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増える土砂災害への生活防衛 火災保険の水災補償を検討しよう

高橋成壽

 近年、大雨や豪雨による土砂災害が増加しています。土砂が崩れただけでなく住宅が埋もれた場合は生活できないため、避難生活を余儀なくされます。避難中だとしても住宅ローンの支払いは必要ですし、土砂の撤去や汚れた自宅の復旧、利用不能になった家電や家具、衣類やその他の生活必需品の買いそろえにはまとまった資金が必要です。義援金も頼りになりますが、いつまでに幾ら支払われるのかわかりません。罹災者向けの税制や措置についても直ちに生活を復旧できるほどの金額を期待することはできません。自衛の最有力手段となるのは火災保険です。

 「風災」「水災」も補償範囲に含めるか

 火災保険という名称から、家が火事になったときの保険と思われがちです。しかし、実際はいろいろな災害による損害に応じて保険金が支払われる仕組みとなっています。

 火災保険といってもどんなリスクから財産を守るか、リスクの範囲を決める必要があります。リスクの範囲が広いほど保険料が高くなり、リスクを限定するほど保険料が安くなります。

 基本は火災リスク。火災保険はその名の通り、火災、落雷、破裂・爆発による財産の被害を補償します。わかりやすいのは火事でしょう。家が燃えてしまった場合に、自宅を再建したり修繕したりするにはまとまったお金が必要です。火事の被害を復旧させるのに損害保険金が支払われるのです。

 住宅の設備によっては、オール電化で火事になることはないと考える人もいるでしょう。しかし、家事には2種類あるのです。1つが自宅からの出火、もう1つがもらい火です。日本では失火責任法という法律があり、重過失や悪意なく自宅から出た火が近隣の家に燃え移ったとしても、火元は隣家の火事に対して責任を負わないことが決まっています。従って、自宅からの出火がなくても、隣家からのもらい火リスクがある場合には火災リスクがあると考えるべきでしょう。

 他には風災、雹(ひょう)災、雪災などの風災リスクがあります。台風がきて屋根が壊れた場合や大雪で自宅が被害を受けた場合等を補償します。

 今回のテーマに沿ったリスクだと、水災リスクがあります。床上浸水や地盤面より45センチを超える浸水、損害割合が30%以上の場合など、保険会社によって多少基準が違いますが、建物が水没したり、土砂災害にあったりした場合を補償します。

 3割が水災補償を未設定

 損害保険料率算出機構によると、新規契約の火災保険のうち水災補償をつけている割合は、2014年度に75.2%であったものが、2018年度に69.1%に落ちています。火災保険の3割は水災補償がついていないことになります。

 付保率が低下している理由についてははっきりとわかりません。1つ考えられることは、マンションなどの共同住宅では水災リスクがないと考えて、水災リスクを補償しない設定の火災保険に加入している可能性があります。

 火災保険の補償内容を充実しようと水災補償を付けると、保険でカバーするリスクの範囲が増えますので保険料が高くなります。水災を補償しないと保険料が安くなるのです。保険料を安くするノウハウとして水災補償を外すという記事を読んだことのある方もいるでしょう。

 たしかに保険料を下げるための節約テクニックとしては1つの方法なのですが、実際には水害の被害を受けた場合には、誰にも助けてもらえないわけですから、安易に補償を減らす前に専門家に相談するべきでしょう。

 かつては35年の長期契約が当たり前

 火災保険の3割は水災補償が付帯していないのですが、火災保険は要注意事項がいくつかあります。

 1つ目は35年などの長期契約を締結しているケースが多いことです。今は火災保険の最長契約期間は10年ですが、それ以前の火災保険は住宅ローンの借入期間である35年の長期契約に加入することが当たり前でした。住宅ローンの貸し手である銀行などの金融機関が、火災保険の保険金に質権を設定し、いざ火災などが発生した場合に、保険金と住宅ローンを相殺することができるようにしていたのです。

