先週の為替相場は米国債利回りが低下したことにより、米ドルが比較的弱い推移となったのに対し、ユーロはドイツの経済指標が市場予想を上回る強い結果となり、ユーロ圏の景気減速懸念が後退したことにより、底堅い推移となりました。
一方で円は米中貿易交渉に振り回される動きが多くなっています。前半はネガティブな報道に対し、リスク回避のために買いが強まり、逆に終盤にかけてはポジティブな報道に対し、売りが強まるような動きとなりました。
今週も引き続き米中関係に関する情報に振り回される可能性があるほか、香港のデモ問題に関する報道にも警戒が強まってきており、最新の報道には十分な注意が必要な状況が続きます。
また、経済イベントは米国で連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が公開されるほか、住宅関連の経済指標が予定されています。いずれも大局への影響は限定的となりそうですが、発表後は不安定な動きとなる可能性もあるため、注意が必要です。
ユーロ圏ではPMI速報値に注目が集まります。先週のドイツの経済指標に続き市場予想を上回る結果となれば、ユーロ圏の景気減速懸念が後退し、ユーロの下支え材料となりそうです。
ドル円は売買の偏り少なく鈍い動き続く可能性
では、世界中に顧客を持つ外国為替証拠金取引(FX)会社のOANDA(オアンダ)が提供するオーダーブックで外国為替市場の動向を探ってみましょう。
オーダーブックはOANDAの顧客の取引状況を公開したデータです。顧客の保有しているポジションの取得価格の水準(縦軸)と割合(横軸)を示す「オープンポジション」と、顧客の未約定の注文の価格水準(縦軸)と割合(横軸)を示す「オープンオーダー」の2種類のデータから成ります。
ちなみに、ある通貨を買っている状態を「買いポジション」、売っている状態を「売りポジション」といいます。買いポジションを保有している場合、その通貨の価格が取得価格から上昇したら収益が上がり、逆に下落すると損失が発生します。売りポジションを保有している場合は、取得価格から下落すると収益が上がり、上昇すると損失が発生します。FXでは、それぞれのポジションとは反対の売買を行って決済(損益の確定)をする仕組みとなっているからです。
先週のドル円は一部報道により、米中貿易交渉に関しての期待感が後退したことにより、一時1米ドル=108.23円まで下落する動きとなりましたが、週末にかけては再度米中貿易協議に明るい材料が出てきたこともあり、多少反発して週末を迎えています。
OANDAのオープンポジションを見ると、売買の偏りは少なく、現在の価格を中心にひし形を作るようにバランスよく分布しており、売買の力が均衡しているような状態となっており、鈍い動きが続く可能性が考えられそうです。
価格が上下いずれかに動くような状況となり、現在の均衡が崩れるような状況となると、売買のいずれかのポジションが苦しい立場に追い込まれ、損切りの注文(損失を増やさないための決済注文)が増え、価格の方向性が強まる可能性が高まります。
このため、この均衡が完全に崩れると考えられる10月から続く1ドル=108円から109円の価格のレンジを上下いずれに抜け出すかに注目したいところです。
ユーロドルは、さらなる反発にも要警戒
先週のユーロドルは、序盤こそ上値の重い推移となりましたが、後半は反発に転じ、1ユーロ=1.10米ドル台中盤まで上昇する動きとなりました。
OANDAのオープンポジションを見ると、売買の偏りは少ないですが、先週後半の反発により、含み損を抱え、苦しい状況に陥った売りポジションが増えています。
このため、価格がさらに高値を追う動きとなった場合は、これらのポジションの損切りの買いが増え、上昇が後押しされることが予想され、もう一段の上昇余地は残されているように見えます。
また、下押しの際も、これらのポジションの利益確定の買いが下支えとなり、下落を和らげる可能性が考えられ、底堅い推移が続く可能性を見出すことができます。
ポンドドルも含み損抱えた売りポジション多い
先週のポンドドルは、経済指標は冴えない結果が続きましたが、選挙への期待感もあり、底堅い推移が続き、1ポンド=1.29米ドル台まで上昇となりました。
OANDAのオープンポジションを見ると、直近の上昇により、含み損を抱えた売りポジションが増えており、高値を切り上げる動きとなると、これらのポジションが苦しくなり、損切りの買い注文が出やすく、上昇を後押しする可能性が考えられ、上昇余地は残されているように見えるため、高値を探る動きが続く場面では注意が必要です。
〈OANDAのオーダーブック〉
オープンポジションはここに注目
相場を動かす要因の一つは損切り注文といっても過言ではありません。
これ以上損失を増やしたくないトレーダーは保有しているポジションの反対売買を行い、損失を確定させ、市場から退出します。
例えば、価格が下落する局面では、買いポジションの保有者が苦しくなり、損切り注文(決済の売り注文)が出やすくなり、下落圧力が強まる要因となります。
損切り注文は価格の向かう方向と同じ方向へ力が加わる注文となるため、損切り注文が多くでる場面では、短期間に相場が大きく動きやすくなります。
オープンポジションを見ると、どの水準に含み損を抱えたポジションが多いかを視覚的にチェックすることができ、次にどちらに動いた方が、価格の動きが大きくなりそうか(損切り注文が多く出そうか)を予想することができます。
オープンオーダーはここに注目
前述の通り、損切り注文が増えると、一方向への力が強まるため、価格の動きが勢いづくことがあります。
オープンオーダーを見ると、どの水準にどの程度の注文(オーダー)が入っているかを視覚的に素早くチェックすることができます。
損切り注文が多く入っている水準に到達すると、価格が短期的にでも勢いづくことがあるため、注意が必要です。
世界中のトレーダーの相場分析のサマリー?
トレーダーが損切り注文を入れる水準は、通常は、チャートで相場分析を行なった上で、「この水準を超えてしまったら、相場の流れが逆方向に向かう」と考えた水準に入れます。
OANDAのオープンオーダーは、世界中のトレーダーが相場分析を行った結果のサマリーと言っても過言ではありません。
これを見れば、世界中のトレーダーがどの水準に注目し、相場の転換点となると考えたかを簡単にチェックできます。
※逆指値注文:現在の水準よりも不利な水準を指定して行う注文。通常、損切り注文はこの逆指値注文を使います。
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- 第一種 金融商品取引業 関東財務局長 (金商) 第2137号
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