ヘルスケア

欧米より日本の死者数が際立って少ない状態も「医療崩壊」予断許さず

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、日本が欧米諸国と比べて特筆的に少ないのが死者の数だ。ウイルス検査が極端に少なく、感染状況の実態を把握できていないとの批判はあるが、感染者集団(クラスター)対策や安定した医療システムが功を奏してきた側面も見逃せない。ただ、感染者急増に伴い死者数が徐々に膨らみ、検査待ちの間に死亡する事例も出てきた。重症者の命を救う集中治療態勢が破綻すれば、「医療崩壊」に直結しかねない。

 一桁、二桁違う死者数

 日本の19日時点の感染者数は1万1506人。スペイン、イタリア、ドイツといった欧州各国の10分の1以下、世界最多の米国の70分の1以下にとどまる。特に死者数251人はこれらの国と一桁、二桁違う。人口10万人当たりでみても、感染者数は9・1人で、死者数に関しては0・2人と顕著に少ない。

 感染者数の少なさの背景として指摘されるのが、感染の有無を調べるPCR検査の件数だ。厚生労働省によると、15日時点の累計は約16万件。現在の検査能力は1日約1万2000件で、国は最大2万件を目指すが、直近1週間の平均は1日約7400件にとどまる。

 これに対し、「検査先進国」とされる韓国はドライブスルー方式などを早期に導入し、今月14日までに52万件以上を実施。欧州の中では死者数を低く抑え込んでいるドイツは週35万件の検査が可能だといい、患者を早期に隔離し、重症者に医療を集中させてきた。

 検査をめぐっては、在日米大使館が「日本では感染状況の把握が困難」として今後の医療態勢への懸念を示し、日本滞在の米国人に帰国準備を呼びかけ、菅義偉官房長官が「世界保健機関(WHO)のガイドラインに沿って、しっかり対応している」と火消しに走る場面もあった。

 日本は感染抑止のため、クラスターを早期に発見し、濃厚接触者や感染経路を突き止め、クラスターの連鎖を防ぐことに注力してきた。中国経由で感染が広がった1月中旬以降の「第1波」とされる時期は、検査件数に対する陽性の割合も極めて低く、一定の効果があったとみられる。

 集中治療態勢に懸念

 一方、欧州などからの帰国者の感染確認が目立ち始めた3月上旬の「第2波」以降、感染経路不明の事例が相次ぎ、濃厚接触者の追跡調査が難航するようになった。下旬以降、感染者数はうなぎ上りで、大都市圏を中心に医療機関の病床数が逼迫(ひっぱく)。死者数は4月6~12日の1週間で46人だったが、同13~19日には101人に膨らんでいる。

 最近は保健所の業務負担が過重となり、検査結果が出るのに最長1週間程度かかるケースも頻発。発熱などの症状で検査を受け、結果待ちで自宅待機中に体調が急変し、死亡した事例も明らかになった。入院待ちで自宅待機を強いられる患者のほか、病院から施設・自宅療養に移った軽症者の体調管理も課題になる。

 そもそも重症者の命を救う集中治療態勢の脆弱(ぜいじゃく)さを指摘する声もある。日本集中治療医学会によると、人口10万人当たりの集中治療室の病床数は、ドイツが29~30床、イタリアが12床程度なのに対し、日本は5床程度にとどまるという。

 東京医科大の濱田篤郎教授(渡航医学)は「日本がこれまで死者数を抑えられてきたのは欧米と異なり、国民皆保険制度を基盤とした医療システムが機能していたのが大きいのではないか」と指摘。「日本はオーバーシュート(爆発的な患者急増)を起こさない限り、医療崩壊を免れられ、死者も抑えられるだろう。引き続き外出自粛を守り、医療態勢を維持していくことが重要だ」としている。