【IT風土記】岐阜発 目指すは「お金の地産地消」 飛騨信組が取り組む電子地域通貨「さるぼぼコイン」

 
電子地域通貨「さるぼぼコイン」の運用をスタートさせた飛騨信用組合

 岐阜県高山市の飛騨信用組合が、昨年12月から電子地域通貨「さるぼぼコイン」の運用をスタートさせた。店頭に掲示した二次元コードに専用アプリを起動したスマートフォンをかざすだけで簡単に決済ができるシステムだ。二次元コード決済の電子地域通貨の運用は金融機関として初めての取り組みだという。利用できるのは、高山市・飛騨市・白川村という外国人観光客にも人気のエリア。地元のお金を地元で消費する「お金の地産地消」による地元経済の活性化を目指している。

 二次元コードで簡単決済

 「地元の100事業者が参加してスタートしましたが、今年4月時点で約670の事業者から加盟の申し込みがあり、作業が追い付かない状態です。現在は約450事業者で利用できるようになっています」。こう語るのは飛騨信組ブランド戦略部の水口昌己部長だ。

 「さるぼぼコイン」は専用二次元コードを店内に掲示し、アプリを立ち上げたスマートフォンで二次元コードを読み込み、金額をスマホに打ち込むだけで決済が完了する。東京のITベンチャー、アイリッジが開発した「MoneyEasy(マネーイージー)」という電子地域通貨プラットホームを採用したシステムで、クレジットカードや電子マネー対応の専用読み取り端末を必要とせず、導入コストをかけずにキャッシュレス決済が実現できる。

 スマホに「さるぼぼコイン」のアプリをダウンロードし、飛騨信組の口座や信組の窓口でお金をチャージすると、1コイン=1円で利用が可能になる。加盟店は支払いに使われたコインを預金口座に換金して入金できるだけでなく、他の加盟店への送金にも利用できる。アプリには、加盟店の店舗情報やGPS機能を活用した地図案内なども掲載。割引のキャンペーンなど利用者向けの誘客にも活用することができる。ただ、地域通貨なので、「さるぼぼコイン」が使えるのは、飛騨信組の営業エリアである高山市、飛騨市、白川村の加盟店に限られ、利用者も現在のところ、このエリアの住民が中心だ。

 「地元においしい寿司店があるのに、地元の人はわざわざ富山や石川まで食べに出かけてしまう。高速道路などの交通網が発達によってエリア外での消費が増え、地元はシャッター商店街が増えてしまいました。このままでは先細るばかり。地元にお金を回す仕組みを模索する中で、電子地域通貨にチャレンジすることにしました」と、水口部長は、「さるぼぼコイン」を導入した背景を話してくれた。

 地元のお金を地元で消費

 飛騨信組の営業エリアには高山市だけで年間460万人もの観光客が訪れる。他の自治体同様、先行きは厳しさが増す。2005年の市町村合併で日本一面積の広い市となった高山市だが、人口は9万人を割り込み、合併当初目標としていた10万都市が遠のいている。飛騨市も人口減に悩まされており、地域経済の地盤沈下が危惧されている。

 飛騨高山エリアでしか使えない「さるぼぼコイン」の利用が広がることで、利用者がお金を地元で消費するようになれば、エリア内の加盟店の売り上げが増える。それによって、雇用や所得が増える。増えた所得をさらに地元で消費することでプラスの好循環が生み出す。地元の経済が盛り上がれば、飛騨信組へ預金や貸金も増える。これが、飛騨信組が期待する効果だ。

 このシステムでは、飛騨信組から発行を受けた二次元コード入りのポスターやステッカーを店内に掲示するだけでよく、加盟店は読み取り端末などの高額な投資を必要としない。さらに、飛騨信組は顧客からの支払いの際にかかる決済手数料を無料に設定し、地元の店舗が導入しやすい環境を整えた。こうした取り組みに自治体の関心を寄せ、飛騨市の都竹淳也(つづく・じゅんや)市長は「アプリを活用して、市の情報を発信できるようにするなど市と飛騨信組、市民がウィンウィンの関係となるような取り組みを進めたい」としている。

 アイリッジの小田健太郎社長は「地域振興は日本中のすべての地域の課題ですが、一つのウルトラCで解決できるものではなく、いろいろな取り組みをしなくてはなりません。電子地域通貨は、その一つに十分なりうるツールです」と語る。アイリッジのプラットホームを利用した電子地域通貨は、愛媛県松山市の伊予銀行、長崎県佐世保市のリゾート施設、ハウステンボス、千葉県木更津市でも君津信組と全国に広がりつつある。

 ただ、4月現在の「さるぼぼコイン」の利用者数は約3500人。販売額は約3億円にとどまる。加盟店の期待は大きい半面、飛騨信組が設定した利用者数1万人、コイン販売額20億円という目標にはまだ届いていないのが実情だ。普及に向けて、飛騨信組はどんな対策を講じ、今後、どんな戦略を進めていくのか。

この続きはNECのビジネス情報サイト「wisdom(閲読無料)」でお読みください