昨年末、毎日のように流れていた「ふるさと納税」のテレビCM。それを見て初めて「ふるさと納税」をやってみたという人も多いでしょう。総務省の「ふるさと納税に関する現況調査結果」によると、2017年度の1年間のふるさと納税の件数は約1730万件で、金額は約3653億円に達し、3年前と比較すると件数・金額ともに10倍近く伸びています。ここ数年で急激にふるさと納税が浸透したといえます。(ファイナンシャルプランナー・平野泰嗣)
しかしネットでは、ふるさと納税について「節税」「控除」「節約」といったキーワードが使われ、「お得な制度」であることを強調するものが多く、中には、誤解を生じかねない表現が使われています。ふるさと納税は実際にお得な制度なのでしょうか?
ふるさと納税はそもそも何がお得なの?
ふるさと納税の実態は「納税」ではなく自治体への「寄付」です。一般的に自治体に寄付をした場合は確定申告を行うことで寄付金額の一部が所得税・住民税から控除されます。下図の「所得税の控除額」と「住民税の控除額(基本分)」が該当部分です。ふるさと納税の場合、住民税の控除額(特例分)が通常の控除に加えられて、その結果、原則として、寄付した金額から2000円を除いた額が控除の対象になります。
控除だけがメリットではありません。「ふるさと納税をして何がお得なの?」といわれれば、お得なのは寄付すると、多くの自治体からもらえる特典です。特典内容は各自治体の特産品(酒、米、農産物、水産物)などの「返礼品」です。
例えば、ある自治体に3万円を寄付すると、1万円相当の果物が返礼品として送られてきて、寄付した3万円のうち2万8000円は所得税・住民税で戻ってくるのです。
寄付30000円(支出)-自己負担2000円(支出)=28000円(控除・還付)
さらに…
ほとんどの自治外で返礼品を受け取れる
つまり、ふるさと納税は「実質2000円の自己負担で、金額に応じた返礼品がもらえる制度」ということができます。
寄付金額の「上限」を知る
ふるさと納税を上手に活用するには、実質負担額2000円でできる寄付金額の上限を知ることがカギになります。ふるさと納税は際限なく控除されるというわけではなく、上限が決まっていて、住民税所得割の2割を限度としているからです。この住民税の所得割の金額は、収入や家族構成など、各個人の状況によって異なります。
この上限金額は、残念ながら簡単に計算することはできません。ふるさと納税に関する情報サイトでは、年収と家族構成ごとに目安の上限金額の一覧表や簡易シミュレーションが掲載されているので、それらを活用しましょう。
「住民税からの控除で税金が安くなった」の落し穴
これまでご説明したように、ふるさと納税は「返礼品分がお得な制度」です。冷静にお金の流れを考えると、ふるさと納税は、実質的には「預け金」で、確定申告や6月以降の住民税で控除分として戻ってくるものです。
特に給与所得者の場合は、給料から住民税が「天引き」されるので、住民税からふるさと納税分が控除されていても、手取りが増えたと勘違いしてしまう傾向があります。実際には、ふるさと納税として支出(寄付)したものが、天引きされる住民税で戻されているだけです。実質負担額を2000円におさえたとしても、税金が少なくなっているわけではないのです。
税金や社会保険料を差し引いた手取り収入には、前の年に支出(寄付)した、ふるさと納税分も含まれているので、ふるさと納税の仕組みをよく理解している人は、別に分けて考える必要があることを意識しています。その分を、通常の貯蓄とは別に積み立てておいて、その年のふるさと納税の原資にすれば、ムダな支出に回すことなく、ふるさと納税を最大限有効活用でき、家計内での好循環を生み出すことができるようになるでしょう。
ふるさと納税で「損」しないために
ふるさと納税のお得なポイントはこれまで説明したとおりです。その上で、「実質負担額2000円」を除く支出を“ゼロ”におさえたい場合、次の人は注意しましょう。
◆転職や休職などで収入が下がる可能性がある人
ふるさと納税は、1年間(1月から12月まで)の収入を基準に限度額が決まります。2019年に行ったふるさと納税は、2019年の収入を基準に上限金額が決まります。前年の年収を目安にふるさと納税を行うと、転職などで収入が少なくなる、あるいは育児や介護による休職・退職などで収入がなくなる場合、控除できる上限金額は、前年よりも少なくなる可能性があります。
