危険認識しない人は「感染しちまえ」 大学関係者の“直言”に共感広がる
「危険なことわからんやつは、とっとと感染しちまえ」「家にいろ」-。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、大学関係者の発した率直なメッセージが共感を呼んでいる。命令口調や教員らしくない言葉遣いは、若い世代から反発を呼びそうだが、なぜ受け入れられたのだろうか。
ドアノブも拭いとけ
「いつかはお前もかかる。かかった時助かるように、いまからなるべく栄養つけろ。よく寝ろ。タバコはこれを機にやめろ。」 こんな言葉遣いでツイッターで情報を発信しているのは、京都大ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授だ。3月28日に、「言葉が汚くて申し訳ありません。(中略)これはわたくし個人の意見で、京都大学とはなんの関係もありません」と前置きした上で、感染予防に必要な情報を連続でツイートした。
最近は、ロックダウン(都市封鎖)や「濃厚接触」といった聞きなれない専門用語が報じられている上、「不要不急の外出自粛」など個人に判断を委ねられる場面も多い。だが、宮沢さんは、「家に帰ったら、速攻手を洗え。アルコールあるなら、玄関ですぐに吹きかけろ。ドアノブも拭いとけ。」と分かりやすい言葉で注意を促す。
ウイルスの感染経路の一つが飛沫(ひまつ)感染。宮沢さんは「酒を飲んだら、会話するだろ。大声になるだろ。それが危険なことわからんやつは、とっとと感染しちまえ。一ヶ月会社休んで回復したら、みんなの代わりに仕事しろ。」と、少々乱暴だが具体的に説明する。
10万件のリツイート
一連のツイートは、もともと宮沢さんがフェイスブックに投稿したもの。産経新聞の取材に「若者向けというわけではなく、全世代の方に向けて発信しました。厚生労働省などいろいろなサイトがありますが、具体的にどこまでやったらいいのかという情報がなかった。周囲から相談もされていたんです」と話す。
ツイートは反響を呼び、リツイートは10万件以上。「具体的でユーモアがありますね」「とてもわかりやすい文章でありがたいです」などと好評だ。
日頃からインターネットを通じて、いろいろな人とやり取りをしていたという宮沢さん。「若い人や専門家ではない人と話すときには、難しい話をしても伝わらない。肌感覚としてこれくらいがいいと思って書きました」と明かす。
大学の授業開始も相次いで延期される中、ひときわ注目されたのが慶応大学のホームページに掲載された、環境情報学部の脇田玲学部長の新入生や在学生に向けたメッセージだ。
「家にいろ。自分と大切な人の命を守れ。SFCの教員はオンラインで最高の授業をする。以上。」
文字数にしておよそ40文字だが、何をすべきなのか明確だ。ツイッター上では、「かっこいい」「ストレートな言葉が響いた」と肯定的な反応が並ぶ。
ギャップが面白い?
命令口調や率直な言葉遣いとなると反発もありそうだが、若者文化に詳しい、マーケティングアナリストの原田曜平さんは「今の若い世代は、命令口調は“上から目線”と感じてしまう。それなのに炎上せずに、好意的に受け止められた。ツイッターでは賛否両論ある話題がバズる(話題となる)ことが多いが、今回は反論が少なく、バズった極めて珍しい例」と指摘。「大学関係者が汚い言葉遣い、というギャップが面白がられたのではないか」と推測する。
さらに原田さんは「前提としていずれのツイートも社会のため、学生のために発信された。その上、ウイルスの感染拡大という社会状況では、反論がしづらい。若者の間でも、自分たちが感染源のひとつという自覚も芽生えてきているのではないか」と分析する。
短い文で分かりやすく
「伝え方が9割」の著書がある、コピーライターの佐々木圭一さんは「今は大学生に限らず、長い文章を読むのは苦手。今回は一文がとても短く、読んでみようという気にさせる文章だった」と読み解く。
言葉もわかりやすかったという。「専門用語やカタカナ言葉には嫌悪感を示す人が一定数いる。学生が話すような言葉だったので理解されやすかったのではないか」。
新型コロナウイルスに関するさまざまなメッセージが発信されるなか、佐々木さんが注目したのが、ニュージーランド警察の公式ツイッター。「テレビの前で寝転がっているだけで人生を救える」というつぶやきは、ユーモラスで情景が目に浮かぶようだ。
感染拡大の結果何が起こるか想像させたのが、大阪市立大の荒川哲男学長が大学ホームページに掲載したメッセージだという。「じいちゃんが酸素マスク!?一生悔やんでも遅い」というタイトルは強烈だ。
「これはまずいな、とつい思ってしまいますよね。この文章を読むと、外に出たい気持ちがあったとしても今はやめておこうかな、と思う学生も多いのではないでしょうか」と佐々木さん。相手に「自分事」としてとらえてもらう伝え方が大事だという。(油原聡子)
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