「STEAM(スティーム)教育」または「STEAM人材」という言葉を聞いたことはありますか? 私が経営している「GG International School(以下、GGIS)」では、このSTEAM教育をグローバルリーダーを育てるための柱の一つにしています。
STEAMの日本での認知度は高くないようですが、今アメリカ・シリコンバレーで活躍しているのはSTEAMの要素をあわせもったSTEAM人材といわれています。また、積極的に採用しているアメリカにとどまらず、シンガポール、中国などアジア諸国にも広がっています。
STEAMが日本で注目され始めた背景には、小学校で2020年度からのプログラミング必修化が決定するなど、文科省と経産省もその必要性を提言していることがあります。そのためか、STEAM教育の代表例を、コンピューターのプログラミング学習だとする誤解している人も多いようです。しかし、プログラミングはSTEAM教育の大事な学習の一つではあっても、全体を指し示すものではありません。この誤解を解くためにも、今回から数回にわけて、STEAM教育とGGISの実践例を紹介していきたいと思います。
STEMとSTEAMの違いは「A」
もともと、STEAM教育の原型は「STEM(ステム)教育」でした。アメリカ発祥の教育手法です。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取り、それら4分野に力を注ぐという考え方です。これだと、理系教育と何ら変わりがありません。
そのSTEM教育にArtsの「A」を加え、Arts分野にも注力しようという考え方に発展したのがSTEAM教育です。Artsはそのまま訳したら「芸術」ですが、意味はもっと広く、「教養」と意訳したほうが近いです。「教養」だけだと薄っぺらく感じるかもしれませんが、もっと深くて広い「リベラルアーツ(Liberal Arts)」の意味合いが強いと思っています。図工やお絵かきなどの芸術に限らず、例えば、コミュニケーション能力や人間力などの非認知能力も含めたのがリベラルアーツです。
日本でリベラルアーツ教育を早期に学部として取り入れた教育機関として国際基督教大学 (ICU)があります。大学のWebサイトには、リベラルアーツが、特定の「知識」を指すものではなく、「文系、理系の区別なく幅広い知識を得る」手法といった趣旨の説明があります。
同Webサイトには理論物理学者アインシュタインの言葉も引用されています。
- 「リベラルアーツ教育の価値は、教科書に書かれている事実をただ学ぶのではなく、様々な物事について自ら考えようとする心を養うことにある」
- (アルベルト・アインシュタイン)
Appleの創業者ジョブズもまた、2011年3月、iPad2の発表会で、現在もなお多くの企業や人々に影響を与える言葉を残しています。
- 「AppleのDNAには、テクノロジーだけでは十分でないと刻まれている。リベラルアーツと結びついたテクノロジー、人間性と結びついたテクノロジーにこそ、われわれの胸は高鳴るのだ」
- (スティーブ・ジョブズ)
こうしてみると、リベラルアーツは「総合力」や「問題解決に必要な力」を養う教育と捉えることができそうです。
3大特徴は創造性・サイエンス・体験
GGISでは、STEAM教育には3つの特徴があると考え、オリジナルの教育プログラムを組んでいます。
- 1. Arts教育→無限大に広がる創造力を伸ばす
- 2. STEM教育→オムツを履いている子もサイエンスに挑戦
- 3. Experience→アート×体験、サイエンス×体験
しかし保護者がSTEAM教育の価値やGGISの方針を理解したところで、実際に通うのは小さなベビーたちです。ご想像の通り、赤ちゃんに、プログラミングだ、サイエンスだ、エンジニアリングだ、といくら言っても興味を持てません。そのため、0歳から3歳頃まではArtに重点を置きます。年齢が上あがるにつれてプログラミングや算数などよりアカデミックな学習にシフトします。
今回GGISでの実践例を紹介するのは、3つの特徴のうち、「Arts:創造性を養う教育」です。写真をご覧いただきながら、銀河を超えて? 無限大に広がる創造性をどう育成しているかをご紹介します。
アートは創造性発揮の原点
ベビークラスは、ブラシを持って、絵の具の感触や塗り方を練習します。自分の体よりも大きなキャンバス(段ボール)に、ペンキ塗り職人になった雰囲気で大胆に塗っていきます。お洋服が汚れてしまうことも多々ありますが、ご理解のある保護者に感謝です(笑)。クリスマスツリーの絵を描きたいときは、モミの木の葉っぱに見立てて、手形のペイントでデザインをペタペタと塗っていきます。
少し上の学年…と言ってもまだまだ幼い3歳児ですが、色の組み合わせでどんな新しい色ができるのかを研究します。赤と青を混ぜると、どんな色になるのか、黄色と赤を混ぜると自分が好みの色が新しく生まれるのか。生徒たちは、色の持つ不思議さに出会います。さらに上の学年になると、同じ色を学習するためですがiPadを取り入れます。
ハロウィンの季節になると、街中に、カボチャをくり貫いて「カボチャのお化けランタン」が登場しますよね。カボチャをくり貫くことを「パンプキンカービング」と言いますが、GGISでは生徒たちがその作業を行います。小さなクラスは、カボチャの中のタネを取り除く作業をします。少し大きな学年になると、ナイフなどを使ってくり貫いていきます。
さらに、そのカボチャの種を植えて、植物が種から育っていく過程を感覚と先生からレッスンでなんとなーく頭に入れておきます。この時点では、細かいことは記憶しなくて問題ない! 必要になったときに、「楽しかった思い出」として引き出しにしまっておき、記憶に刻まれていれば十分です。これも創造性を発揮する授業の一つです。
大人になっても創造性を肯定できる人間に
STEAM教育が注目され始めたのは、AI(人工知能)やロボットの発展によって、人間の仕事が奪われ、人間の労働の意味が変わっっていかざるを得ないからです。2015年のデータですが、野村総合研究所と英オックスフォード大学の試算によれば、「10~20年後に、日本の労働人口の約49%が人工知能やロボットなどで代替可能になる」と予測しています。
最短だと今から5年後にはそうなっていると予測されていたのですね…。詳しくは下のリストを見ていただきたいのですが、身近な職業が羅列されています。例えば、電車運転士さん。確かに都内では自動運転の電車をよく見ます。
AIが普及した世界では、作業や計算はロボットがやってくれます。人間の役割はcreativity(創造性)です。つまり「AI人材」を育てなければならないのです。答えのない世界、または答えがたくさんある世界で生きていくための教育が、STEAM教育です。
ただ、人間は生まれたときから無限大の創造性を持っています。大人になるにつれ、会社などの「大人のルール」「暗黙の圧力」で自らの創造性を表に出さないように押し殺しているのではないでしょうか。それが習い性になって、平凡なアイデアしか浮かばなくなるのは悲しいことです。
GGISの創造性教育は、自ら持っている無限大の創造性を全面的に肯定して、大人になっても、その創造性を発揮できるように自信を持たせる、根拠を持たせる授業だと位置づけられるのかもしれません。
【グローバルリーダーの育て方】は、100%英語環境の保育園やアフタースクールを経営する女性社長・龍芳乃さんが、子供が世界で通じる「人間力」「国際競争力」をどう養っていくべきかを説く連載コラムです。アーカイブはこちら