 このような長期契約が当たり前であった時代には、火災保険は普通火災保険と住宅総合保険という名称で、火災リスクのみ補償するプランとあらゆるリスクを補償するプランの2つしかプランを選ぶことができませんでした。

 火災リスクのみであれば保険料が安くなり、あらゆるリスクを補償すると保険料は高くなります。35年の長期契約の場合、長期契約の割引があるとはいえ、35年分の保険料を一括払いします。そのようなケースであえて高くなる保険を選ぶ人がどれだけいたでしょうか。おそらく、ほとんどの人が火災リスクのみを補償する普通火災保険を契約したことでしょう。

 今でこそ、各種リスクを付保する・付保しないを選択できますが、かつては火災リスクかオールリスクか、安いか高いかの選択だったのです。今のように水害が多くなければ火災リスクのみのプランを選ぶことが合理的であったと考えられます。

 知らぬ間に期間満了で無保険状態も

 もう1つの注意事項は、35年経過した火災保険が更新されていない場合があることです。2019年に千葉で台風による被害が発生した際、保険期間が切れていて無保険状態の住宅があったということです。しかも、その事実に住宅の所有者が気付いていなかったというのです。なぜ知らずに保険期間が終わっているということが起こるのでしょう。

 自動車保険のように毎年保険の更新が必要であれば、年に一度は保険代理店と接点ができます。自動車保険は事故の有無などで保険料が割り引かれますから、安全運転をする誘因があるのと同時に、契約更新に伴い契約の存在を認知することになります。

 一方で火災保険は、住宅ローンの借り入れ条件になっているため仕方なく加入しますが、加入者が好んで契約していることは少ないと考えられます。従って、一度長期契約を締結すれば、35年間何事もなく過ぎてしまいます。そもそも火災保険に加入しているかどうか覚えていない人も多くなるのです。

 毎年更新する火災保険であれば、都度補償を見直せます。近年の水害の大規模化や頻発などを考慮して、住宅購入当初には付保しなかった水災リスクを加えることもできたはずです。いつの間にか保険が終わっていたり、昔のままの契約になっていたりすれば、当然保険金の支払い対象から外れてしまいます。

 火災保険と同様に、家財保険も似たような状況です。そもそも家財保険に加入していないご家庭も多いでしょう。

 保険に加入していなければ、災害による被害にあっても補償されることはありません。これは保険料を払っていないのですから当然です。

 しかし、知らぬ間に保険期間が満了していたり、加入した時と状況が大きく変わり現実と合わない補償のままであったりしたら、残念では済まされません。

 保険に加入している場合は毎年保険会社からお知らせが来ているはずですから、補償内容を改めて確認してください。保険会社から何の連絡も来ていない場合には、保険期間が満了している可能性があります。昔の保険証書を探し出して保険会社に契約の有無を確認しましょう。損害保険会社は合併を繰り返し昔の名前と今の社名が大きく異なる場合もありますが、社名が変更になっても契約情報は残っています。ご自身の火災保険が有効か確認することをお勧めします。

 万が一火災保険に加入していないことがわかったら、近隣の保険代理店を探して水災を付保した火災保険の見積もりを作ってもらい加入を検討しましょう。

 もし、保険料負担に悩んだら、家財保険より住宅の火災保険を優先するとよいでしょう。理由は、保険金額の桁が違うからです。住宅は数千万円、家財は高くても数百万円です。いざというときに家具が無くても生活できますが、家がなければ生活ができません。生活再建のためには大きな金額の補償を優先して検討するとよいでしょう。もちろん資金に余裕があれば、両方加入がお勧めです。他に、地震保険の加入も忘れないようにしましょう。住宅を保有していると維持のための火災保険料もそれなりの金額になってきます。持ち家の維持コストと諦めてしっかりとリスクを踏まえた内容での加入があなたを助けることになるでしょう。

高橋成壽(たかはし・なるひさ) ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

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