【ブランドウォッチング】ステイホームの味方「カトキチ さぬきうどん」 癒される実直ブランディング

 
愚直なパッケージが伝えるブランディング
ストックできる冷凍食品は巣ごもり生活の味方
冷凍麺だけでもたくさんのバラエティー
冷凍ケースには驚くほどのバラエティーの冷凍食品

 新型コロナウイルス流行によるステイホームの毎日、日常の食材や必要物資を買いにスーパーに出かけると、今までは気にも止めていなかった棚の光景や商品群がなぜか非日常的で新鮮に感じられました。仕事もプライベートも外出を控える毎日の中で、最低限の外出機会のワクワク感がそうさせるのかもしれません。

 スーパーマーケットのエンターテインメント性

 奇しくもコロナショックがあまりに未曾有の事態であるだけに、我々にとって今まで当たり前と考えてきた仕事の仕方、生活スタイルなどすべてを一度ゼロベースで考え直す機会となっています。不要不急などという言葉が飛び交い、ついつい「不要不急」を除いた生活はどんなものだろうかなどと普段考えないようなことを考えてしまったりします。例えば、こうやってスーパーマーケットに溢れんばかり陳列されている商品。ほとんどすべてに商品名があり、それぞれに個性的なパッケージデザインがあります。まさにブランディングがされているわけですが、もしパッケージに何のデザインも商品名もなく、ただ中身が見えるだけの状態で商品が陳列されていたら我々はどう感じるのでしょうか。ある意味エコロジカルと言えるかもしれません。事実ミニマリズムの潔さを売りにしている商品で人気があるものも少なからずあります。

 こんなときブランディングを推奨している立場から教科書的に言えば、ネーミングやパッケージはその製品の魅力や特徴を生活者に伝える役割があり、マーケティング的な投資効果も高いというようなお話をすることになります。でもそんな理屈は置いておいても、単純に、全国の色々なメーカー、色々な製品が個性や特徴を競い、生活者の興味を誘う状態自体、すでに立派なエンターテインメントに違いありません。普段は当たり前と思っていた経済活動の基盤さえ揺らぎかねない危機に直面し、あらためて市場経済の活力やありがたさを感じずにはおれません。

 巣ごもりに手軽で重宝な冷凍食品

 そんな四方山を考えながら品定めをしていると、普段なかなか意識がいかない冷凍食品のケースで足が止まりました。まさに、家に籠る生活の強い味方です。先の見えない状況では何よりストックできる特性がありがたく、刺激の少ない自宅生活で妙な時間に小腹が減ったりするときにも手軽で重宝するのです。

 実際、コロナ対策の自粛と比例するように販売も好調とのことで、各社増産が報じられています。何より冷凍技術の進歩は近年凄まじく、食品のバリエーションや美味しさの進化には驚くべきものがあります。あらためて冷凍ケースの前に立つと、圧倒される迫力のカテゴリーと言えるかもしれません。

 パッケージも、調理仕上がりのイメージ写真を“どーん”と出した、分かりやすさが身上。最大出力カットのパッケージイメージ写真と実物に多少の落差があるのはご愛敬でしょう。

 本格的な食感が大人気の冷凍うどん 

 さて、そんな冷凍食品の中でも常にトップクラスの市場規模を確保しているのが冷凍うどんです(日本冷凍食品協会より)

 電子レンジで3~4分ほど加熱するだけの手軽さの一方で、本格的過ぎるコシとツルツル感の美味しさは初めて食べると衝撃を受けるほどです。しかもお値段もかなりリーズナブル。ネット上でもその味の本格さが話題となり、口コミが人気を後押ししたことで年々堅調に売上を伸ばしています(冷食日報より)

 讃岐うどんの名店を感じさせるたたずまい

 あらためてトップブランドの「カトキチ さぬきうどん」のパッケージを見ると、あっけないほどのシンプルさ。失礼ながらデザインという意図が感じられないといったらよいのでしょうか。かなりの自然体です。

 でも加ト吉ブランドの由来を聞いて納得しました。

 1956年香川県観音寺市、讃岐うどんの本場で生まれたのが加ト吉とのことです。その後、JTによる買収などを経てテーブルマークという社名になっていますが、この「さぬきうどん」など一部商品では伝統の「カトキチ」ブランドを残しているとのことです(現在のテーブルマーク本社が旧築地市場隣接というのも、生粋の食品企業感があります)。

 そんな由来を聞くと、確かに本場の美味しいさぬきうどん屋さんも決して趣向を凝らした様子でないなと思い当たります。農家さんなんだか民家だかわからない看板が出てないお店こそ、地元の常連さんが太鼓判を押す店だったりします。そんな都会人が考えるマーケティング的な”しゃらくささ”の対極をいくような在り方に、食べ物を提供する人やお店としての誠意がお客さんには伝わるのかもしれません。逆に言えば、外見ばかりにこだわって、肝心の味や品質が二の次というのはこと食べ物に関してはまったく魅力がありません。

 そういう意味で人気の冷凍うどんトップブランドの「カトキチ さぬきうどん」パッケージからは、そんな食品としての真っ当さや実直さが自然とにじみ出ているように感じられます。

 パッケージデザインやネーミングの提案をしている我々からすれば、それでOKで良いの? という部分はありますが、ブランディングの本質は、何も装飾したり演出したりすることではなく、その会社、製品の持っている本質的価値を表現し伝えることです。そういう意味では「カトキチ さぬきうどん」のブランディングは非常に成功しているように思うのでした。

【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら