「レクサスUXにEVモデルが加わる」-。そう聞いて向かったトヨタの東富士テストコースで目にしたUXのピュアEVは、外見を舐め回すように凝視しない限り、ガソリンエンジン搭載車との相違点は見当たらない。フロントマスク付近にさり気なく意匠の変更が施されているにすぎないのだ。
厳重な極秘体制が敷かれた試乗会
今回の試乗は極秘であり、広報写真も資料も用意されていなかった。スマホ撮影も厳禁だ。カメラのレンズにはシールが貼られた。盗撮するチャンスも得られない。それほど厳重な極秘体制が敷かれているのだから、従来型とはガラリと姿形を変えているのかと身構えていたのだが、予想に反してごく自然な作り込みだったことに驚かされた。つまり、これみよがしの意匠チェンジで陥りがちな滑稽がないのだ。
ほぼ市販に近い姿であろう。公式デビューは11月下旬の中国広州モーターショー。そう、レクサスがEV化で湧き立つ中国市場がターゲットなのである。
関係者のヒソヒソに耳を傾けた情報によると、バッテリーはリチウムイオンの50kWh、モーターは150kWを発揮するという。最大トルクは300Nm。1リダクションシステムであり前輪で駆動する。0-100km/hは約7秒。最高速度は160km/hに達する。聞きだしたスペックはそこまでである。
ドライブした印象は、走りの確かさを感じるものだった。というのも、販売の多くは中国であり、UXの世界販売の8割を大陸に仕向けると言う。となれば、走りの性能よりも環境性能だけが重視されているのかと思っていたものの、EVのメリットを走りにも活かしていた。
バッテリーは床下に敷き詰められている。それゆえに、コーナリング特性は安定感が際立っていた。ガソリンやハイブリッドで感じたトラクション不足も感じない。タイヤが地に着いている印象がある。フロントにエンジンという重量物がないことで、前後重量配分は理想的な数値に整えられていそうだ。コーナリング姿勢が自然なのである。
ドライビングプレジャーを演出
ボディ剛性も強固に感じたのは、バッテリーそのものを剛性部材の一部として活用しているからに違いない。
ガソリン仕様にもある「スポーツ+」モードも選択可能だった。驚かされたのは、モーターレスポンスを鋭くさせることでアクセルに対する追従性を高めただけでなく、ステアリングの切れ味を追い込んだだけでもなく、エンジンサウンドにも刺激を盛り込んでいることである。インバーターやモーターの高周波音を故意に響かせることで、ドライビングプレジャーを演出している。
フッとステアリングの裏側を探るとパドルが指に触れた。ガソリン仕様の名残かと思っていたら、回生ブレーキの強弱をコントロールするためだという。左のパドルを引けば、まるでガソリン仕様がギアダウンするように、回生ブレーキが強くなった。これから流行になるかもしれないアイデアである。
そして11月22日、広州モーターショーでレクサス初のEV市販モデル「UX300e」が正式に発表された。
レクサス全体でいえば、中国市場でのシェアはハイブリッドが77%、ガソリンが23%である。中国最高益を伸ばしつづけるレクサスの次なる刺客「UX300e」は頼もしい。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。