【お金で損する人・得する人】「親と会話が噛み合わない?まさか認知症?」となる前にできること(後編)

 
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 親が認知症になる場合に備えて、お金の面で何ができるのでしょうか。前編では、法的な対応として後見制度を取り上げましたが、後編では、少し視点を変えて保険を考えてみます。もし、頭が元気なうちに保険に入っておけば少しは違ってくるのでしょうか。保険といっても色々ありますが、高齢期を念頭に置くといくつかの候補が考えられます。亡くなった場合の死亡保険、病気で入院した場合の医療保険やがん保険、けがでの入院や通院を保障する傷害保険、要介護状態になった場合の介護保険、そして認知症と診断された場合の認知症保険です。

 保険加入の強みは人的ネットワーク

 保険に入ることで解決される課題は2つあります。1つ目は保険金・給付金と称されるお金を受け取ることで、家族の金銭的負担が減らせるということ。2つ目は保険金・給付金の請求の都度、保険会社や保険代理店の担当者に対して親の世話に関する相談ができることです。例えば、親が入院する場合に誰が保証人になるべきか。保険に付帯している健康相談などをどのように使うべきか。認知症になった親の財産を管理するにはどうすべきか。保険会社が提供するサービスや、担当者の人的ネットワークを通じて不安の解消ができるのです。初期は資金受領が大きいのですが、長期的に人的ネットワークが強みとなります。

 担当者を選ぶことは大切ですが、仮に担当者が財産管理の知識が不十分でも、保険会社や保険代理店のネットワークを活用すれば大体のことは相談にのることができます。特に保険会社は毎年膨大な保険金・給付金を支払っている関係で、お金の問題以外の情報も蓄積されています。ネットで検索し匿名の情報をもとに考えるより、実名で仕事として相談に応じる人がいるだけで救われます。話を聞いてもらえるというだけで、安心する人が多いのも実際のところなのです。

 それではと、医療保険、がん保険、傷害保険、介護保険、認知症保険、死亡保険すべてに入る必要があるのでしょうか。もし、資金的に余裕があれば、すべての保険を最低限のプランにして加入するという方法もあり得ます。

 限られた予算の中で、保険加入を通じてお金と心の安心を得たいのであれば死亡時にしか使えない死亡保険は捨て、がんの保障しかないがん保険も捨てるのもいいでしょう。病気でもケガでも入院をすれば支払われる医療保険を優先させて、次に認知症保険を最低限のプランで加入するという考えもあります。介護保険については、保険料が負担可能であれば加入を検討するとよいかもしれません。つまり、「医療、傷害>認知症>介護>がん、死亡」というイメージです。

 子が契約者なら手続きがスムーズに

 契約の方式としては、契約者と被保険者、保険料負担は親となるケースが多いと思われます。しかし、親の資力が心もとない場合や、子が主導で準備したい場合は、子が契約者、親が被保険者(保険の対象者)、保険料は子が負担するという方法があります。この契約方法だと親の負担なく、保険金・給付金請求の際も子が自ら行動できるので良さそうです。指定代理請求特約と言って、一定の家族が保険金請求する方法もありますが、保険会社ごとに指定代理請求人となることができる範囲が異なるので、注意が必要です。もし指定代理請求人を活用するなら、保険会社を統一するか、保険代理店に各社の比較をしてもらうことが必要です。

 もし、すべての保険に入りたいと思っても、すべての保険を提供している保険会社がありませんので、保険会社を統一するか、保険商品ごとにサービスを比較し選んでいくかのどちらかとなります。

 子が契約者になることのメリットは、住所変更、保険金請求など保険全般の手続きがスムーズになることです。基本的に契約者が保険契約の権利を有しており、契約内容の照会などは契約者本人しかできません。その本人が認知症では照会自体ができないことになります。最近は、保険会社に緊急連絡先など家族の情報を登録することで、登録された家族が最低限の手続きを行うこともできるようになってきましたが、それでもできる手続きに限度があります。保険会社にあれこれ言われるのが嫌な方は、ご自身が契約者になって、親に保険をかけるという考えが合っているでしょう。

 実家に帰って、親との会話が噛み合わず認知症の疑いが出てきたら、認知症保険を検討するのもいいでしょう。高齢期の保険加入の弱点は、保険料が高くなることと、体が健康ではない可能性が高いため、加入自体を保険会社から断られる可能性が高くなることです。

 特に、自宅と実家が離れているようなケースでは、親の世話のたびに安くない旅費がかかります。1度や2度であればいいのですが、数年にわたり毎月実家に帰るようなことを考えると、支出総額は侮れません。保険の場合は、1回だけでも保険金・給付金が支払われますから、少し安心していただけると思います。

 なお、高齢者の保険加入の際は、家族の同席や保険会社からの調査対象となることが一般的ですので、ご家族が認知症の可能性あり!と判断したタイミングでは遅いかもしれません。

 すでに、親が保険に加入している場合は、今後の手続きを見据えて名義を子に移しておくという方法もあります。住所変更、死亡時の請求や解約など、諸々の手続きが元気な子供の手に移ります。ただし、解約返戻金などのあるタイプの名義変更は税金の問題をはらんできますので、保険会社や保険代理店、税務署などへの相談を経て実施するのが安全です。

 ちなみに、高齢期の保険契約を銀行で締結すると、親が亡くなって死亡保険金請求のタイミングで、死亡の事実が銀行側に伝わるため、銀行口座凍結の恐れがあります。高齢者ほど銀行が安心とおっしゃる方が多いのですが、保険は保険会社か保険代理店から加入された方が使い勝手がいいと筆者は考えます。

 なお、銀行に高額の入金があると、あれこれ理由をつけて銀行から電話がかかってきます。電話で保険金であることを伝えるだけで足りますので、店舗に呼び出されたり自宅に訪問されたりしますが、金融商品を売りつけられるだけですので、会わない方がいいでしょう。

【プロフィール】高橋成壽(たかはし・なるひさ)

ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者
寿FPコンサルティング株式会社代表取締役

1978年生まれ。神奈川県出身。慶応義塾大学総合政策学部卒。金融業界での実務経験を経て2007年にFP会社「寿コンサルティング」を設立。顧客は上場企業の経営者からシングルマザーまで幅広い。専門家ネットワークを活用し、お金に困らない仕組みづくりと豊かな人生設計の提供に励む。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)。無料のFP相談を提供する「ライフプランの窓口」では事務局を務める。

【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら