一円玉は消えてしまうか…電子マネーに押され出番激減
一円硬貨の流通量が減っている。電子マネーなどで代金を支払うキャッシュレス化が進み、政府が流通用硬貨の製造を中止しているためだ。「道端に落ちていても拾わない」。買い物客らからは、そのような声も聞かれる。消費税が8%から10%へ引き上げられる来年10月以降は、「ますます使われなくなる」と専門家は予測する。一円硬貨はこのまま消えてしまうか。(吉国在)
一円硬貨は邪魔者?
「拾う労力はお金に換算すれば5円かかるらしい」
大阪市中央区のコーヒーチェーン「スターバックス」で電子マネーを使って商品を購入した堺市北区の主婦(46)は、落ちた1円硬貨を拾わない理由をこう説明。普段の生活でほぼ現金を使わないという大阪市中央区の会社員の男性(50)も「小銭で財布がかさばるとイライラするし、電子マネーを使えば、ポイントもたまる」と“キャッシュレス決済”の利点を強調する。
日本銀行によると、平成29年の一円硬貨の流通量は378億枚。15年連続で減っており、ピークだった14年の410億枚と比べ、10%近く減少している。15年間で32億円分が消えた計算となる。劣化して使えなくなったり、需要がなくなったりすると、民間の金融機関から日銀へと回収されるのだという。
他の硬貨については、10円や5円の小銭の流通量が減る傾向にある一方、100円や500円硬貨の流通量は増えている。
電子マネーが“後押し”
流通量が減った最大の要因は電子マネーの普及だ。電子マネーはコンビニエンスストアやスーパー、駅の売店などでの利用が進んでおり、財布から小銭を取り出す機会はめっきり少なくなった。
日銀によると、電子マネーの決済額は29年には5兆円超に達しており、統計を取り始めた20年の約7倍になっている。経済産業省は現状2割程度のキャッシュレス決済比率を、39(2027)年には4割にまで高める目標を掲げており、流通量の減少傾向は止まりそうにない。
消費税が製造量に影響
出番が激減する一円硬貨が脚光を浴びたのは、平成元年に3%の消費税が導入されたときだ。政府は釣り銭用の需要増を見込んで、製造量を23億枚超へと前年に比べ、ほぼ倍増させた。
ところが、9年に消費税が5%に引き上げられると需要は低迷し、23~25年は収集家向けの記念硬貨セット用を除いて、流通用の製造を中止。消費税が8%へ引き上げられた26年、4年ぶりに製造が再開されたものの、需要は予想よりも伸びず、28年以降は再び製造を取りやめている。
来年10月に消費税が10%に引き上げられれば、100円の商品にかかる消費税額が10円となることから、需要はさらに減る見通しだ。
一円硬貨に未来はあるのか。公共経済政策に詳しい一橋大経済研究所の北村行伸教授は「電子マネーに押され、今後も使う機会はどんどんと減るが、現在流通している最も小さな額の硬貨。現金での取引が続く限り、なくなるとは考えづらい」と話している。
■一円硬貨 日本政府が発行する貨幣で、額面が1円の硬貨。現在の一円硬貨は昭和30年に発行され、大半が、大阪市北区の独立行政法人造幣局で製造されている。サイズは直径が20ミリ、厚さ約1・5ミリで、重さが1グラム。材質は純アルミニウムで、表面に公募で選ばれた「若木」のデザインがあしらわれている。
関連記事