【お金で損する人・得する人】新型コロナで期限延長「まだ間に合う確定申告」 所得控除で税金を取り戻す
新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的に、所得税や贈与税の確定申告期限と税金の納付期限が令和2年4月16日(木)まで延長になりました。会社員や公務員の方は年末調整を経て所得税額が確定しますので、自分に関係ないと思いがちです。しかし、税金の仕組みを知ることで、給与天引きで納めるだけの一方通行から、税金を取り戻す双方向の流れを作ることができるのです。今回は所得税計算の重要な仕組みの1つである所得控除を中心に解説します。この記事を読んでから申告しても間に合います。また、所得税は5年前の分まで還付申告(所得税の取り戻し)ができるのもお忘れなく。
皆さんは、年収と所得の違いを考えたことありますか? 年収は勤務先が支払っている1年分の給料の総額です。年収1000万円とは、勤務先が1000万円の給料を支払っていることになります。1000万円に対して、所得税と社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)を計算し天引きします。
この計算ですと、社会保険料は自分の懐に入ってこないのに、所得税は年収1000万円分天引きします。そのため、社会保険料の1年分を社会保険料控除という仕組みを設けて、年収から差し引きます。すると、より手取りに近い収入が計算できます。このように、さまざまな所得控除を年収から差し引くことで、実質的な収入である所得を導き出します。すべての所得控除を引いた後、改めて所得税の計算をします。年末調整はこの作業を勤務先で実施してくれます。結果として多くの人は支払いすぎた所得税が戻ってきます。
所得控除は種類が多いのですべての解説はいたしませんが、雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、 小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除があります。
これらを分類すると、(1)支出関連、(2)資産形成関連、(3)家族関係の3分類です。
今回解説するのはそのうち2つ。税金を納めるのは国民の義務ですが、取り戻せるのは知識のある人だけです。つまり知らないと余計な税金を納めることになります。お金の知識で最も大切な項目の1つが税金なのです。
支出関連の所得控除
[1]雑損控除
火災、台風、水害、地震などの災害による被害、盗難による被害など、財産に損害が発生した場合に所得を減らすことができます。詐欺の場合は適用になりません。最近は自然災害が多発していますので、知っておいて損はないでしょう。損失額が大きいほど効果のある控除です。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサーNo.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除))
(1)(差引損失額)-(総所得金額等)×10%
(2)(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
上記いずれか多い金額が雑損控除額となります。
[2]医療費控除
自分と生計を同じくする配偶者や親族のために支払った医療費が一定額を超える場合に適用になります。妊娠期間中、出産のタイミング、長期治療や大きな病気の際は医療費控除を活用する機会がありそうです。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除))
医療費控除額=(実際に支払った医療費の合計額-(1)の金額)-(2)の金額
(1)保険金などで補てんされる金額
生命保険契約などで支給される入院費給付金や健康保険などで支 給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金など
(2)10万円
[3]生命保険料控除
会社員、公務員の方はご存じの方が多いでしょう。生命保険会社、損害保険会社、共済の販売している生命保険、医療保険、がん保険、などの保険料が所得控除の対象となります。生命保険は遺族年金などの公的保障では足りない部分の遺族保障の自助・共助。医療保険やがん保険も同じく、健康保険や高額療養費では足りない部分の医療費の自助・共助です。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサーNo.1140 生命保険料控除)
[4]地震保険料控除
自宅の火災保険に付随して契約する地震保険部分の保険料のうち、一定額が所得控除の対象となります。現在は、火災保険に加入しても所得控除の対象となりませんが、地震保険は所得控除の対象です。所得控除の対象としている意味は、加入を促したいという意図があります。マイホームの人は建物と家財、賃貸の人は家財に地震保険をかけておくと安心です。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサーNo.1145 地震保険料控除)
[5]寄付金控除
国や地方公共団体、認定された団体に対する寄付金が所得控除の対象になる場合があります。一部、税額控除を選択できる場合もありますので、寄付先に確認するとよいでしょう。ふるさと納税は寄付金控除を活用しています。気を付ける点は、寄付金控除の上限です。控除額を超えると単なる寄付でリターンはありません。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサーNo.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除))
資産形成関連の所得控除
支出関連の所得控除と異なり、資産形成関連の所得控除は資産形成の優遇税制です。無理に使う必要はありませんが、生活に余裕のある人は加入を検討されると良さそうです。
[1]小規模企業共済等掛金控除(iDeCo)
個人事業者の小規模企業共済の掛金、企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金を所得控除の対象とします。多くの人に関係するのは、iDeCoの掛金と考えられます。掛金の上限は勤務先によって異なりますので、職場に確認してください。節税効果のみを狙って加入する方もいらっしゃいますが、長い人生の中でお金が足りなくなることもあり得ます。途中で解約ができませんのでご注意ください。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサーNo.1135 小規模企業共済等掛金控除)
[2]生命保険料控除(個人年金保険)
生命保険会社や共済が販売する個人年金保険のうち、所定の要件を満たした契約の掛金が個人年金保険料控除の対象となります。所定の要件を外して、生命保険料控除枠(遺族保障)にすることもできますし、所定の要件を満たして個人年金保険料控除の枠を活用することもできます。
計算式はこちら(国税庁 タックスアンサーNo.1140 生命保険料控除)
いかがでしょうか。以前から知っている所得控除もあったでしょうし、聞きなじみのない所得控除もあるかもしれません。もし、去年の支払いで所得控除の対象かな? と思うことがあれば、整理して計算してみるといいでしょう。そして、今後は支払い一つとっても税金を意識することも大切ではないでしょうか。
筆者の個人的な感想ですが、今回の確定申告期限の延長は、国税庁をはじめとする行政機関の努力が足りなかったと感じます。マイナンバーカードを保有している人や、インターネットによる電子申告を実施した人には、時限措置として所得控除や税額控除があるべきと思います。明確なメリットがあるから電子申告が増えるのであって、税務署で確定申告の作成指導があるような環境では、いくら推奨しても電子申告をする人は増えないでしょう。従来の手厚い対応が徒となっているのです。そもそも、みんなが電子申告するような環境であれば、今回のような期限延長は不要です。今回は電子申告がまったく広まっていないことを裏付けるような期限延長ですが、読者の皆さんはこれを機会に確定申告を積極的に活用し、戻せる税金はきちんと取り戻しましょう。
【プロフィール】高橋成壽(たかはし・なるひさ)
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役
1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。
【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら
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