得意先に同行した上司が「無能」だった時の対処法 クライアントには“こっそり”こう説明せよ!
【ビジネストラブル撃退道】ビジネスをしていると日々想定外のことやトラブルが発生し、対応や火消しに追われることばかりである。本連載では、そうしたビジネス上発生するトラブルをいかにして回避するかについて実例を挙げて提案していく。第一回は、「上司が無能」という場合の対処法である。(中川淳一郎)
生まれた年が自分よりも早かったとしても、頭の出来や運、人から好かれる能力も自分より上ということばかりではない。もちろん経験の長さがもたらす優れた点をそうしたオッサン・オバサンは持っていることは多いものの、新しいやり方を認めなかったり時代の変化についていけないこともあるわけだ。そうした人間はもはや「老害」であり、本音を言えば閑職に追いやられて欲しいものである。
しかしながらその人の生活もあるわけなので、そこまで無下に扱ってはマズいだろう。多くの仕事は客先との打ち合わせで色々決まっていくが、一緒に行動する上司がどうもアホだな、と疑念を抱いた場合はどうすべきか。
その時の上司の立場としては、「部下を得意先(ないしは下請け・取引先)に連れて行き、その場の会議のイニシアチブを取る」というものだとしよう。しかしながら、自分も上司が言っていることがしっくりこないし、打ち合わせの相手も若干納得していない感覚がある。しかしながら、一応こちら側の責任者として来ているだけに「なるほど」「そうですね」という言葉が行き交う。
これはこの場ではスルーしてもいいだろう。ただ、その後たいして効果がないことが分かっている以上、どうにかしてこの無能上司の提案は撤回しなくてはならない。具体的にどんなものかをここで再現してみよう。あくまでも「仮」のものである。打ち合わせの現場ではこんなやり取りになったとする。上司の名前は「山田」(仮)だ。
山田:「今はツイッターやインスタグラムを使ったキャンペーンが若者に人気があります。コスメについて著名なツイッター&インスタグラムユーザーリストというものを今回入手しましたので、この方々に御社の化粧品について投稿していただければ、バズりますよ!」
客:「なるほど、この方々は有名な方々で、どれだけのKPIがあるのでしょうか?」
自分:「(心の声)山田さん…。それ、こうしたインフルエンサー(笑)を束ねる事務所の言い分に従っているだけですよ……。この人達、カネでフォロワー買っている人もいるし、たかだか800人のフォロワーの人を『効果あり』って言える根拠あるの?」
山田:「KPIについてお約束はできませんが、私が信用している、インフルエンサーを束ねるプロダクションの人から、御社に合った人々を絞り込んで厳選したリストがこの方々です。過去にA社も効果を挙げたということをそのプロダクションは言っていました」
客:「なるほど、ここに300万円を投下するわけですね。ウチはこれまで検索連動型広告を中心にやってきたため、こうしたインフルエンサーマーケティングはあまり経験がないのですが、なにとぞここからの運用をお手伝いいただければ幸いです。ならばこの5人の方々に弊社の商品をお渡しし、そこから最大の拡散をお願いいたします」
山田:「はい、分かりました、事務所にはその旨お伝えします。その時にもっとも効果的なワーディング等も含めて提案させていただきますね。ちなみにどんな言葉を盛り込むべきか、などをメールでお送りいただけませんでしょうか。それを基に事務所にはオリエンをしますので」
自分:「(心の声)おいおい、これって一番やべーパターンじゃねぇかよ…」
ここではこうした「インフルエンサーマーケティング」の是非は問わない。ただし、無能な上司というものは、売り込まれたものに関するセールストークを真に受けてしまいがちなのである。大体、売り込みをかける側はいいことしか言わない。
そして、こうした上司的な立場にいる人間は、得意先から呼ばれた時には、「何か持っていかなくちゃ今日の打ち合わせの時間、『何も用意していない』と思われちゃうな…。とりあえず、この『インフルエンサーマーケティング』のパッケージ商品を持っていくか」というメンタリティになってしまうのだ。
ここには本当に客のためになるのかどうかという視点はなく、「とにかく打ち合わせの1時間をどう『仕事したふり』をするか」という発想になる。
結果的にこの「インフルエンサーマーケティング」はクライアントの社内で検討されることになるが「効果がよくわからない」ということで採用には至らないことに。しかしながら山田上司は「提案はしたぞ」ということでとりあえずは満足している。
だが、山田上司はただのバカである。こんな上司が上にいた場合は、クライアントの中で山田上司の提案にビミョーな表情を浮かべた人にこっそりと30分ほど時間を作ってもらう方がいい。そして、会ってもらえた場合は、こう言う。
「すいません、この前山田が提案した『インフルエンサーマーケティング』ですが、正直どう思いましたか? 私はアレの効果というものについては正直疑問符がつきます。色々とデータを見ても、そこまでの拡散力がないと思うのです」
こうして各種データを見せ、この企画に300万円を投下させることを阻止するのである。先方の「わかってる人」が納得した場合は「私がこうして今日来たことについては山田には言わないでくださいね。私の上司とはいえ、お客様に提案する内容が若干頓珍漢なところがありまして…」と言ってしまう。
かくして次の打ち合わせでは、この300万円の「インフルエンサーマーケティング」は却下されることとなる。山田氏がテキトーな提案をすることはクライアント企業内では周知の事実となり、若手の自分を指名で仕事が来ることとなる。
とにかく無能上司だと判断した場合は、越権行為と言われるかもしれないが、クライアントと直でやり取りをしてしまう。そして、自分が指名されるだけの人間になってしまおう。だが、提案する内容はキチンとした根拠がある、無能上司以上のレベルのものでなくてはならないシビアさはあることを覚えておきたい。
【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
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【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。
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