【グローバルリーダーの育て方】「アップルが赤い」と話す子 バイリンガルは日本語も英語も中途半端になる?

 

マルチリンガル(多言語)は世界のスタンダード

 前回お話しさせていただいたとおり、親の転勤により小学5年生で渡米した私は、まだ頭が柔軟な時期だったこともあり、苦労せず英語を習得しました。しかし、帰国後は、いい意味でも少し残念な意味でも、英語が私の特徴になってしまいました。同級生には「英語話せるの? すごいね」と言われ、先生からは「英語があれば大学入試で有利」と言われ、受験も近道。会社では「英語できるなら、このプロジェクトをお願いしたい!」と英語に助けられ、英語を軸に生きてきました。逆に、英語に頼りすぎてしまったため、他のスキルを磨くのを怠ったかな、とちょっぴり反省もしています。

 日本では「英語ができる」が特技になりますが、海外では違います。会社員時代を通して私も英語やそれ以外の言語を使いこなすビジネスエリートとお仕事させていただきました。国際的に活躍している方々は、まず英語ができることをなんとも思っていない。特に欧州の方々はすごいです。数カ国語を(しかも新聞が読めるレベルで!)自由自在に使いこなします。ただ、これらの方々は世界の名だたる大学を出たトップエリートですので、「まあ、当然だろうな」と思ってしまいます。

 では、世界では、エリート中のエリートだけがバイリンガルかというとこれも違う。発展途上国でも自国の言葉と英語を使いこなしている方々が多いことに驚かされます。

 例えば下の写真は、タンザニアでとある企業の二輪車の市場調査をした時のものです。街頭インタビューした方の中には、初等教育の7年間(言語はスワヒリ語)しか学校に通わなかった方もいたかもしれません。しかし、英語が流暢な方も少なくありませんでした。

タンザニアで、市場調査のためにインタビューした二輪タクシーの運転手。彼も英語が流暢だった。提供:執筆者

 日本のご近所さん、ASEAN諸国も多言語社会です。フィリピンならばタガログ語、インドネシアならインドネシア語など、自国の言葉と英語を使いこなしている国が多いですね。

バイリンガルは論理的思考ができない?

 時代を生き抜くため、日本が世界から孤立しないためにも当たり前のように英語を使いこなす必要がある。私はそう信じてインターナショナルスクールを運営しています。英語を学ぶ場所ではなく、英語でたくさんのことを学べる場所です。

 私が経営しているGGインターナショナルスクールでは、お子さんが入学する前にご家族と面談をさせていただきます。面談の中で、幼児期からバイリンガルになることに不安を感じる親御さんもいらっしゃいます。

これまで受けた質問の例

・小さい頃から始めると言葉が遅れる?

・言語力が不十分なことから、理解力や文章力が劣る?

・セミリンガルになってしまう(どの言語も中途半端)?

・論理的思考ができなくなる?

 日本語も英語も中途半端になってしまい、言葉に遅れが出るだけでなくて、論理的思考も身に付かないのではないか。そんな不安を抱えていらっしゃるのです。

 そのご心配は、私が体験した限りでは無用だと思っています。私が接した多くのマルチリンガル(多言語を話す人)は、子供のころにバイリンガル(2言語を話す人)になっていますが、言葉の遅れもなければ、非論理的でもありません。

 私の母も帰国子女で、日本語で考えるよりも英語で考えるほうが楽です。小学校まで日本語はできませんでした。でも、高校時代には夏目漱石など日本の文学を読破した文学少女だったそうです。同じことを言っていても、英語で話すときは論理が優先し、日本語で話すときは情緒が優先するのが母の特徴です。だから、英語で怒られるときのほうが、ちょっと怖かった記憶があります。

英語で何を学ぶかを大事にしているGGインターナショナルスクールの授業風景。左の写真は色と文字の理解力、右は空間把握能力を遊びで鍛えている。提供:同校

 私のことを良く知る兄弟や仲の良い友だちは「芳乃が論理…的…??」と、失笑するかも知れません。そんな時に私は、「論理よりも情熱があふれているのよ」と笑顔で返します。

バイリンガルは柔軟な頭脳をもたらす

 バイリンガルにはメリットがたくさんある。私は密かにそう信じています。

 最近の研究からバイリンガルやマルチリンガルについて多くのメリットが明らかになっています。アメリカの科学雑誌「サイエンティフィックアメリカン」のWebサイトには「The Bilingual Advantage」というレポートが掲載されています。(日本語でしたら、日経サイエンスの別冊「認知科学で探る 心の成長と発達」で読めるようです)。

