東京圏の混雑率だけ高止まり
国土交通省は7月18日、2018年度の都市鉄道の混雑率調査の結果を発表した。この調査で示される平均混雑率とは、朝ラッシュ時間帯のピーク1時間、座席定員と吊り革や手すりに掴まって乗車する立席定員の合計に対し、どれくらいの割合の利用者が乗車しているかを示す数値である。
2018年度の最混雑路線は昨年度に引き続き東京メトロ東西線で、最混雑区間の木場~門前仲町駅間の平均乗車率は199%であった。これは同区間を1時間あたり27本運転している10両編成(定員約1400人)の電車に、平均約2800人(1時間合計で約7.6万人)が乗車していることを意味する。続いて190%台でJR横須賀線、JR総武線各駅停車、JR東海道線が続き、180%台が日暮里・舎人ライナー、JR京浜東北線、JR南武線、JR埼京線、JR中央快速線、東急田園都市線、JR総武快速線となっている。
国土交通省は、東京圏の主要31路線の平均乗車率を150%以下、路線別乗車率を180%以下にすることを目標としているが、依然として11路線が180%を超えている。大阪圏の最混雑路線は大阪メトロ御堂筋線の151%、名古屋圏は名古屋市営地下鉄東山線の138%だから、東京圏の混雑だけが高止まりしている格好だ。各都市圏とも鉄道利用者の総数はバブル期をピークに減少しているものの、東京圏の都心部に近い路線では都心回帰の流れが強まった2000年頃から増加に転じており、この傾向は2030年代まで続くと予測されている。
輸送状況が改善した小田急線
東京圏の混雑路線が解消される見通しはあるのだろうか。
構想からおよそ半世紀かけて代々木上原~登戸駅間を複々線化(線路を片道1線から2線に増強する工事)することで大幅な改善を実現したのが小田急電鉄だ。2018年3月のダイヤ改正で運行本数を1時間あたり29本から36本まで増発し、混雑率は194%から157%まで緩和。快速急行など一部の優等列車は依然として混雑しているものの、遅延の減少や所要時間の短縮など路線全体の輸送状況が大きく改善した。
しかし、長期的には沿線人口、鉄道利用者の減少が避けられない中で、莫大な費用と工期を要する複々線化の推進は困難だ。多くの事業者は既存設備の改良による輸送力増強でなんとか凌ごうと必死である。
例えば、最混雑路線の東京メトロ東西線は、現在1時間あたり27本運転している列車を30本まで増発するために、南砂町駅、木場駅の改良と飯田橋~九段下駅間に折返し設備設置を進めている。実現すれば混雑率は約180%まで緩和する計算だが、それでも国交省の目標値を何とか下回る程度の効果しか見込めない。さらに列車を運行しながら地下構造物を作り変えるのは容易ではなく、完成は当初目標の2020年度から2027年度までずれ込む見通しだ。東京メトロはオフピーク通勤促進キャンペーンを実施してピーク分散に努めているが、抜本的解消には程遠いのが実情だ。
ピーク1時間の利用者数の1割を…
実際、混雑緩和のために莫大な投資をするのは非常に効率が悪い。例えば、終日3分間隔(1時間20本)で運行する路線Aと、日中は3分間隔、ラッシュ時間帯は2分間隔(1時間30本)で運行する路線Bを比べてみよう。利用者から見た利便性では2分間隔と3分間隔に大きな違いはない。しかし、路線Bはラッシュ時に1.5倍の本数を運行するために、1.5倍の車両と乗務員が必要になる。ピーク1時間を除く残り23時間には必要のない設備や人員のコストを全利用者で負担しているのである(実際には定期券の割引率が高いため、ラッシュ時間帯以外の利用者がより多く負担していることになる)。
東西線のケースでは、運行本数を3本(10%)増やすために、15年近い年月と1200億円が必要になる。ところが、これと同等の混雑緩和は、ピーク1時間の利用者数の1割を前後の時間帯に移すだけで可能なのだ。もちろん、これは鉄道会社の一存で左右できる問題ではなく、行政や企業を含めた、社会全体で取り組まなければならない課題である。
JR北海道の経営危機に見るように、地方鉄道の持続可能性は今や喫緊の課題となっているが、いずれは都市部においても人口減少による利用者減が鉄道の経営問題、存続問題に直結する日が訪れる。それは長期的に見れば東京圏も例外ではない。人々の生活が健康で豊かになるように、そして都市機能が持続可能であるために、私たちの社会は今、大きな転換期を迎えている。
【鉄道業界インサイド】は鉄道ライターの枝久保達也さんが鉄道業界の歩みや最新ニュース、問題点や将来の展望をビジネス視点から解説するコラムです。更新は原則第4木曜日。アーカイブはこちら