フィンテック群雄割拠~潮流を読む

個人資産1000兆円を動かすために FOLIOのプロダクト磨きの秘密

甲斐真一郎
甲斐真一郎

 前回はPMFつまり「プロダクトマーケットフィット」についての説明をしました。では、スタートアップビジネスで重鎮と言われるマーク・アンドリーセン(アメリカの著名なソフトウェア開発者)が提唱するこの考え方を私が経営するFOLIOに当てはめると、どんなことが見えてくるのか? 日々改善を行っているFOLIOプロダクトである「テーマ投資」と、LINEスマート投資上で展開する「ワンコイン投資」を例にしてみたいと思います。

 “ Best of Best ”を提供できた者が勝つ

 “Best of Best”のサービスを提供した者が勝つ。これは、当たり前と言えば当たり前の話です。しかし、この至極当然な理(ことわり)を明文化し、巷で話題となっているのがプロダクトマーケットフィットという考え方なのです。

 「しっかりとした市場規模があり、そこに解決するべき課題があり、その課題に対しての最適な解としてサービスが提供されていること」

 プロダクトマーケットフィットに関する本などに書かれているのは、このようにとてもシンプルなことです。

 僕なりの「課題に対しての最適な解」という箇所の理解はこうです。それが前回も説明した「WHO」「WHAT」「HOW」に要素分解することです。「誰に、何を、どんな形でサービスを届ければいいのか?」。世の中に出回っているサービスやプロダクトをこれに当てはめると、浮かび上がってくるものがあります。スタートアップが成功するヒントというのが見えてくるのです。それは、一言で言えば、「ボタンの掛け違いがない」ということになります。一気通貫していて全てのピントがあっている状態です。そうしたプロダクトがマーケットに受け入れられるのです。

 資産運用という分野で言えば、日本には、まだこのPMFを達成したサービスは存在していないと僕は思います。海外では、アリババグループのアントフィナンシャルが展開する「ユエバオ」という金融商品や、手数料ゼロで株やETFの取引ができる「ロビンフッド」というサービスは、PMF状態に達することで、爆発的なスピードでユーザーを獲得できたと考えられます。これは前回詳しく書いた通りですね。

 「0から1をつくる」ことと「1を10にする」こと

 スタートアップにとって、生き残るために重要なものが、この「プロダクトマーケットフィット」になります。前述のマーク・アンドリーセンは、スタートアップが失敗してしまう最も大きな理由として「PMFを達成できないこと」をあげています。それほど大切なPMFなのですが、僕は、このPMF状態を作ることは「1を10にすること」だと考えています。しかし、スタートアップには、それ以前のフェーズがあります。それが「0から1」をつくるというフェーズです。

 そもそもですが、スタートアップには「0から1」を作るフェーズが必要です。「自分たちの想い」を軸にプロダクトやサービスを具現化していくフェーズです。ある意味、このフェーズでのユーザーヒアリングはあまり意味がないと思います。自らの想いが主なガソリンになっている分、モチベーションも極めて高いですし、クリエイティビティーが最大限に発揮されます。デザイナーやエンジニアというクリエイターたちは、ちょっと傲慢なくらいに「こんな革新的なサービスなら、誰だって使ってくれる!」ということを胸に抱きながら、開発に日夜勤しみます。この初期段階のプロダクトは、熱量の高い、尖った、ユニークなものとなるので、世間から大きな注目も集めます。スタートアップの土台を固めるためには、必要不可欠な期間なのです。

 しかしながら、世の中にサービスが根付いていくフェーズで非常に大切なのは「1を10にする」力です。世の中に受け入れられ、PMF状態を作り、そこからマーケティングの力で広げていく。プロダクトを常に顧客目線でブラッシュアップし続ける。お客さまの声に耳を傾け、お客さまに教えていただきながら、お客さまの想像を超えていく。

 実は「1を10にする」フェーズと、「0から1をつくる」フェーズでは、組織設計や必要な人材も大きく異なってくると思います。この断絶こそが、スタートアップのスケールを難しくしている要因でもあります。この話は、フィンテックから少し離れた「起業論」の話ですので、また別の機会にお話しできればと思います。

 ユーザーにアジャストしていく「テーマ投資」の開発現場

 では、いよいよ僕が率いるFOLIOのプロダクトについて考えていくことにしましょう。

 FOLIOはまずはじめに「テーマ投資」サービスを世に出しましたが、尖った開発をする初期(ゼロイチ)フェーズだったがゆえに、鮮明にはメインターゲットユーザーを定めていなかったところがありました。上述の通り、自分たちの「想い」を重視して爆速で開発したからです。

 しかし、昨今何十回と実施しているユーザーヒアリングが功を奏して、「WHO」のピントが明確に定まってきました。これが決まると必然的に「WHAT」も絞り込まれてきます。まだ、ここは侃侃諤諤のディスカッションで磨き挙げているところではありますが、今までは私たちの想いというか、「(こうある)べき論」でつくってきたテーマ投資というプロダクトが、「1→10」のフェーズに入ってきて、「ユーザーの声に耳を傾けてアジャストしていく」という開発の仕方に大きくシフトチェンジしています。これはPMFというコンセプトを重視しているFOLIOの大きな変化と言っていいでしょう。フェーズによって、いかに柔軟に変化できるかが重要だと思います。

 「ワンコイン投資」はPMFを達成できるか?

