50代から始める相続税対策(2)手軽な「暦年贈与」
■長期間・複数人対象で効果大 「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった特例を利用することで、相続税が0円になる方は何の対策をしなくてもよいが、そうでない場合は何らかの節税対策を考える余地がある。
110万円まで非課税
相続税対策はいろいろな方法があるが、一番オーソドックスで手軽に始められるのは「生前贈与」だ。相続税はその方が亡くなった時点で持っていた財産に対して課税されるので、亡くなる前に財産の一部を誰かにあげて減らせば、結果的に相続税は少なくなる。
しかし、一度にまとまった財産を他人にあげると、今度は「贈与税」という別の税金が「贈与を受けた側」にかかる。そこで、多くの方が活用している方法が「暦年贈与」という考え方だ。
相続税だけでなく、贈与税にも「基礎控除額」というものがある。つまり、贈与税についても「一定額以下であれば贈与税をかけない」というサービスがある。
贈与税の基礎控除額は「110万円」。その年の1月1日から12月31日までの1年間に、贈与によりもらった財産の合計額が基礎控除額である110万円を超えなければ、贈与税がかからないことになる。
たとえば、この暦年贈与を10年間続けた場合、「110万円×10年間=1100万円」となり、贈与税がかからずに1100万円の相続財産を減らすことがでる。2人の子供に暦年贈与を10年間続ければ「1100万円×2人分=2200万円」、3人の子供であれば「1100万円×3人分=3300万円」の相続財産を10年かけて減らすことができる。
相続税がいくら節税できるかは、相続財産の額に応じて適用される相続税の「税率」によって変わってくるが、この暦年贈与を「長期間」かつ「複数の人」に行うことができれば、相続税の節税効果が高い方法といえる。
暦年贈与をする相手は子供以外でも問題ない。たとえば、孫に年間110万円贈与しても贈与税はかからない。もっとも、配偶者に贈与しても大丈夫だ。さらに、「赤の他人」にあげても受け取る側の金額が年間110万円以内であれば贈与税はかからない。
通帳履歴を「証拠」に
暦年贈与はどのように実行したらよいか。毎年子供たちが集まったときに、手渡しで110万円をポンと渡せばいいのか? それとも、子供たちの預金口座に振り込んだ方がいいのか?
贈与とは、贈与する側の「あげる」という意思表示と、贈与される側の「もらう」という意思表示が合致することで成立する契約である。
そのため、口約束でも贈与は成立する。ただ、口約束だけだと、第三者から見て贈与の事実が客観的によく分からない。そこで、暦年贈与を行う場合には、その都度「贈与契約書」を作成し、かつ現金の手渡しではなく銀行口座に振り込みをして「通帳履歴」を残す方法をすすめたい。
暦年贈与で、まとまったお金を子供に渡してしまうと浪費するのではないか?と心配して、子供名義の通帳に振り込んだことを子供に知らせずに、その通帳を親が管理しているケースがある(これを「名義預金」と言う)。このようなケースでは、子供側に「もらった」という意識がないため、法律上「贈与」が成立しておらず、実質的に親御さんの財産と見なされる。つまり、親御さんの相続財産は一向に減っていないことになる。相続税の税務調査の際に、よく調べられるのがこのケースだ。
暦年贈与を長期間続けていけば、ある程度相続税を節税することはできる。しかし、暦年贈与にも「落とし穴」がある。それは、亡くなる前のいわゆる「駆け込み贈与」はダメという点だ。
相続前過去3年以内に相続人に行われた贈与は、相続税を計算する際に戻され、相続財産に加算される。
たとえば、父親が10年間生前贈与を行って亡くなった場合、過去7年分の贈与は戻されないが、直近3年間に相続人に対して行われていた贈与は、相続税の計算上戻される。
ただ、孫など「相続人以外」に行われた生前贈与は、たとえ相続前3年以内であっても、相続税の計算上、戻されることはない。暦年贈与を成功させるポイントは「元気なうちからコツコツと」。
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■住宅、教育資金でも生前贈与 「使い切れない」場合は注意 「暦年贈与」以外にも、相続税の節税対策として効果的な生前贈与の方法がいくつかある。
新築なら700万円まで
まず「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」というものがある。つまり、父母(養父母を含む)や祖父母など、いわゆる「直系尊属」から、自宅の新築などの資金を贈与した場合、いくつかの要件を満たせば、一定の金額まで贈与税が非課税になる。
たとえば、住宅用家屋の新築のための契約締結日が2020年3月31日までの期間ならば、700万円まで贈与税が非課税となるので(「省エネ・耐震住宅」に該当する場合は1200万円まで非課税)、子供または孫が自宅の新築などを考えている場合には、一括してまとまった資金を非課税で贈与することが可能となる。
ただ、この制度を利用する場合、贈与税の申告期限内に贈与税の申告書を提出するなどの手続きが必要になる。
次は「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」、いわゆる「教育資金の一括贈与」だ。
これは、30歳未満の子供または孫に対して贈与をする場合、教育資金に使う目的であれば「1500万円」まで一括して渡しても贈与税がかからないという制度。ここでいう教育資金とは、学校に支払う授業料や入学金だけでなく、学習塾・水泳教室・ピアノ教室など、学校以外への習い事への支払いも含むため、子供や孫が就学児の場合には、一括してまとまった資金を非課税で贈与することができる。
ただ、贈与を受けた人が30歳になったとき、使い切れずに残っていた金額がある場合には、その時点の残額に贈与税がかかるため、渡し過ぎには注意が必要となる。
この制度を使わなくても、子供や孫に教育資金を「その都度」渡す場合には贈与税がかからないので、その都度渡しの場合でも一定の相続税の節税効果がある。
あげ過ぎに注意
最後は「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」、いわゆる「結婚・子育て資金の一括贈与」だ。これは、父母・祖父母から、結婚や子育てに関する資金を一括でもらった場合、1000万円までならば贈与税が非課税となる制度だ。
具体的には、結婚式や披露宴、結婚に伴い入居する住まいの家賃・敷金・引っ越し費用などの「結婚資金」や、不妊治療・分娩費用・産後ケアの費用や子供の幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)などの「子育て資金」が対象となる。
ただ、贈与を受けていた人が50歳になったとき、使い切れずに残っていた金額がある場合には、その時点の残額に贈与税がかかるため、あげ過ぎには注意が必要だ。
さらに、この制度には「大きな落とし穴」がひとつある。それは、「贈与した人」が亡くなった時点で、使い切れずに残っていた金額がある場合、その残高に相続税が課されるという点だ。先ほど紹介した「教育資金の一括贈与」にはこのような決まりはないため、その違いには要注意だ。
この制度を使わなくても、子供や孫に結婚・子育てに必要な資金を「その都度」渡すのであれば、贈与税はかからない。(『終活読本ソナエ』2019年新春号から)