なぜ好運に恵まれる人は「いいやつ」なのか 成功を掴む「人柄」の身につけ方

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 漫画原作者の鍋島雅治さんは「漫画家として成功する人は『いいやつ』であることが多い」といいます。漫画業界は才能や努力だけでは生き残れない厳しい世界です。そこで「運」に恵まれてヒットを飛ばすには、「人柄が大事」だと鍋島さんはいいます。鍋島が強調する「運は人柄」とは、どういう意味なのでしょうか--。

 ※本稿は、鍋島雅治『運は人柄 誰もが気付いている人生好転のコツ』(角川新書)の一部を再編集したものです。

 わたしが「運は人柄である」と考える根拠

 成功する漫画家に必要なのは、「才能:努力:運」である。

 その割合はおおむね「才能1:努力2:運7」ではないか。

 そして、その「運」とは「人柄」、すなわち「コミュニケーション・スキル」であり、努力次第で高めることができる。

 ゆえに、運という“かたち”の見えない“もの”は、高められるのである--。

 これこそ、わたしが「運は人柄である」と考える根拠です。その「運」を高めるコツや方法、実例の前に、まず「人柄」とはなにかを考えてみましょう。

 「人柄」とは、一般的に人の人品、つまり、品性や人格を意味するもの。わたしの「運は人柄」という考えをもとにすると、そこでは「愛嬌」が多くを占めているのではないかと思います。

 「愛嬌」とは、にこやかで可愛らしい様のことを指します。ですが、わたしはもう少し踏み込んでこの「愛嬌」というものを解釈しています。男性から見ても女性から見ても、あるいは年上から見ても年下から見ても、「可愛げ」があることではないかととらえているのです。

 そんな「可愛げのある愛嬌」を持つ人は、人に好かれたり、愛されたりしやすい。どんな人からも愛されやすい人は、当然のことながら運が高まる傾向にあるのではないでしょうか。

 自分の運気を上げるための“経験則”

 たとえば漫画家の仕事の場合、定番のピンチといえば「仕事がない」ことや「忙しくてひとりでは締め切りに間に合わない」ことかもしれない。前者ならば、年上の先輩が「おい、大丈夫か? 仕事を振ってやろうか」と救いの手を差し伸べてくれる。後者であれば、「よかったら手伝いましょうか?」と年下の後輩がアシスタントを買って出てくれる。ピンチにあえいでいた漫画家は、思わず「オレは運がいいな!」と感じることでしょう。それはやはり、その漫画家が多くの人から好かれ愛されているからに他なりません。愛される人には、そういった運が向いてくるのです。

 では、そんな「可愛げ」はなにによって身につけられるのか? 具体的な方法やコツは後述しますが、大前提としては、「一日一善」のような行動を通じて、「徳を積む」ことにあると見ています。男性、女性、先輩、後輩にかかわらず、人には親切にする。そういったことが、人から愛される可愛げにつながり、いざというときの運のよさにつながっていく。

 「一日一善」「徳を積む」「人には親切にする」といった言葉は、むかしから言われていた、ある種“陳腐な言葉”かもしれません。教訓めいたというか、押しつけがましい訓話のようにも聞こえるでしょう。ただ、わたしは思うのです。それらの陳腐な言葉たちは、自分の運気を上げるための“経験則”として、むかしの人たちから言い伝えられてきた言葉なのではないかと。

 人に受けた恩を下の世代に流す

 人柄のよさを意味する「愛嬌」「可愛げ」をもう少し深く考えてみましょうか。

 この点において、わたしは「自分もあんな親切なおじさんになりたいな」と下の世代に思われるような人間であろうと心がけています。具体的に言うと、「人に受けた恩を下の世代に流す」人物でいたい。つまり、上の世代から受けた親切や厚意を、自分も下の世代にわたしたいということです。

 一見これは、「情けは人の為ならず」と同じく、人にかけた情けは巡り巡って自分に返ってくる、という心がけに感じられるかもしれません。しかし、それはちょっと認識がちがいます。わたしはフリーランスの身だから後輩たちに助けられる局面がありますので、結果的にはそうなっていることもあるでしょう。ちがうのは、結果的にそうなっているだけで、恩を下の世代に流してもその見返りは考えないという点です。

 見返りを考えてかけた恩というものは、受けた身からしたら少し複雑な気持ちになりますよね。ありがたいことはありがたいのだけど、どこか利用されているようでもあってなんだかいい気はしない。そんなことでは、「愛嬌」や「可愛げ」にはつながりにくいのです。となれば、やっぱり見返りは求めないほうがいい。

 大切なのは、もっと大きなものの見方をすること。「人に受けた恩を下の世代に流す」ということは、大げさではなく世の中全体をよくすることにつながっていきます。機会に恵まれない若い才能や、若いがゆえに進まないものごとに手を貸す。それって、未来をよくする一種の社会貢献じゃないですか。自分への見返りを期待するよりも、そのような気持ちで恩をかけるほうがお互いの気持ちもいい。そして結果的に、下の立場の人間から尊敬されるかもしれないし、自分の運を高めることにもつながると思うのです。そんな先輩が困っていたら、後輩として助けてあげたくなるに決まっていますから。

 「師匠」として学ばせてもらっている証し

 さらに、この「人に受けた恩を下の世代に流す」という行為は、下の世代だけではなく、上の世代からも可愛がられることに関連していきます。恩をかけてくれた上の人は、かけた相手が自分と同じように下の世代を助けていたら「こいつはよくわかっているな」とちゃんと評価してくれるでしょう。その人自身が下の世代を助けてくれるような人物なのだから、当然のことです。それは、自分と同じように振る舞うその人をより可愛がり、引き立てたくなる気持ちにつながるはず。

