「T+2」を知ってますか? この夏、株主優待や配当を狙う人もご用心
株式投資の醍醐味がキャピタルゲイン(売買差益)であることは言うまでもないが、株主優待や配当金も個人投資家にとっては魅力な点だろう。そうした優待・配当目当ての人にとっても影響が小さくない株式取引の制度変更(いわゆる「T+2」)が16日から実施された。欧米など世界の潮流に追随した格好だが、「T+2」の狙いやポイント、注意点をまとめた。(柿内公輔/SankeiBiz編集長)
東京証券取引所などは7月16日から、株式を取引(約定)する際の決済期間を1日短縮した。具体的には、受渡日の設定を「約定日から3営業日後」から「2営業日後」に改めた。Tは“Trade date”の略で、「+2」とは2日後を示す。つまり、「T+2」は、約定日(売買が成立した日)の2営業日後が決済日(受渡日)であることを意味している(※日本証券業協会ウェブサイトのこちらの説明も参照)。
欧米に追随
制度変更前は、たとえば7月12日(金)が取引日だった場合、土日と祝日(15日)を挟んで取引日から起算して4営業日目(T+3)の18日(木)が受渡日だった。制度変更を受け、17日(水)が取引日の場合、受渡日は3営業日目(T+2)の19日になる。
「T+3」から「T+2」に変更されたのはなぜか。日本証券業協会によると、「受渡日を早めることによって未決済残高を減らすなどして、決済リスクを低減させることが狙い」だとしている。すでに米国や欧州など海外の主要市場では「T+2」が主流になっており、金融のグローバル化が進む中、日本も追随して株式市場や取引所の競争力を高めたい思惑があるわけだ。
対象となるのは個別の株式だけでなく、ETF(上場投資信託)やREIT(リート、不動産投資信託)も含む上場有価証券(上場国債を除く)が対象なので、かなりの銘柄が影響を受けることになる。
「権利確定日」はこう変わる
資金の流動性が高まるメリットは機関投資家や証券会社にとってより大きいといえるが、個人投資家への影響も少なくない。具体的に、株主優待や配当への影響をみてみよう。キーワードは「権利確定日」と「権利付き最終日」だ。
株式優待や配当を受けるには、権利付き最終日まで株式を保有し続けている必要がある。今回の制度変更前は、「権利付き最終日は権利確定日の3営業日前」だったが、制度変更後は1日後ろ倒しになり、「権利付き最終日は権利確定日の2営業日前」となった。優待の権利を失ういわゆる「権利落ち日」も権利確定日の1営業日前に後ろ倒しになった。
月末に優待や配当の権利が確定するケースが多いが、この7月を例にとると、以前のルールなら権利確定日の31日(水)の3営業日前の26日(金)が権利付き最終日だったはずだが、新ルールでは29日(月)まで株式を保有し続けなければいけない。逆の見方をすれば、その株式を入手したい人なら29日までに購入すればよいということになる。そして30日(火)に「権利落ち日」が到来する。
夏は優待の権利確定月ラッシュ
ステークホルダーとしての株主への利益還元を求める社会的な風潮もあり、株主優待や配当を重視する企業は近年増えている。優待や配当目当てで投資した株主もやがてその企業のファンになり安定株主になっていることを企業側も期待している。
株主優待制度を実施している企業は上場銘柄の約4割を占めている。このことは個人投資家に株主優待制度が人気を博していることを裏付ける。
そして夏から秋にかけてのこれからのシーズン、8月や9月には株主優待や配当の権利確定月を迎える人気銘柄も多い。そのうちいくつか列挙してみよう。
《8月》
・ビックカメラ(買い物券)
・クリエイト・レストランツ・ホールディングス(食事券)
・吉野家ホールディングス(食事券)
《9月》
・アトム(優待ポイント)
・ヤマダ電機(買い物券)
気をつけたいのは、やはり株式の売買のタイミングだ。一般的に「権利付き最終日が近づくと優待や配当目当ての買い注文が入りやすい」(市場関係者)とされ、つれて株価も変動しがちになる。
優待や配当だけが株価の変動要因ではないが、個人投資家は、納得のいくまで自分で調べ、不明な点は金融機関などに相談して、今回の制度変更(T+2)をよく熟知したうえで、実際の投資に臨む必要がありそうだ。