 私の訳ですが、こう書いてあります。

「小さい時から多言語で子供を育てると、言葉の発達だけではなく、いろいろなものの理解カを促す、ということがわかってきた。それは、心の柔軟性を育て、抽象的な思考カを高め、問題解決や学習に必要な記憶カを鍛えるという利点がある」

 当初、多民族国家のアメリカでも、バイリンガルの子供は言語的発展や混乱が引き起こされると考えられていたそうです。そのためか、アメリカで2カ国語以上を流暢に話せるのは、わずか9%。欧州は50%近い!(参考:同レポート)

 ところが、バイリンガル研究が進むにつれて、バイリンガルの子供は脳が二つの言語を話していることをしっかりと理解していて、脳の混乱が起きてはいないということがわかってきました。それどころか、柔軟な脳を形成していることがわかってきたのです。操れる言語が増えるごとに、ものの捉え方や表現の仕方、分類の方法が増えていくのです。

 思考は言語でパワーアップ、多様化します。操れる言語が増えるごとに、ものの捉え方や表現の仕方、分類の方法など伴って増えていきます。

我が子が「appleが赤い」と話したら…

 ただ、親御さんが「日本語がおろそかにならないか」と心配してしまう気持ちはわかります。「お母さん、今日science classでpresentationしたよ!」とお子さんが話していたら、「うちの子、大丈夫かしら?」と思ってしまうのは自然です。

 いろいろな言語をごちゃまぜに使うお子さんには、年齢ごとに対処や対策が異なります。例えば、2歳児が「appleが赤い」と話したら、「日本語で話しなさい!」と叱るのは逆効果です。日本語を強化するためには、「りんごは赤いね」とすかさず言い換えてあげるだけで十分です。しかし、中学生が「appleが赤い」と話してきた場合は、「日本語だけで話してみようよ」と促してあげることが重要です。

英語で読み書きをするGGインターナショナルスクールの生徒たち。日本人家庭では、学校を離れれば親などとの会話は基本的に日本語。提供:同校

 マルチリンガル(多言語)を操るということは、とても脳を使います。でも、日本語でも同じようなことはしています。例えば、親戚で集まった時、自分の義理の親に対しては敬語で話しますね。夫婦ではタメ口、お子さんには簡単な言葉、耳が遠いおじいちゃんには声を大きくしてシンプルな言葉を選びますね。日本語でも私たちは言語を使い分けているのですから、多言語も同じです。

 親戚で集まると、楽しいけど疲れる!というのはこれが原因かも知れないですね。このように、場面に合わせて使い分けることが脳を活性化するのならば、言語というスキルがアップするだけではなくて、ついでに非認知能力やその他のスキルが身につくという研究結果も納得です。

「積み上げ比較」でポジティブに

 「インターナショナルスクールに通わせたら、日本語がおろそかになりませんか?」という質問を多く受けます。心配するご家族にご紹介しているのが、言語の単純な比較ではなく「積み上げ比較」です。

 例えば、3歳のお子さん。まだまだ言語は発達段階にも関わらず、日本語だけを話すお子さん(生徒A)に比べて生徒Bは「20点足りない」のかもしれません。ただ、生徒Bは英語もできので、日本語力80点と英語力80点を足すと160点です!

親としてはここからが腕の見せ所。足りない部分をそれぞれどう補っていくべきかの戦略を立てて下さい。

「積み上げ比較」を採用すると…

 自分の子が他と比べてどうか? と思う親心は世界共通だと思います。この積み上げ比較は言語だけに限った話ではなく、他の科目やスキルについても、ぜひ採り入れていただきたい考え方です。言葉は少し遅いけど、絵の才能はすごい! 読み書きは苦手だけど、運動神経抜群!など、お子さんそれぞれ、そして成長段階によって、得意とする分野が違うのは当然です。GGインターナショナルスクールの先生は積み上げ比較で考えるようにしています。

 バイリンガルにメリットはたくさんある、という話を書かせていただきましたが、次回は英語を学ぶための「戦略」について紹介させていただきます。

【プロフィール】龍芳乃(りゅう・よしの)

株式会社G&G 代表取締役

日・英・中のトライリンガル。大学卒業後、PR会社、外資系コンサルティング会社を経て2013年に起業。世界で通じる「人間力」の基礎を育む「GG International School」を経営。「Art to Science」をベースに0歳から小学校高学年まで学べるプログラムを用意し、人格形成の根幹となる揺るぎない自信を育んでいる。2児の母。

【グローバルリーダーの育て方】は、100%英語環境の保育園やアフタースクールを経営する女性社長・龍芳乃さんが、子供が世界で通じる「人間力」「国際競争力」をどう養っていくべきかを説く連載コラムです。アーカイブはこちら。