するか、妊娠の可能性を残すかの選択でしょうか。
A 90%以上の寛(かん)解(かい)を期待するために、生命優先で残存卵巣を切除するのが標準治療です。ただ、妊娠の可能性などを考えれば、悩み深い判断になります。(構成 大家俊夫)
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【ミニ解説】若年男女に多く発症
未分化胚細胞腫は、若年の男女に多く発症する疾患だ。女性は卵巣胚細胞、男性は精子の母細胞から発生し、しばしば、腹部大動脈周囲のリンパ節に転移する。
男女の未分化胚細胞腫の治療について、瀧澤医師は「原発の卵巣あるいは精巣の切除に加えて、BEP療法を4~6サイクル受ければ、90%以上は寛解します」と解説する。
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回答は、がん研有明病院の瀧澤憲医師(婦人科前部長)が担当しました。
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