ヘルスケア

アンチ・ドーピングにも新型コロナ感染拡大が影 スポーツの公平さに課題

 新型コロナウイルスの感染拡大は、スポーツの公平さを保つためのアンチ・ドーピング活動にも影を落としている。人同士の接触を避けるため、ロシアやカナダなどの反ドーピング機関は検査を一時的に停止した。来夏の東京五輪をクリーンな大会とするには世界的な新型コロナ禍の収束と、検査態勢の再起動が不可欠だ。(宝田将志)

 抜き打ち検査難しく

 「アスリートの検査に関連して多くの課題に直面している。プログラムの中断の影響を軽減するため、状況を注視していく」。各国の反ドーピング機関を束ねる「世界反ドーピング機関」(WADA)のウィトルド・バンカ委員長は東京五輪の延期決定後、こう述べた。

 現在、選手に検査を課すべき試合自体が行われていない。また、競技会外での抜き打ち検査も難しくなっている。多くの国に移動制限が掛かり、感染を防ぐための「ソーシャル・ディスタンス」が徹底されているためだ。こうした中、WADAなどは、選手の居場所情報の更新など、できる範囲の活動を継続しているといい、米国反ドーピング機関(USADA)も自宅にいる選手に対し、テレビ会議システムを活用した遠隔検査の試行を始めている。

 重要度増す大会前検査

 違反の手口が巧妙化する近年は五輪本番から違反者を締め出すため、大会前の検査が重要度を増している。2016年リオデジャネイロ五輪に際しては、違反リスクの高い10の競技・種目の選手をはじめ、収集した情報に基づいて1333人に検査を実施し、大会前に20件の違反を摘発した。20年東京五輪に向けても、IOCや各国反ドーピング機関などが連携する取り組みが本格化していた。

 「東京五輪が来年に延期されても、同じようなプログラムで動いていくことに変わりはない」。こう語るのは、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の浅川伸専務理事だ。250~300人と言われる国内の検査員は確保済みという。

 18年平昌五輪におけるWADAの独立監査レポートは、情報に基づく検査活動について「大会開始の12カ月前から展開すべき」と提言している。スポーツと五輪の価値を守るのに欠かせない世界的なアンチ・ドーピング活動。今後どの段階で、選手たちが試合や合宿を再開させ、検査員が従来通り活動できるようになるかがポイントになりそうだ。

 処分が明けた選手は?

 東京五輪の開催が1年延期されたことで、来年までにドーピング違反による資格停止期間を終える選手が出てくる。本来は挑戦が許されなかった五輪に出場することは認められるのか。USADAのトラビス・タイガート委員長はロイター通信の取材に「熟考し、決断しなければならない多くの複雑な問題の1つだ」と指摘する。

 スポーツ仲裁裁判所(CAS)は2011年、「ドーピング違反で6カ月以上の資格停止処分を受けた選手は次の五輪に出場できない」とする国際オリンピック委員会(IOC)の規定を無効と裁定。12年には、「ドーピング違反歴がある選手は五輪代表に選ばない」とする英国オリンピック委員会の規定を「二重制裁」に当たるとして認めなかった。いずれも処分期間を終えた選手の資格回復に理解を示しており、CASで争うことになった場合、選手の権利が尊重される可能性は高いとみられる。