【受験指導の現場から】2連敗は禁物…受験パターンに潜む意外な落とし穴 実体験から学んだ苦い教訓
本命の受験日まであと100日を切り(首都圏の中学受験・受検)、保護者会や個別面談が活発に行われる時期に入ってきた。この時期の個別面談では、第2・第3志望まで含めた受験パターンを具体的にどう組むのかが、話題の中心になってくる。
そこで今回は、中学受験の受験パターンを組む際に陥りがちな落とし穴や、筆者が経験した意外な? 陥穽について取り上げたい。
最難関校を最初に置くな
話を少しでも分かりやすくするため、以下のような設定に基づいて進めたい。
設定1:東京都23区北西部在住の小学6年生
設定2:私立(進学校)志望
設定3:本人にとって難易度が高い順に「S」「A」「B」と表記
(S:合格可能性40%未満、A:同60%程度、B:同80%以上)
今の時期、第1志望は決まっている、あるいは第1志望と第2志望は決めたが、押さえ(滑り止め)をどうするかを決めかねているという家庭は少なくない。例えば、2月1日から入試が始まる都内の学校についてはスケジュールが組めているが、1月に埼玉や千葉の学校を受験させるべきかどうか、受験させるとしたらどの学校がよいか、迷いがあるといった状態である。
一般的には、2月1日から3日ないしは4日までのあいだに都内に立地する第1志望校と第2志望校を置き、1月10日から始まる埼玉県内の学校を押さえにする(東京都23区の東部に在住であれば、当然、1月20日から始まる千葉県内の学校も視野に入ってくる)。
もちろん、埼玉県内や千葉県内にも難関校、大学入試実績上位校は存在するわけで、ここで欲張るか(チャレンジするか)、安全策でいくかによって、受験パターンに起因する成否は大きく左右される。
経験的には「まず1勝」である。1月受験をさせようがさせまいが、初っ端にSレベルを置くことは下策である。最初でつまずくと(受験生の個性に因るところも大きいが)精神的にもあとが苦しくなって、2月の本命受験に影を落としかねない。
よって、1月中の受験については、「ほぼ確実に合格できる1校」を選ぶ、あるいは、チャレンジさせるのであれば、「チャレンジ校×1+確実校×1」とし、必ず1勝を上げることを最優先にしたい。受験はあくまでも2月1日スタートということであっても、初受験にSレベルをぶつけるのは賢明ではない。
より具体的には、1月受験をする・しないに関わらず、2番目に第1志望校を置くような組み方が望ましい。「S(2/1)⇒A(⇒B)」や「S(2/1)⇒B⇒A」は採らず、「B(1/10)⇒S(2/1)⇒A(⇒B)」「B(1/10)⇒A(2/1)⇒S⇒S」「A(2/1)⇒S⇒B」といった組み方のほうが、より良い結果を生む傾向にある。
たいがいの女子は2連敗で心が折れる
先に「まず1勝」が肝心かなめであると述べたが、次に肝腎なことは、「絶対に2連敗させない」ことである。
ある年、こんな例を目の当たりにした。受験直前まで最上位クラスに留まり続けていた女の子の例である。
母親の進学先に関するこだわりが強すぎたのか、1月には受験をさせず(押さえを確保せず)、2月1日から3日間連続でS~S'レベルの学校を並べてしまった(一番町、東池袋、吉祥寺、国分寺のうちの3校を立て続けに受けさせたようなイメージ)。
加えて、とても面倒見のよい父親が、年度の半ばから単身赴任してしまったことも影響したのかもしれない。
その女の子は、2連敗したところで完全に心が折れてしまった。魂が抜けてしまったというか、3戦目はまったく実力を発揮できなかったようだ。
逆に、2戦目で勝つ典型例として、2月1日と2日に同じ学校を続けて受けて、2回目に合格! というケースはけっこう見てきている。
我が子がもし、立ち直りに時間が掛かる(気持ちの切り替えが上手くない)タイプであるなら、とくに女の子ならば、連敗の虞を可能な限り抑えた受験パターンを組みたいところだ。
本人の第1志望は受験日間近でも変わることがある
筆者には、親子の志望校の喰い違いに起因する苦い経験がある。こちらもまた女の子の例である。
小6になって、もう少しで第1志望校に手が届きそうな状況だったのだが、夏期講習会の直後に成績が急落してしまったことで、受験直前期の数カ月間、過去問対策を中心に個別指導を引き受けることになった。
その当初は、母子の志望校は第1志望、第2志望とも一致しており、押さえをどこにしようか? という段階であった。父親には特段の強い意思はない。
成績と照らしわせたところ、第1志望がS'、第2志望がAという線で、「押さえには1月にA'~Bを入れ、都内は中日(なかび)にA'を挟もうか」との意向。1月の受験校を確定させたのは12月に差し掛からんとする頃で、都内の第3志望は、本人が気に入るところがなかなか見つからず、最終的に第1志望と第2志望を複数回ずつ受けることに落ち着いた。
ところが! 冬休みに入る頃には、本人にとっていちばん行きたい学校が、郊外にある1月受験の学校に変わっていた。本人としては、家庭内でもそれとなく、「○○中学がいいなぁ。◇◇だし、▽▽だし」という感じで口に出していたようなのだが、その本気度が汲み取れないまま、その学校の受験日を迎えることになる。
その学校には合格してくれたので、筆者としては最低限の面目は立ったのだが、その後、事態が急展開する。
休日の午前と午後に科目別に個別指導の予定が組まれていたのだが、なんと! 本人が朝食直後にこっそりと自宅を抜け出してしまい夕方まで帰ってこない、ということが立て続けに起こった。
本番直前に一度だけ顔を合わせることができたのが…、その後、朗報は入ってこなかった。憶断するに、本人としては、都内の学校に合格する気は失せていたのだろう。
事程左様に、難易度が高い同程度のところばかりを受けさせて、「どこかに引っ掛かるだろう」と考えてしまうのは確証バイアス(楽観バイアス)であり、薄氷を履むが如し。それ以上に、親子間で第1志望に齟齬が生じてしまうことは、危うきこと累卵の如しなのである。
受験パターンの最適化のためには、慎重の上にも慎重に、石橋を叩いて渡るくらいで丁度よい。
【プロフィール】吉田克己(よしだ・かつみ)
京都大学工学部卒。株式会社リクルートを経て2002年3月に独立。産業能率大学通信講座「『週刊ダイヤモンド』でビジネストレンドを読む」(小論文)講師、近畿大学工学部非常勤講師。日頃は小~高校生の受験指導(理数系科目)に携わっている。「ダイヤモンド・オンライン」でも記事の企画編集・執筆に携わるほか、各種活字メディアの編集・制作ディレクターを務める。編・著書に『三国志で学ぶランチェスターの法則』『シェールガス革命とは何か』『元素変換現代版<錬金術>のフロンティア』ほか。
【受験指導の現場から】は、吉田克己さんが日々受験を志す生徒に接している現場実感に照らし、教育に関する様々な情報をお届けする連載コラムです。受験生予備軍をもつ家庭を応援します。更新は原則第1水曜日。アーカイブはこちら。
関連記事