 そして、もう1つさらに色濃くPMFの考え方が反映されているFOLIOのプロダクトが、今春リリースされたばかりの「ワンコイン投資」です。これは、LINEプラットフォーム上で展開する「LINEスマート投資」の中の新しいサービスとして提供されています。主な特徴は、「誰でも500円(ワンコイン)から積立投資が始められる」「ロボアドバイザーで簡単に国際分散投資ができる」などです。

 では、「ワンコイン投資」のどこがPMFを意識しているのか?と言うと、まず「WHO」の設定がLINEプラットフォーム上の「WHO」にピッタリと合っています。LINEプラットフォームでは、現時点ではどんな富裕層でも高額決済をするという状況はなかなか想像しづらいのが正直なところです。一方で、スタンプを買ったり、漫画を買ったりと、少額決済を行うことへの心理的ハードルは下がってきています。この点から、ワンコイン投資は、500円から積立投資ができるのでLINEユーザーとの相性は極めて良いと考えています。さらに、投資の王道である「国際分散投資」と「積立投資」をストレスない形で提供していると考えており、その点で「WHAT」としてピントが合っています。

 そして、最後の「HOW」では、「モバイル上のユーザー体験=モバイルUX」が考え抜かれていると言う点が挙げられます。今現在ももちろんそうなっていますが、さらに楽しんでいただけるような新しいモバイルUXをリリースしていきたいと考えているところです。

 そして、「ワンコイン投資」には独自のメタファーが用いられているのも大きな特徴です。日本には「投資する」という行為は生活に根付いていませんが、「500円玉をブタの貯金箱に貯金する」という生活習慣は幅広く認知されています。今回のワンコイン投資はもちろん貯金ではなく投資なのですが、500円から少しずつ投資を始められるという点では、そうした世の中にすでに根付いているコンセプトに近づけたサービスでもあるのです。

 このように、PMF状態を目指しながら、僕らは日々サービスの改善に取り組んでいます。

 FOLIOがPMFを達成した先にある日本の未来とは?

 日銀が3月発表した資金循環統計によると、日本の個人金融資産は1830兆円にのぼります。その半分超の984兆円が現金預金に滞留しており、そこには巨大なマーケットが確実に存在していると考えられます。高齢化と共に、資産の遺産相続などから、今後、こうした巨額な資金が動いていくでしょう。昨今、「資産運用」や「投資」に対する人々のパーセプション(認識)は変化してきていると感じます。いよいよ日本の資産運用・投資サービスは、PMF状態に入れるかどうかということが重要になってくる局面なのではないかと僕は考えています。

 厳しい見方かもしれないですが、前述の通り、僕は日本ではまだ真にPMFを達成したプロダクトはないと思っています。その証拠に、国民の誰もが知っており、そして使っているという投資サービスはないのではないでしょうか。日本において資産運用ビジネスが大きく立ち上がる環境は整いつつあります。

 今まで投資とは縁遠かった人々が500円から積立投資を気軽にはじめられる世界。お茶の間で、日経平均株価の動向について家族みんなで気軽に話し合える空気感。そういう新しい時代が醸成されたとき、きっと多くの人がもっと経済や金融に興味を持ち、自分の住む日本の社会自体に関心を持ち、お金や将来の不安から解放されるべく行動をとりはじめるのではないかと思います。僕らFOLIOは、そんな未来が到来することを信じて、今日もPMF達成に向けてプロダクトを磨く努力を続けています。

 以上、今回は、かなり自社のプロダクトについて書かせてもらいましたが、いかがでしたか? 次回からは、また、国内外のユニークなフィンテック事例などを取り上げてみたいと思っています。またお会いしましょう。どうぞお楽しみに!

株式会社FOLIO

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2983号

加入協会:日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会

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甲斐真一郎(かい・しんいちろう) 「FOLIO」代表取締役CEO
京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。バークレイズ証券を退職後、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。FOLIOはお金と社会にまつわる情報を発信するオウンドメディア「FOUND」も運営している。

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