1年間の収入の見通しがある程度立った11月から12月頃などに、ふるさと納税を利用するほうが無難です。
◆医療費控除や個人型確定拠出年金などの控除がある人
ふるさと納税は収入が多い人ほど、上限金額が上がり、メリットのある制度ですが、もともとの税金が多い分、さまざまな控除を利用していることが考えられます。例えば、最近注目されているiDeCo(個人型確定拠出年金)なども税制上のメリットを受けられます。年収600万円(配偶者被扶養、15歳以下の子ども2人)の場合の上限金額は、約7万7000円ですが、iDeCoを毎月2万円、年間24万円積み立ている場合は、約7万1000円に下がります。
実質負担2000円でできる寄付金額上限の目安を表形式で掲載しているサイトがありますが、細かい前提条件が異なるので、実際の上限金額と食い違いが生じます。もっとも、上限金額を超えると「損」と言ってしまうこと自体、寄付は「損」といってしまうことになるので、善意で寄付した分がより多く発生したと考えると良いでしょう。
確定申告不要 「ワンストップ特例制度」の落し穴
ふるさと納税で所得税・住民税から控除を受けるためには、原則として、確定申告をする必要があります。確定申告をすることで、所得税の控除が受けられ、その分、所得税が少なくなります。そして、確定申告書に記載したふるさと納税の情報が、住所のある市区町村に送られて、住民税から控除されます。
この確定申告などの手続きを省略して利用できるように、2015年から「ふるさと納税ワンストップ特例制度」がスタートしました。ワンストップ特例制度とは、ふるさとの納税を行った自治体に申請書を提出することで、確定申告をすることなく住民税から控除を受けられるというものです。確定申告を行わないため、所得税から控除を受けることはできませんが、不利にならないように、その分を住民税から控除することになっています。
このワンストップ特例制度を利用するには、ふるさと納税を行う自治体の数は5団体までとされていますが、これ以外にも以下の注意点があります。
◆住所変更があった場合は変更届を提出
ふるさと納税を行った自治体に対してワンストップ特例申請を行った後に、住所に変更が生じた場合、その自治体に対し、住所を変更した旨を記載した「変更届出書」を提出する必要があります。
住民税は、その年の1月1日時点の住所地に住民の前年の所得に対して課税されます。特例申請をした自治体は、住民税を課税する自治体にふるさと納税をした情報を連絡しますが、変更届出書を提出しないと、転居前の住所地にその情報が行くことになって、正しい控除が受けられなくなってしまいます。
◆確定申告するとワンストップ特例申請は無効になる
ワンストップ特例申請をした後に、マイホームを購入し、住宅ローン控除を利用する、医療費控除を利用するなどで、確定申告が必要になることもあるでしょう。ワンストップ特例申請をしておけば、住民税からの控除を自動的に受けられるかというとそうではなく、確定申告をすると、ワンストップ特例申請は無効になってしまいます。あらためて確定申告でふるさと納税を記載する必要があります。
ふるさと納税は本当に自治体のためか? 見直しで原点回帰
2019年度の税制改正大綱では、ふるさとの納税の対象を、返礼品を寄付金額の3割以下、地場産品とする案が出されています。ふるさと納税の本来の目的は、地方創生にあります。また、納税先を選択できることで、税の使われ方に関心を持つきっかけとなる制度として位置づけられています。
2017年度に実績のふるさと納税額3653億円のうち、返礼品などの調達に係る費用は約1406億円で納税額に占める割合は38.5%です。返礼品の調達先が地場産品に限定されると、その分、その自治体の産業活性化にもつながります。
ふるさと納税の受け入れにかかる費用は、返礼品の調達費を含めると2027億円に達します。これには、発送料やクレジットカード決済手数料、広報費、その他事務経費が含まれます。実際に自治体がふるさと納税として受け入れて、自由に使えるお金は、差引1,626億円となり、ふるさと納税金額に占める割合は、約45%で半分に満たないという現実もあります。ふるさと納税は、制度の仕組みだけではなく、制度の実態も踏まえて、賢く活用してもらいたいです。
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