【ブランドウォッチング】レガシーメディア再興か ラジオがネットでパワーアップ、ラジコになった

 
※画像はイメージです(Getty Images)
スカイブルーにRマーク、シンプルなアイコン
アーティストから芸人まで充実の番組ラインナップ

 読者の皆さんは、ラジオを普段聴きますか?受験勉強の時には深夜放送を聴いていたけど社会人になってあまりご縁がないという方も多いのではないでしょうか。広告代理店で長くメディアビジネスに関わっていると、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4媒体をもって主要メディアとして扱っていた時代が非常に長く、インターネット時代の今もどこかでまだそんな感覚が残っています。でもマス4媒体全盛時代でさえもラジオの事業は他媒体に比べて格段に小さかったのもまた事実です。地方のAM局などに行くと、失礼ながら大きな学校の放送室の方が立派かもしれないというような設備でがんばっていたりしたものです。営業面でも他のどのメディアよりも一生懸命で工夫や手間暇かかる提案をしてくれるのですが、いかんせん媒体費のケタが違っていて、誰が見ても楽な商売には見えないというのが偽らざるところでした。

 でも、クライアントを含めて心ある関係者はラジオの素敵さに当時から気付いていました。送り手と受け手の距離の近さ。親密な空気感。そんなリスナーとの濃密な空間を愛して、アーティストや芸人などの出演者も例えギャラが安くてもラジオ出演に力を入れてきました。リスナーもそれにこたえてアーティストを長く熱心に支え、たびたび人気やブームの端緒を作ってきたのです(ちなみにTBSラジオの人気番組「問わず語りの神田伯山」の口上に「ラジオの友は真の友」というくだりがあります)。

 出演者の熱 ラジオが面白くない訳がない

 そんなラジオが面白くない訳はなく、あらためてラジオのタイムテーブルを見れば、紅白歌合戦でも揃えられないような錚々たるアーティスト、若手からベテランまで人気のお笑い芸人のキレッキレのトークなど魅力的なラインナップにちょっとビックリします。これをタダで聴き放題ですから、あらためて考えると結構スゴイことかもしれません。余談ですが筆者のお気に入りは爆笑問題や先述の人気講談師神田伯山の番組。テレビではちょっと考えられないレベルで持ち味の毒舌をさく裂させていて、ジョギング中など聴いていると思わず爆笑してしまい周囲から不審な目で見られて困るほどです。

 インターネットがラジオの弱点を克服

 そんな実に楽しいラジオなのですが、マイナーメディアとしての地位に甘んじてきた理由は、やはり音声だけの情報量がテレビに対して圧倒的に不利でメディア接触の習慣を奪われてきたことが大きな理由かと考えます。またもう一つ感じるのは、電波媒体の特性上アンテナ受信が必要にも関わらず、ありがちな普及価格帯のラジオ受信機はノイズが多かったり、音も悪かったりで、その魅力の全貌を伝えてくれなかったということもあったかもしれません。

 でも気が付けばインターネット時代に入り、ラジオはその弱点を克服していました。それが2010年在阪ラジオ局、電通等を中心に設立された株式会社radikoが提供するアプリradiko(ラジコ)です。

 一言で言えば、インターネットラジオのサービスで、専用アプリを使って提供されます。現在ではNHKや、民放連加盟101局中93局など日本全国ほとんどすべてのラジオ局が参加しており、事実上のラジオコンテンツの公式アプリとなっています。位置情報で自分が今いる地域のラジオ放送であれば、サイマル(電波との同時)配信に加えて1~2週間程度の過去番組を誰でもアプリをダウンロードして無料で聴くことができます。また、月額350円(税別)のプレミアム会員になれば全国のラジオ局の放送を聴くこともできます。すでにアプリダウンロード数3000万超、月間アクティブユーザー800万超、プレミアム会員60万超ということですから立派なものです。

 ながら視聴できる特性がパソコン作業と高相性

 実際にラジコをスマホにダウンロードして聴いてみれば、ノイズも途切れもまったくないクリアな音質に驚きます。先述したラジオ放送ならではのイヤな点をまったく感じさせないのです。しかも基本的にタイムシフト機能で各局の1~2週間分の番組表から自由に番組を選べるので、リアルタイムで深夜放送や昼の番組を聴くのが難しいサラリーマンにもうれしい仕様です。

 今や誰もが移動中などヘッドホンで何かを聴いている時代。Spotifyなど定額ストリーミングで音楽を聴くのも良いのですが、やはりプロのトークをふんだんに聴けるラジオ放送ならではの魅了というモノも間違いなくあります。しかも”ながら”視聴できるラジオは、実はパソコン作業との相性が抜群だったりもします。

 まさにルネッサンスではないですが、レガシー(伝統的な)メディアしかも一番小さなメディアだったラジオが、インターネットを味方につけてそのポテンシャルを開花させようとしているようにさえ感じます。

 ラジオと同じたった3文字、1音違いのネーミング

 ブランディング的には、とにかく「ラジコ」というネーミングが秀逸だと思います。ラジオと同じたった3文字でしかも1音だけしか違わないシンプルさ。誰が聞いても、ラジオに関係した何かだとわかる名前です。最近では各番組でも随所に「この放送はラジコでもお聞きいただけます」という案内が挿入されますが、音だけで聴いていても聴き紛れがありません。

 実は、この単純過ぎるほどの簡潔さは当たり前のようで当たり前ではありません。作り手の思い入れが強すぎるのか、複雑だったり凝り過ぎたり。少なくとも初めて聞いて何のサービスかまったく分からないネーミングの世の中になんと多いことか。この点やはり音声だけで日頃から人に何らかを伝えてきたラジオ局ならではの知見と感心するところですが、あらためて耳で聞いたときの視点(?)の重要さを認識させられました。

 アプリのデザインもシンプルの一言。今やこのスカイブルーとRのマークも随分浸透した気がします。凝りに凝ったデザインとはいえませんが、そのストレートさが、公式感や王道感につながっているとも言えるかと思います。

 今や誰でもインターネットラジオ局を立ち上げることができる時代です。世界には音声コンテンツのネットサービスが無数に立ち上がっています。音声メディアという意味では、オーディオブックなども競合するでしょう。そんなメディア大競争時代に、伝統と実力を誇る名門メディアだからこそ提供できるプロ中のプロが出演し制作したコンテンツの力を新しいリスナーにも訴求できるか。インターネット上にラジコという一大メディアを創出できるか。

 とかく独占的・絶対的立場できた分、ネット時代の苦境が伝えられもするレガシーメディアですが、このラジコのサービスを見る限りは、長年培ってきたプロの力と、ネットという合理的・効率的なプラットフォームが組み合わさったときの勝機大いにあり、と感じますがいかがでしょうか。

【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら