自宅でも学びは続く
新型コロナウイルスの影響で、ここ数カ月の間、日本国民の生活が少なからず変わりましたね。私が経営しているインターナショナルスクール「GGIS」の生徒とそのご家族、私自身ももちろんその一人です。変化のひとつが、GGISに通う3歳と10カ月の息子たちを自宅で見られるときは見ていることです。また、その関係でオンライン授業を受けるようになったことです。実をいうと、私はもともと、子どものオンライン授業に懐疑的でした。
- 「保育所に預けるのとは違う。親の時間が増えるわけではない」
今回は「オンライン授業」について、GGISの実施例をご紹介するとともに、一人の親として体験を通じての考えを綴りたいと思います。
0~12歳が通うGGISは、インターナショナルスクールではありますが、「保育所」として東京都や区の方針に従い、また「学童」として、仕事をする必要がある保護者のために外出自粛要請が出ている今も開校しています。ただ、自宅保育をしているご家族や週末に出かけられないお子さんのために少しでもなにか出来ないかと、開校と並行してオンライン授業も実施しているのです。
オンライン授業 対話がカギ
GGISがオンライン授業を始めるにあたって、もっとも重視したのは「子どもたちが喜んで言葉を発すること」「オンライン学習を楽しいと思ってもらうこと」です。オンライン教育で、詰め込み教育、暗記教育をしても、それは苦行です。子どもたちは面白みを感じず投げ出してしまいます。なによりも、つまらないものをやらせなければならないと思うと、自宅で寄り添う親も大変です。
「どこにいるかな」
GGISでは、オンライン授業の際、「Seesaw(シーソー)」というアプリを使っています。日本ではまだあまり普及していませんが、アメリカでは未就学児から使えるアプリとして有名で、アメリカの4分の1の学校で使っていると言われています。
GGISには0歳から12歳と幅広い年齢層が通っています。そのため、オンライン授業は、3つのクラスを用意しています。
- ・ベビークラス(0-2歳)
- ・幼稚園クラス(3-6歳)
- ・小学生クラス
例えば、ベビークラスの授業の一つに「ストーリータイム」があります。本の読み聞かせです。先生が本を読むだけでは退屈です。「あれ、今何が見えたかな?」と子どもたちに話しかけるように心がけています。絵を見せて、「ゾウさんがいるよね」よりは「どんな動物がいるかな」と問うことが大事です。
対面の読み聞かせだと当たり前に先生が行っていることを、オンラインにしただけ、と言われればそのとおりです。相互のコミュニケーションこそ、オンライン授業を成功させるか否かの分岐点になると考えています。
親御さんが子どものヨコに座って、子どもの好奇心を上手に引き出すことも大事です。先生が「この絵の中に白黒の動物がいるよね。どこにいるかな」と問いかけたら、親御さんも一緒になって「どこにいるかな」と探してあげると、子どもは親御さんと一緒に遊んでいる気分になって、「Right there!(すぐそこ!)」と喜んで答えてくれます。
常にシェアする
ワークブック(学習帳)のような自習向けツールを使ったオンライン学習の例をご紹介します。例えば、アルファベットと果物の最初の文字を繋げるという課題ですが、先生はこれをアプリ上にアップします。子どももアプリ上で、果物に色を塗ってみたり、線を引いてみたり、それぞれ取り組みます。終わったら先生に「提出」し、先生はそれに対してコメントします。クラスメイトの作品も見られるようにし、それにコメントもできます。“子供向けの学習に特化したFacebook”と思えばわかりやすいかもしれません。
「Shape Hunt!(生活の中の様々な形を探そう)」といって、カメラの機能を使って動画を撮影したり写真を撮ったりする課題もあります。「家の人は算数をどう活用しているか」という課題に対しては、家族へのインタビューをするなど、アクティブに動き回ります。年齢や目的に合わせて、生徒が楽しくできるように工夫しています。学年が上がれば、できることも多くなるため、事前に課題図書を読んでもらって感想をシェアすることもあります。
オンライン授業 やってみたらどうなった?
