九州北部豪雨、台風15号、19号など、2019年も自然災害により多くの人的、物的な被害が発生した。今年の代表的な自然災害は水害であった。マイカーが水没し、自宅は床上浸水し、地域によっては土砂崩れに飲み込まれた家もあっただろう。
このような災害から身を守るのは容易ではないが、被害を速やかに復旧するために加入する金融商品が火災保険である。火災保険という名称から、火事で家が燃えたときの再建費用を捻出する保険と思われがちだ。しかし、実際は地震と噴火を除く、大雨や台風、竜巻、大雪や雹、落雷など様々な自然災害に対応している。どの災害まで対応できるかは保険のプラン次第。あなたは自分の自宅にかけている火災保険の内容を覚えているだろうか。
火災保険の内容を覚えている人はほとんどいない。なぜなら、家を買うときについでに加入する保険。火災保険に加入しないと住宅ローンが借りられないからとりあえず契約する。そういった方が多いはずだからだ。かつての生命保険のようにどこで入っても一緒と、不用意に加入しているだろうと筆者は考えている。そして、すでに火災保険の契約期間が切れていたという人もいるようだ。
いずれにせよ、財産を守るための火災保険にもかかわらず、いざという時に保険がおりない理由はなんだろう。マスコミから得た被災地の情報と、過去の火災保険の販売形態の2つの視点から考えてみよう。
一度加入したら二度と見直さないのが当たり前
つい数年前まで、火災保険は35年分を一回で契約することが一般的であった。令和元年に家を買ったら、令和36年まで保険契約が続くと考えるといいだろう。加入した火災保険の証書は住宅ローンを借りた銀行に差し出した。万一家が燃えても住宅ローンは保険金で完済する。そのような縛りが常識であった。家が燃えても銀行は損をしない、そんな仕組みを構築し、住宅ローンの貸し出し条件にしていたのだ。
このような条件で契約した場合、住宅ローンを払い終えるまで保険証書は戻ってこない。(控えは自宅にあるはずだが)銀行が預かってくれているのだから、間違いないと思う人も多かったのではないだろうか。実際は、銀行は保険の内容をチェックすることはない。加入した人は安ければよく、どんな保険か気にすることがない。保険を勧める不動産会社なり、工務店なり、ハウスメーカーは銀行融資の条件であるから、火災保険が必要だ。その程度の説明しかしていないだろう。火災が起きない前提で、自然災害が起きない前提で保険の提案をして、保険に加入してきた時代があったのだ。
ノーメンテナンス、売り切り御免の営業スタイル
従来火災保険を販売していた不動産会社、工務店、ハウスメーカーにとって主な収益はなんだろう。不動産仲介手数料や建築による利益ではなかったか。その中で火災保険販売による手数料収入は、保険料こそ100万円を超えるが、本業の利益に比べればプラスアルファの収益に過ぎない。ついでに売れれば御の字だし、売れなくても支障はない。火災保険は面倒だから売りたくないと断言する不動産会社や工務店、ハウスメーカー社員もいる。
そもそもかつての火災保険は、火事への補償が中心の住宅火災保険と、風水害などすべての補償ができる住宅総合保険のいずれかであった。日本の住宅件数6000万戸に対し、建物火災の発生件数は年間2万戸。2万戸÷6000万戸×100=0.033%となる。日本において、建物火災の発生可能性は、限りなく0に近いのだ。これなら、契約内容を精査するまでもなく、保険料が安ければよいという選択になるだろう。
しかし、家を建てた30年前と比べ、気候が温暖化し自然災害が大規模化するようになってきた。政府が防災の観点から、自然災害の注意喚起をするほどだ。実際、平成30年の西日本豪雨では、住宅の全半壊が2万戸、床上浸水が3万戸と、5万戸が一度に被害にあっている。一回の災害で5万戸もの建物被害が起きると、隣近所で保険の話にもなるだろう。うちは保険が下りなかったけど、●●さんは保険がおりたらしい、となるかもしれない。
保険金が出る出ないの違いは、水害の補償がついているかどうかに過ぎないのだが、30年前から保険の見直しをしていないのだから、保険がおりないケースが多いだろう。場合によっては、築35年以上の家であれば、火災保険の期間が終わっていたというケースもあるはずだ。実際に、被災地を取材したテレビ局の話では、保険期間が満了している方がいたということで、保険が終わっていたことに気が付かなかったそうだ。
例えば自動車保険であれば、1年~3年程度で満期がやってくるので、その都度契約見直しのチャンスが来る。補償を充実させて保険料が高くなるような契約内容に変更する人は多くないだろう。しかし少なくとも保険契約が切れているという最悪のケースには至らなかったはずだ。
30年も経過すれば、保険会社の統廃合もあり、販売した保険代理店も代替わりによる事業承継、廃業、担当者の退職などいろいろなケースが出てくるだろう。その結果、まったくメンテナンスがされてこなかったということだ。
生保が変わったのは保険金不払いがきっかけに
生命保険業界が、世間の目を気にしてか、金融庁の指導の成果か顧客目線に変化しだしたのは、2000年代に起きた保険金の不払いであったと筆者は考えている。手術給付金の対象の少なさに対し、契約者の不満が爆発したため、現在の医療保険はほぼすべての公的医療該当の手術に対して、給付金を払うように変化している。
損害保険業界ではここ数年の自然災害の発生と被害の拡大で、行ったことといえば保険料の値上げ位ではないだろうか。契約者に対して、補償の見直しを促したという事例は、心ある保険代理店は実施したかもしれないが、保険会社が励行したという話を聞くことはない。
保険会社の社員は、大規模災害発生時には応援と称して、被災地入りするのだが、自分たちの過去の行動が遠因となって、保険金を払うチャンスを逸しているという認識が無いようだ。あるのは、「被災地入りして損害保険の大切さがわかりました」という売り手目線の感想で、適切な保険に加入できていなかった人たちへ想いを馳せることができない。
ようやく最近になって、保険見直しの際に水害対応の自動車保険や火災保険の案内をするよう、保険会社が指導を始めたという話を聞いた。しかし遅きに失しており、被災地には何の助けにもならない。まずは契約者に適切な補償への見直しを業界挙げて取り組まねば、火災保険はいざという時に役に立たないという、誤ったレッテルを張られてしまうだろう。
大切な財産を守るには、契約者自身もしっかりと契約内容を確認することが必須であることも付け足しておきたい。
【お金で損する人・得する人】は、FPなどお金のプロたちが、将来後悔しないため、制度に“搾取”されないため知っておきたいお金に関わるノウハウをわかりやすく解説する連載コラムです。アーカイブはこちら