動物たちは休園中どう過ごす? 繁殖、掃除…そして昼寝も
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で臨時休園が続く大阪市天王寺動物園(同市天王寺区)。新緑の美しい初夏は例年ならば遠足や家族連れでにぎわうシーズンだが、約180種千点の生き物を飼育する動物園から子供たちの歓声が消えた。そんな静まり返った園内で、動物たちはどのように過ごしているのだろうか。様子が気になり、5月上旬、休園中の動物園を訪ねた。(上岡由美)
動物たちも人間観察!?
「動物たちは元気ですよ。ドリルとかマンドリルはあまり人がいない方がいいみたい。チンパンジーなんかは普段、来園者に草を投げたりして反応を見ているので、お客さんが来なくなって刺激がないかもしれないなあ」
こう話すのは獣医師の西岡真(しん)さん(51)。普段から“ステイホーム”状態の動物たちも、檻(おり)やガラスの向こうから人間を観察しているとは驚き。「とりあえず様子を見にいってみますか」。西岡さんについて誰もいない園内を歩く。
園内は初夏を歓迎するかのように藤棚のフジが満開だ。園路は自転車に乗った職員が行き交い、至るところで清掃作業に精をだしていた。
「樹木の管理などは、来園者がいたらトラックが中まで入れないけど、今ならまとめてバッサリやれる。水をぬいてのプール清掃もお客さんがいないのですぐにできます」
休園中の園内は掃除がしやすいようで、きれいだ。ただ、動物の世話に関しては、休園中も内容を変えるわけにはいかない。従来ローテーションで勤務している飼育員は、緊急事態宣言後も順番を崩さず仕事に励んでいた。
クロサイのグラウンドの前に出た。大物カップルのライ君とサミアちゃんが、大好きなカシノキをバリバリ食べていた。時折、頭を寄せ合い、まるでヒソヒソ話をしているよう。
悲しみを乗り越えて
人気エリアの一つが、生態的展示の「アフリカサバンナゾーン」。ライオンやキリンなど複数の種類の動物を一緒に混合展示しているのが特徴で、大阪にいながらアフリカを感じることができる。
草食動物エリアに入ると、エランドのミナミちゃんが「なんかくれへんかな」という顔でこちらをじっと見ている。そこに現れたのがキリンの幸弥(こうや)君。網目模様の色が濃い、なかなかの男前だ。向こうにハルカスちゃんがいるのに、西岡さんの前を行ったり来たりして、なかなかこの場を離れようとしない。人恋しいのだろうか。
天王寺動物園の休園中の大きな出来事といえば、4月7日に生まれたキリンの赤ちゃんが1週間後に死んだことだ。平成30年5月に生まれた子もすぐに死亡したので、「今度こそ」と期待していた担当者らを悲しませた。
動物園では死と向き合う一方、希少動物の種の保存にも力を入れている。休園中だからこそ落ち着いて実施できる仕事がこの繁殖だ。
この休園中、ジャガーのペアの同居が試みられた。2年前にパートナーを失った雌のルースと、昨年上海からやってきた雄のロンだ。半年以上、別の放飼場に入れて、檻越しのお見合いをしてきた。
大型動物の初めての同居は、けんかが起きては大変なので緊張を強いられる。通常であれば定時休園日に行われるが、今回は長い休みの間にゆっくり取り組んだ。静かな環境のせいか、さっそく交尾を始めたといい、繁殖への期待は高まる。
ちなみに同園のスター、ホッキョクグマのゴーゴとイッちゃんも初めての繁殖シーズンを迎えたようだ。休園中で熱愛の様子が見られないのは残念だが、ぜひかわいい赤ちゃんの姿を見せてほしい。
センイチに恋をして
肉食動物エリアに差しかかると、木陰で雄のライオンが爆睡していた。「ライオンは普段でも寝ているんですけど、今はもっと寝ている」(西岡さん)。野生のライオンはいざというときに力を発揮するため寝て力を蓄えるが、開園中の動物園ではどうしてもお客さんが手をたたいたり、大きな声で呼んだりしてよく起こされてしまう。今はストレスから解放されているのかもしれない。
さて、同園の人気投票で常に1、2位を争うのがアムールトラ。理由はプロ野球の阪神ファンが多いからとか。名前も、かつて阪神タイガースを率いた星野仙一監督から命名された。昨年9月に飼育していた虎二郎(こじろう)が死に、同園のアムールトラはセンイチだけ。雄では国内最高齢の16歳。
帰り際、室内展示室をのぞくと、センイチと目が合った。ゆっくりと体を起こし、悠然とたたずむ姿は迫力満点。格好いい!
ガラスの方へ近づいてきたかと思うと、クルリと方向転換。しかし、こちらが歩きだすと再びガラスに近づき、頭をコツンコツンとぶつけてきた。まるで「行くな」と言っているようだ。
再開日はまだ決まっていないが、動物たちはいつもと変わらぬ姿で、その日を待っている。