オンライン授業やオンライン学習について、私の身近な人々、そして私自身の体験をいくつかご紹介します。
「自宅でインドのアメリカンスクールに通う」K君
小学3年生の甥っ子K君はインドのデリーに住んでいて、現地のアメリカンスクールに通っています(現在は日本に一時帰国中)。インドでは新型コロナウイルスの感染拡大防止のため2月から外出禁止令がでています。現地のアメリカンスクールは外出禁止令が出た直後からオンライン学習に全面的に切り替えました。使っているアプリはSeesawのほかZoomやYouTubeなどです。
オンラインでのライブ授業はインドにいるアメリカ人の担任が主導します。フランスに帰った生徒、イスラエルに帰った生徒、インドに残った生徒など、文字通り世界中から参加しています。一つの学級をいくつのチームに分けて、4~5人の少人数にしています。参加している場所は世界中ですが、少人数クラスにすることで、各生徒の発言の機会を増やしています。
写真はK君の学習風景です。「なぜそこ?」とK君には問いたいですが(笑)ここで勉強しているときは、リラックスして集中力が続くそうです。「リラックスして学ぶ」ことも自宅でのオンライン学習を成功させるポイントです。K君のやり方が「お勧めです」とはいえませんが、家で集中できる環境をそれぞれが模索して、自分にとってのベストな環境を見つけられるとよいですね。
パパはオンライン会議、子どもはオンライン授業
下の写真はGGISに通う生徒の自宅での模様です。A子ちゃんの向こうに写る男性がそのお父さんです。A子ちゃんのお父さんやお母さんはテレワークで在宅勤務するようになり、パソコンやタブレットなどに向かって会議や作業をする機会が増えました。「パパやママと同じことがしたい」というのは、どの時代にも共通する子どもの思いですね。一緒に机に向かってお父さん・お母さんはWork From Home(自宅でお仕事)、子どもはStudy from Home(家から学び)です。
余談ですが、A子ちゃんは家でもGGISの制服・活動着である赤いTシャツを着ています。A子ちゃんが「着たい」と言ったそうです。学校で学んでいる状態に近づけたいためでしょうか。本人なりに考えて自分が学びやすい環境を自分で考えて作る。これこそが本当に必要な学びだと思います。
私の友人の旦那様は、室内着や私服だと家で仕事をするにも気合が入らないため、オンライン会議がない場合もスーツに着替えてリビングで仕事をしているそうです。これもやる気を出すための工夫ですね。
お兄ちゃんがヘルプ 家族でできることを
S家は、ママ・パパ、長男(小学生)、長女(GGISの年長さん)、次男(1歳)の5人家族。長男T君は日本のインターナショナルスクールに通っていますが…なんと8月中旬まで学校がありません。T君の学校でもSeesawを使っているため、妹HちゃんがGGISのオンライン授業に取り組む際に、手伝ってくれるそうです! パパとママは交代で1歳の次男を見ながら仕事をしています。家族一丸となっている姿に、とても勇気づけられました。
息子が実際にオンライン授業を受けた母=私
冒頭でもお話ししたように、私は2人の男の子の母として、オンライン授業の有効性に疑問を抱いていました。3歳の長男は、すぐ何かと戦い始めますし、一日中話しっぱなし(相手が必要)ですし、一人ではたった10秒もじっとしていられやしません。10カ月の次男もちょうど動き始めたところで目が離せない…。オンライン授業をしても“どうせ” 子どもの相手をしなければならない、私の時間が増えるわけではない、仕事なんてできやしないと。
実際に長男がオンライン授業をしてみて、「考えが変わった」…というほど優雅で簡単なことではありませんが、考え方を変えるように努めています(笑)
決して親を「解放」してはくれないけれど…
結論です。多くの親にとって、オンライン授業が救世主になることはないと思います。やはり保育所に預けるのとは異なります。課題に取り組んでいるときはお子さんのサポートが必要ですし、わからないことあると、質問を浴びせてきます(「ああ…大変」が本音)。子どもが何歳であっても、親の愛情や注目を必要とするのは変わりません。オンライン授業のおかげで家事や仕事のための私の時間が膨大に浮くわけではないです。
でも、新型コロナウイルスが広がる今、子どもも親も家になければいけないことは変わらない。状況を変えられないならば、捉え方を変えて、楽しむしかない! と意識高いことを言ってみたり…。
私は、息子と一緒にオンライン授業を受ける中で、息子が新しい言葉を発したり、意外と几帳面に塗り絵をする一面を見ることができたり、「こだわりポイントが独特だな」と笑えたり。また、一つ意外な発見だったのが、先生の顔や声を聞くことが想像以上に子どもにとっては喜びとなっていることです。
「オンライン授業を受けている自分の子どもが英語を話していて、こんなに上手なんだとビックリしました」と喜びの声を届けてくださった親御さんもいました。GGISにとっては、オンライン授業の意外な効用を見つけた思いでした。
大きな声では言えませんが、GGISがここまで大々的にオンライン授業を取り入れたのは初めてです。先生も2月頃から準備を始め、現在も親御さんのフィードバックや感想を頂きながら試行錯誤しながら作り上げています。
- 「楽しくなければならない」
- 「離れていても子どもたちと先生がやりとりを楽しめなければならない」
- 「“缶詰”になってやるより、ゆったりと自分に合う環境でなければならない」
これらはGGISが現段階で得たオンライン授業の3つの基本理念であり、教訓でもあります。
【グローバルリーダーの育て方】は、100%英語環境の保育園やアフタースクールを経営する女性社長・龍芳乃さんが、子供が世界で通じる「人間力」「国際競争力」をどう養っていくべきかを説く連載コラムです。アーカイブはこちら