中国の介護、質でも日本追い越す勢い 日系企業の進出加速

 
アジア諸国に進出する日系介護・病院事業者の数

 介護関連企業の中国進出が加速している。最大の理由は中国の巨大な人口と、進行する高齢化だ。高所得層向け有料老人ホームを運営するほか、近い将来、介護職不足が必至となることを見越し、人材育成事業を始めるところも目立っている。(佐藤好美)

1億人超す空巣(からのす)老人

 介護事業所の中国展開は昨秋、日本と中国の政府間で「サービス産業協力の発展に関する覚書」が結ばれたことで、相互協力の地盤が整った。

 日本企業の海外展開を支援する「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社」のバイスプレジデント、田中克幸さんは、「政府のお墨付きを得て中国企業が動きやすくなった。日本も協力の機運がある」とする。

 日本企業にとって中国の魅力は、人口のインパクトだ。65歳以上の高齢者は2020年に12・2%と見込まれる。日本の28・9%に比べれば低いが、14億の人口に照らせば日本の総人口をも上回る。しかも、36年続いた一人っ子政策の影響で、子供が独立後に老夫婦だけになる「空巣老人」が約1億2千万人にもなると予想される。

日本の高齢者、2040年から減少

 昨年、学研ホールディングス傘下に入った介護大手のメディカル・ケア・サービス(さいたま市)は、中国・広州市などで介護付き有料老人ホームを展開し、上海市では介護教育も行う。海外事業統括部の西山宜彦課長は「共働きで親をみられない家庭が多い」と指摘。

 田中さんは「日本が昭和時代の東京五輪で経済成長したように、北京五輪の不動産バブルで、介護にお金を回せる中間所得層が厚くなってきたことも事業者には魅力」と解説した。

 進出する企業が口にするのが、「日本の高齢者は2040年をピークに減少に転じる」という危機感だ。日本の人口減少、市場縮小に備えて、中国に足がかりを作る狙いがある。

 中国で早くから事業展開してきたリエイ(千葉県浦安市)は、中国3地域で富裕層向けの介護付き有料老人ホームを運営する。2月下旬、介護専門学校などを運営する学校法人敬心学園(東京都新宿区)との業務提携を発表した。中国・武漢市で介護人材を養成する教育機関の設立を目指す。

 現地の教育機関では、中国国内で働く人の養成はもちろん、日本への人材供給も想定している。昨年末に創設された介護人材の在留資格を使って、中国で基礎を学んだ人が日本で経験を積み、いずれ中国に戻って介護現場でリーダーとなる未来も描く。

 介護大手のニチイ学館(千代田区)も北京市などで介護付き有料老人ホームを運営。研修事業の販売も手がける。「日本式の自立支援介護を広めていく余地がある」(同社広報部)とみている。

すでに介護保険も試行

 中国の課題は「豊かになる前に老いる」とされる高齢化のスピードだ。日本が平成12年の介護保険導入から約20年かけたプロセスを、倍速で歩む。介護保険制度は青島市で試行的に始まり、15都市で試験運用されている。

 リエイの椛澤(かばさわ)一社長もスピード感に舌を巻く。「進出した7年前には、認知症の人が介護施設で当たり前のように『拘束』されていた。現在は都市部では、日本の個別ケアの質に追いつきそうだ」という。成果主義も顕著だという。日本では、介護保険サービスの対価は定額。中国では事業者がサービスの質でランク付けされ、対価は事業者のがんばり次第だ。「どちらが資本主義の国か分からない」と椛澤社長。

 一方で、「政治的に力のあるパートナーと組まないと、スムーズに進まないこともある」ともらす関係者も。施設建設の認可が下りない▽高層施設の計画が低層にされる▽人材採用も済んだがオープン許可が下りない-など、日本国内とは違ったハードルが存在するようだ。