 つまり、「人に受けた恩を下の世代に流す」とは、上の世代の人への尊敬でもあるのです。いわば、「師匠」としてその人から学ばせてもらっている証しでもある。そうやって、上から下へと“時代”や“伝統”のようなものがつながっていくのではないでしょうか。

 わたしは仕事柄、作品づくりのためにたくさんの人に話を聞きます。いわゆる取材というものです。医師や弁護士、警察官や自衛官といった専門的な職業を扱う作品の場合は、実際にその職業に就いている人の話を聞くのが一番。取材のために、「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」と電話やメールをする際、「なんでも聞いてよ、鍋島さん!」と喜んで取材を受けてくれ、なおかつかなり際どい話までしてくれる人は、とてもありがたい存在です。特に、あらたまった取材ではなく、ちょっと疑問に思ったことをサッと確認したいというときは本当に助かる。それにはビジネスライクな関係ではなく、お互いに人として好きかどうかという関係がものをいう。つまり、「愛嬌」「可愛げ」が大事な場面で効いてくるというわけです。

 「人に受けた恩を下の世代に流す」という行為は、そういった素晴らしい人間関係をも築いてくれるのです。

 機嫌よく人に頼める人間であれ

 「下の世代に流す」に通じる部分も多い話ですが、「人に頼める」というのも「愛嬌」や「可愛げ」があるからであって、人柄がいいからできる行為だととらえています。

 仕事において、「オレは仕事ができる。みんなついてこい!」というタイプがいるとしましょう。こうしたタイプが持っている、自分の能力に自信がある点はとても素晴らしいこと。ただ、度が過ぎると周囲からの嫉(そね)みにつながることも事実です。

 「なにをやっているんだ! そんなこともできないのか! 見ておけ、オレがやってみせる」

 実際にできれば「どうだ!」となり、これが続くと「どうせあなたはひとりでできるんでしょ」と周囲はただただ嫉んでいく。だから、実際に飛び抜けて能力が高く仕事ができ過ぎる人に限って、年を経ると自分が塔のテッペンに立ってはいるが周囲には誰もいない。最後は誰もついてきていない、という状況になっているものです。

 つまり、いつまでも我を通し続けてしまう人は「可愛げ」がないんです。

 とはいえ、真の天才ならばそれも致し方ないのかもしれない。「天才とは孤独である」とはむかしから言われることですからね。しかし、中途半端に仕事ができるくらいのレベルの人がこうなってしまうと、晩年はちょっと悲惨な状況になる。理解者が周囲にまったくいないという状況は、かなりつらいものがあります。

 「一生、ついていこう!」と恩を感じる

 だからこそ、「自分は完璧な人間でもないし、天才でもない」という自覚があるならば、すべてを自分で背負わず、ときにはウソでもいいから人を頼ってみるといい。

 「オレ、いま手が一杯でさ」

 「オレよりきみのほうがセンスがあるから、助けてくれないかな?」

 「頼りにしているよ」

 できる人からこんなふうに言われたら、頼られる人だって悪い気はしません。相手が弱さを認める一方で、自分が認められるという証しでもあるのですから。さらに、もしあなたに一定の実力があり頼まれるほうもそれを理解しているなら、こんなふうにさえ感じるかもしれませんよ。

 「この人、本当は自分でもできるのにオレに仕事を振ってくれたということは、オレに仕事や経験を与えてくれようとしているのかな?」

 頼まれたほうは、あなたに「一生、ついていこう!」と恩を感じ、あなたを「師匠」的なまなざしで見るようになる可能性だってある。

 会社のなかで生き残り出世をしているのは、こうした「人に頼める」タイプが意外と多いと思うのです。若いころから突き抜けるような才能があって、「他の連中はみんなバカ。オレ以外はゴミばかり」なんて言って本当に仕事ができてしまうタイプは、いずれ居場所がなくなり、その会社からいなくなっていることも少なくない。

 楽しく充実した人生を送るために

 一方で、「人に頼める」タイプは、人から話しかけられやすい人でもある。それは、自分の弱さをさらけ出しているからこそとも言えますが、もうひとつ、おそらく機嫌のちがいもあるのでしょう。

 才能があり仕事が“でき過ぎる”人は、自分が優秀な分、周囲のできなさが目につきイライラしがちで、結果として機嫌が悪く見えます。一方、「人に頼める」人は、そういったイライラとは無縁ですから、なんとなくいつも機嫌がよさそうで、周囲の人間も話しかけやすい。それが、ひいては人柄の善し悪しにもつながっていく。

 仕事でもプライベートでも、会社でも学校でもどんなところでも、人間が生きていくうえで他者とのコミュニケーションは避けてはとおれません。多くの人にとって、自分が身を置く世界で成功したり、楽しく充実した人生を送るには、やはり「運=人柄」が大事になってくるのです。

 鍋島 雅治(なべしま・まさはる)

 漫画原作者、作家

 1963年、長崎県生まれ。長崎県立佐世保商業高等学校、中央大学文学部卒業。スタジオ・シップ勤務後に漫画原作者として活躍。代表作に『築地魚河岸三代目』(小学館)、『東京地検特捜部長・鬼島平八郎』(日本文芸社のち小池書院)、『火災調査官 紅蓮次郎』(日本文芸社)。現在は東京工芸大学芸術学部マンガ学科の非常勤講師なども務める。

 (漫画原作者・作家 鍋島 雅治 写真=iStock.com)