【ブランドウォッチング】「IMAX」 身近で特別な映像体験のブランディングとは?

 
IMAXデジタルシアター内観(T・ジョイ PRINCE 品川HPより)
グランドシネマサンシャイン外観(グランドシネマサンシャインHPより)
グランドシネマサンシャイン メインエントランス(筆者撮影)

 どんな商売にも小さな役得はあるかと思いますが、広告マンにとっての役得の一つがテレビCMの撮影や編集に立ち会えることです。ご存知の通り撮影であれば人気タレントさんと丸一日身近で一緒に仕事をさせてもらえます。それに比べると編集作業というのは、窓もないスタジオにこもりっきりで誠にパッとしない風情なのですが、これが意外と醍醐味があります。そう、編集スタジオで見るCMの映像や音声は、どんな地味な日用品のコマーシャルであっても実に美しいのです。

 大きな予算を使って制作するテレビCMです、もちろん一流映画監督をはじめ最高のスタッフが集められますし、機材も最高プロスペックです。仕上げの段階で、スタジオにある「民製テレビ」(一般家庭向け製品)で見え方チェックをしますが、残念ながらその段階で大幅に良さが失われてしまいます。まして調整もされていない一般家庭のお茶の間テレビではなかなかスタジオで感じられる絶対的な映像美や音の迫力は味わえないというものです。

 「違いがわかる男」という歴史的広告キャンペーン(ネスカフェ ゴールドブレンド)もありましたが、映像や音のクオリティに対する感受性は人様々。無頓着な人にとっては猫に小判かもしれないのですが、「分かる人」や「気になる人」にとってこれほどに価値の差が出るものも、世の中そうもないというのが実感です。

 映画館で観てもらうべきもの

 もちろん4K放送も始まり大画面テレビやサウンドバーなども比較的手に入りやすい今、家庭でもかなり高品質な映像・音響を体感できるようになりました。でも人間というのは本当に欲深い生き物ですよね。良いものを観ればもっと良いものとなりますし、むしろ欲望が覚醒してしまう部分もあります。

 一方で、そんな家庭でも気軽にハイクオリティな映像を鑑賞できる状況は映画館の経営にも影響していて、当たり前の映画上映であればホームシアターでいいやと生活者から言われかねない環境があります。スマホ世代の中にはドラマも映画もスマホで観られれば十分という人も多いかもしれません。ましてネットフリックスやAmazonプライム・ビデオなどストリーミングサービスも益々充実してきていて、いつでもどこでも膨大な作品リストから作品を観られてしまう時代です。

 それでは、わざわざ映画館にまで来てもらって観てもらうべきものとは何なのか。観に行くべきものは何なのか。

 その答えのひとつがIMAXなのです。

 続々導入される高付加価値型スクリーン 

 東京の方はすでにご存知かもしれませんが、2019年7月池袋に都内最大級のシネマコンプレックス「グランドシネマサンシャイン」がオープンし、国内最大サイズのIMAXスクリーンも話題となっています。

 1970年、大阪で開催された日本万国博覧会で初上映されて以来、日本でも長年多くのスクリーンが運営されてきたIMAXですが、今や全国各地に続々とIMAXシアターがオープン。IMAXはカナダのIMAX社が開発した動画フィルムの規格で、通常はタテに走らせる70mmフィルムを横に使うことで1コマのサイズを大きくとり通常の35mmフィルムの約8倍という情報量、つまりスクリーンをかなり大きくしても映像が精細で明るい画面を実現しているのです。

 上映システムもいくつかあり、池袋で導入されている『IMAXレーザー/GTテクノロジー』ではIMAXの高品質画像は勿論のこと、巨大スクリーンに4Kツインレーザープロジェクターによる鮮明な映像表現や、12chサウンドシステムの臨場感で観る人を映画の世界へ一気に引き込みます。

