逆境の「無観客」が追い風に 地方競馬アフター5が好調
コロナ禍でほぼ全てのスポーツイベントがストップする中、競馬は無観客ながらも開催が続けられている。なかでも売り上げ好調な地方競馬を引っ張るのが、アフターファイブに開催される「薄暮競馬」「ナイター競馬」だ。外出自粛で娯楽が限られる中でも仕事の後にインターネット上で気軽に楽しめるとあって、園田競馬場(兵庫県尼崎市)では馬券の売り上げが前年から倍増する日も。地方競馬の収益の一部は宝くじと同様に自治体の財源に充てられることもあり、各地で導入の動きが相次いでいる。(岡野祐己)
1日の売り上げ12億円
安倍晋三首相が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、スポーツイベントなどの自粛を要請したのは2月26日。これを受け、中央競馬も地方競馬も直後から無観客での開催に切り替え、馬券は電話、インターネットでの発売のみとなった。
園田競馬場でも無観客開催が続く中、開催8日目の3月17日、中央競馬が行っていない薄暮競馬の実施に初めて踏み切った。最終レースを普段より約2時間遅い午後6時半頃に設定し、3月は6日間実施。4月からはさらに時刻を遅らせ、午後7時頃の最終レースとした。
運営する兵庫県競馬組合や地方競馬全国協会(NAR)によると、3月の売り上げは無観客にもかかわらず前年比約12%増の約58億1500万円。薄暮競馬の実施日をみると、平日の4月21日は約8億1千万円、連休期間中の5月5日は約12億円に上り、ともに前年同時期からほぼ倍増した。同組合の担当者は「仕事を終えてから馬券を購入される方が増えているのでは」と分析する。
無観客が追い風に
園田競馬場ではもともと、最終レースが午後8時半頃となるナイター競馬を平成24年から行ってきた。ただ、開催は毎年5~11月頃の金曜日限定。ナイター競馬の場合、観客が周辺の住宅街を通って帰途に就くのは夜になる。このため住環境に配慮し、住民や兵庫県警との間で開催は週1回と合意を交わしているからだ。
だが無観客開催となったことで図らずもその問題は解消され、薄暮競馬の実現につながった。レース開始が遅くなれば競馬関係者の出勤時刻も通勤ラッシュと重ならず、「3密」を避ける効果もあった。
5月15日からは例年通りのナイター競馬も始まるが、同組合は「ナイター以外に、薄暮競馬もどれぐらいの頻度で実施できるか」とさらなる売り上げアップを図る。
全国のトレンドに
日本でナイター競馬が初めて開催されたのは昭和61年7月。売り上げ減に苦しんでいた大井競馬場(東京都品川区)が、土日の開催で注目度も高い中央競馬との差別化を図るため、平日に仕事を終えた後でも足を運びやすいように始めたのがきっかけだった。
その後、地方競馬の馬券も日本中央競馬会(JRA)のインターネット投票システムで購入可能になり、昨年は地方競馬の売り上げの4分の3を電話・ネット投票が占めた。全国どこからでも時間を気にせず馬券を購入できるようになったことが、薄暮・ナイター開催が増える大きな要因となっている。
佐賀競馬場(佐賀県鳥栖市)は昨年、場内にナイター用の照明を設置し、今年4月から最終レースの発走を1時間遅らせて午後7時10分にした。前年比で約2割売り上げが伸びており、今後はさらに遅い時間帯のレースも行う計画だ。担当者は「ネット投票なら、遅い時間のレースでも買ってもらえる」と話す。
照明設備がない浦和競馬場(さいたま市南区)も、日が長くなる夏場はレース時間を遅らせる予定。施設が老朽化していた名古屋競馬場(名古屋市港区)は令和4年4月に愛知県弥富市へ移転し、ナイター用照明付きの新競馬場をオープンさせる。NARの担当者は「売り上げアップが見込める薄暮競馬やナイター競馬は、地方競馬のトレンドになりつつある」としている。