東海道・山陽新幹線には「ドクターイエロー」と呼ばれる黄色い新幹線が走っている。正式名称を「新幹線電気軌道総合試験車」というその車両は、東海道・山陽新幹線(東京~博多間)の線路や電線など設備の点検を行う保守作業車だ。
黄色いわけ
ドクターイエロー最大の特徴は、最高速度270km/hで日中、営業列車の合間を縫うように走行しながら電気設備や線路などの状態をチェックできることだ。1964年の新幹線開業当時は、試作電車を改造した電気試験車と、夜間にディーゼル機関車でけん引する軌道試験車によって別々に検測していたが、山陽新幹線開業後は検測の効率を向上すべく、1974年に電気試験車と軌道試験車を併結した総合試験車が開発された。この車両が黄色の塗装をしていたことから「ドクターイエロー」と呼ばれるようになったようだ。
JR東海によると、ドクターイエローが黄色い塗装をしているのは、新幹線の保守作業車は、暗い夜でも目立つように車体に黄色を使うという規定があるためだという。ただ、同じ黄色といっても、先代のドクターイエローが濃い黄色の塗装だったのに対し、現行のドクターイエローは、より明るいフレッシュイエローの塗装をしている。
現在活躍するドクターイエローは、2001年に導入された4代目「T4編成」と、2005年に導入された5代目「T5編成」の2編成だ。今年3月に引退した新幹線「700系」車両がベースとなっており、今となっては懐かしい「カモノハシ形」の顔をしている。T4編成はJR東海が所有、T5編成はJR西日本が所有しているが、ともにJR東海の大井車両基地を本拠地にして、交互に運用されているそうだ。
測定項目は?
ドクターイエローはどのような項目を試験しているのだろうか。ドクターイエローは7両編成で、1~3号車、6号車が電気測定関係、4号車が軌道測定関係の車両になっている。その他の車両には係員用の休憩室や、添乗者用の座席が用意されている。
電気関係の測定項目は、電圧、電流など電気設備の状態や、電車に電気を供給するトロリ線の摩耗、偏位、高さ、パンタグラフと電線の離線発生状況など架線設備の状態、またATC(列車自動制御装置)の信号電流や、列車の在線を検知する軌道回路電流など信号保安設備の状態、列車無線設備の状態など70以上の項目を検測している。
軌道はレーザー光線を用いたレール変位センサーで検測しており、線路の歪みをミリ単位で把握することができる。これら検測データをもとに、地上設備の保守・管理を行うことで、新幹線の安全・安定輸送を確保している。
「のぞみダイヤ」と「こだまダイヤ」
ドクターイエローは「のぞみダイヤ」と「こだまダイヤ」の2種類の検査ダイヤで検測を行っている。「のぞみダイヤ」では主に本線における高速走行時のデータを検測しているのに対し、「こだまダイヤ」では主に副本線(待避用の線路)のデータを検測している。のぞみダイヤにおける検測頻度は10日に1回程度、こだまダイヤにおける検測頻度は、電気検測は3カ月に1回、軌道検測は2カ月に1回だという。
検測は東京~博多間を一括して行われており、新大阪駅でJR東海の検測員とJR西日本の検測員が交代している。車内には運転士と車掌が1名ずつ、検測員が7名乗務している。ドクターイエロー専門の運転士はおらず、通常の営業線を担当している新幹線の運転士が運転しているという。
すぐに引退することはない
気になるのはドクターイエローの今後である。JR東海は、現在導入を進めている新型車両「N700S」型の一部編成に「トロリ線状態監視システム」「ATC信号・軌道回路状態監視システム」「軌道状態監視システム」を搭載し、2021年4月に営業運転をしながら地上設備の観測を開始すると発表している。
既にJR九州は、同様の装置を営業列車に搭載し、「ドクターイエロー」を用いることなく、線路の状態を検測しており、将来的には、10日に1度走行する専門の総合試験車両ではなく、毎日走行する営業列車に観測システムを設置して、より高頻度の検測体制を構築することになるのかもしれない。ただ、JR東海によれば現在のドクターイエローは当面、継続して使用する予定ということで、すぐに引退してしまうということはないようだ。
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