 その他IMAX以外では、ドルビーラボラトリーズ社が開発した音響表現に強みのある『ドルビーシアター』も博多、埼玉、東京丸の内とオープン。モーションシートによる振動や動きが映画と連動するCJ 4DPLEX社『4DX』は全国多くのスクリーンがすでに稼働しています。さらに、ラスベガスではソニーが独自規格のハイスペックシアター『ソニーデジタルシネマ (Sony Digital Cinema)』を今春オープンさせたとのことで、将来は日本にも導入されるかもしれません。

 最新鋭スクリーンはビル6階分の高さ

 実際に池袋にあるグランドシネマサンシャインに行ってみました。池袋の繁華街のど真ん中と言って良い場所に開業した「キュープラザ池袋」内にオープンしており、入り口のある4階から最上階の12階まで、内装など映画の殿堂としてのこだわりが随所に見られ訪れる価値があります。

 中でも最上層を独占する『IMAXレーザー/GTテクノロジーシアター』のスクリーンはなんと国内最大となる高さ18.9m、幅25.8mと、ビル6階分という巨大さです。スクリーンに対して通常よりぐっと近く設置される座席は、より垂直に近く立ち上がっていてちょっとスタジアムのような壮観さです。もちろん映像も音響も期待を裏切らない圧倒的なものでしたが、印象的だったのはエンドロールの最後の最後まで誰も席を立たず、上映が終わりシアター内が明るくなっても私のようにIMAXシアターのあちらこちらをしげしげと眺めたり、スクリーンの大きさをあらためて確認する人たちがたくさんいたことです。そう、みなさん明らかにIMAXを特別な体験であることだと認識して来場されているのです。

 過去に私は、マニアックなほど映像にこだわることで有名なクリストファーノーランが監督し、全編の70%を高価なIMAXカメラで撮影(通常の上映では一般のフィルムで撮影した映画をアップコンバートする場合が多い)した「ダンケルク」を一般のスクリーンとIMAXで見比べたことがありますが、まったく違う映画と言って良いほどに違います。特に、画面の明るさは段違いで、画面が明るいということは暗い部分がつぶれずに再現されるということなのだと認識を新たにしました。

 ハイスペックスクリーンは音も重要

 そしてもうひとつハイスペックスクリーンで極めて重要な要素は音響に他なりません。もちろんIMAXの音響は映像のこだわりに負けず劣らないものですし、ドルビーシアターなども音へのこだわりはお墨付きです。

 最近では、「ボヘミアン・ラプソディ」や「アリー/スター誕生」など、ライブを映画館で楽しむようなエッセンスのある作品が増えました。爆音上映や手拍子や一緒に歌う応援上映などもチラホラと導入されています。

 映画館ならではの家庭では味わえない大音量、大迫力の音響を楽しめることも大きな魅力に違いありません。

 特別感・先進感を圧倒的な迫力で訴求

 ブランディング的には、青のシンボルカラーの使い方がとにかく秀逸です。そこかしこに青いレーザーをイメージしたワンポイントの一貫したサインが使われていて、特別感、先進感を演出しています。太いゴシックのロゴデザインは先進性や科学との相性が良い、信念・確信を示すスタイルです。(ちなみに筆記体のロゴをイメージしてください。いきなり大草原の小さな家のようなどこか牧歌的な印象になってしまいます)

 IMAXファンにはおなじみの映画冒頭の迫力あるIMAXロゴ演出もインパクト抜群。"Watch a movie or be part of one" (映画を見るのか、映画の一部になるのか)というコピーも好きにならずにいられないはずです。

 ブランディングは典型的にはパッケージプロダクトのようなBtoC商材だけのものだと思われがちなのですが、そんなことはまったくありません。映画館の設備購入は一義的には、映画館の関係者などBtoBの商流ですが、エンドユーザーである生活者に認知・支持されてしまえばこれに勝るマーケティングはありません。例えば航空機など、このような性質をもつプロダクトは世の中たくさんあるように思いますが、ブランディング活動としての成功例をあまり思いつきません。つまり、そんなブランディング視点で見てもIMAXはユニークさや先進性が際立つハイスペックな存在と言えると思います。

【プロフィール】秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)

ブランドプロデューサー

大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら