【IT風土記】神奈川発 AIが国民健康保険料滞納者への電話催告を効率化

 
保険料の未納者に電話催告を行う川崎市中原区にあるコールセンター

 東京都と横浜市に挟まれた神奈川県川崎市は、東京のベッドタウンとして発展した政令指定都市だ。人口は約151万人(2019年2月1日現在)。面積は政令市の中で最小だが、人口規模は神戸市に次いで7番目に大きい。タワーマンションが林立する武蔵小杉を始め、新興住宅地が広がる内陸部に対し、臨海部は京浜工業地帯の一角として大規模な工場が集積する。かつて公害が大きな社会問題となったこのエリアも、今や色とりどりのライトに照らされた工場の夜景が新たな観光スポットとして人気を集めている。

電話催告は月3万8000件

 川崎市は、個人事業者や無職の人が加入する国民健康保険や、75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療保険などの保険料の滞納者に納付を促す電話催告業務にAI(人工知能)の活用を18年11月からスタートさせた。全国の政令市では初の試みだという。

 「市では毎月、滞納者に3万8000件の電話催告をしているが、電話をかけてもなかなか出てもらえない。接触率を上げることが大きな狙い」と、川崎市健康福祉局医療保険部収納管理課の上野勝課長は説明する。

 サラリーマン世帯が多い川崎市は、国民健康保険の世帯加入率は27%と政令市の中で最も低い。一方、加入者の所得水準が高く、保険料の収納率は政令市でトップクラスの水準だ。さまざまな収納強化策を講じ、11年度に88.29%だった収納率は17年度には94.16%まで改善された。

 その対策の一つが「川崎市こくほ・こうきコールセンター」だ。

 国民健康保険や後期高齢者医療保険に関する市民からの問い合わせに総合的に対応するセンターとして15年6月にオープン。民間に業務を委託し、保険料の滞納者に電話をかけて納付を働きかける電話催告や、滞納者の家に出向き納付を求める訪問収納の業務も担っている。

 滞納者の多くは、振り込み口座の残高が不足していたり、納付期限が過ぎているのに気が付かなかったりといった「うっかりミス」のケースが多い。「単純な納付忘れの加入者は電話催告をすると気付いてもらえるので、速やかな納付につながる効果が高い」(上野課長)という。

 ただ、従来の電話催告では、電話をかける順番を特に考慮せず、出力された対象者のリストを見ながら上から順にかけていく単純なやり方だった。このため、仕事などで家にいないタイミングに電話をかけている場合も多かった。そこで、川崎市は17年にコールセンターの業務の新たな委託先を募集する際、AI導入による接触率の改善策を提案したNECに業務を委託した。

データから最適な予測モデルを作成

 では、AIによって電話の接触率はどう向上するのだろうか。

 「家族の人数や年齢、性別で世帯を階層分けし、これまで市が蓄積してきた過去の折衝データなどをAIに読み込ませる。折衝データの中には過去に電話をかけて応答があった時間帯などの情報もあり、これらの情報からAIが予測モデルを作成。国保料の滞納者の接触率の高い時間帯を導き出す」と、業務を委託したNEC神奈川支社・公共ソリューション営業部の鉄野善教部長は説明する。

 これは「異種混合学習」というNECが開発したホワイトボックス型AIを活用したもので、多種多様なビッグデータから複数の規則性を自動で見つけ出す。通常、条件が変わるデータを高精度で分析するのは難しいが、データのパターンから参照する規則性を自動選択し、その規則に基づいて状況に応じた最適な予測モデルを作成する。裏付けとなる根拠も示すため、人間が想定していない予測が出ても納得して業務を進めることができ、精度も非常に高い。

分析すると、意外な結果が…

 実際にAIで予測モデルを立てたところ、単身者や家族世帯、高齢者世帯などそれぞれの属性に応じて接触率が高い時間帯に違いが表れたという。

 「例えば、小学校に通う子供がいる世帯の場合、子供が帰宅する午後3時以降にお母さんが在宅しているケースが高いことが分かってきた」と川崎市健康福祉局医療保険部保険年金課・収納管理課(兼務)の冨田義憲システム担当係長は話す。

 他にも、75歳以上の後期高齢者世帯の場合、午前の早い時間帯か、午後2時~3時の時間帯に電話がつながりやすい。これは午前中に病院に通院する人が多く、通院前後の時間帯の接触率が高くなるからだ。20代の単身世帯は、午前中はほとんど電話がつながらない。無職の人でも午前中は寝ていて電話にでない傾向があり、遅い時間ほどつながる率が高くなるという。

 「AI導入の前後を比較すると、接触率が上がっている。最初の電話で応答する割合も増えている感じだ」とコールセンターの黒田雄大副統括管理は評価する。川崎市によると、接触率は5.98%ほど改善(19年2月時点)しているそうで、より深い分析を行い、接触率の一層の向上を目指す。電話催告の接触率の改善によって、保険料の収納業務のさらなる効率化につながる期待が高いからだ。

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