「インスタ映え」の功罪 そこから生まれた“闇ITしぐさ”

 

 今年の「新語・流行語大賞」で年間大賞を取った「インスタ映え」。写真共有サービス「Instagram」で写真の見栄えのよさを意味する言葉で、インスタ映えする場所や食べ物、家電などが話題になっている。

 Instagramでは「#インスタ映え」で72万件以上もの投稿(記事掲載時点)がある。色鮮やかなお菓子やきれいな景色の写真が並ぶが、インスタ映えの流行にネガティブな声を上げる人も少なくない。

 Google検索で「インスタ映え」を検索すると、関連する検索キーワードで「写真の撮り方」「食べ物」「場所」などがある一方で「うざい」「くだらない」「バカ」などネガティブな言葉も並ぶ。ときには「インスタ蝿」などとやゆされることもあるが、なぜここまでインスタ映えに対して世間の風当たりは厳しいのか。

 きらきらと華やかなイメージがある「インスタ映え」には、“闇ITしぐさ”ともいうべき負の側面もあるようだ。

 「行き過ぎた行動」に苦言 “拡散歓迎”の声も

 友人や知人と食事に行ったとき、料理が来た瞬間に撮影会が始まり、せっかくの料理が冷めてしまった--なんて経験をした人もいるかもしれない。そのような個人的なモヤモヤにとどまらず、インスタ映えするソフトクリームやお菓子が撮影後に捨てられていたり、撮影用に食べられない量の料理を注文したりといった“行き過ぎた行動”もTwitterなどで話題となった。

 最近では、インスタ映えするスポットとして人気だった大阪の港湾(ベイ)エリアの一角が、訪問客のマナー違反などが問題で閉鎖されることが決まったと報道された。もちろん、インスタ映えを目的とした人たちばかりではないが、人が多く集まることで騒音やごみのポイ捨てなどが問題になった。

 また、今年7月には若い女性たちが「インスタ映えする」と、商品を何も買わずに店内で写真を撮って退店したというツイートも拡散された。SNSで拡散されることで商品の宣伝になる面もある一方で、マナー違反だという声も少なくない。

 書店やコンビニエンスストアでの雑誌や書籍の撮影は“デジタル万引き”と称され店側からは嫌がられる風潮もあったが、「写真OK」看板で話題になったダイソーのようにSNS拡散を推奨する企業もある。ダイソーはもともと「他のお客さまの迷惑にならなければ店内でも撮影はOK」としており、SNS上での情報拡散に前向きだ。

 また、最近ではインスタ映えを意識した美術展なども増えてきた。森美術館(東京・六本木)で開催中のアート展「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」では、SNS映えを意識したアートがいくつも用意されている。実際に行って驚いたのが、館内の壁にInstagramなどSNSアイコンが貼られていたこと。写真撮影やSNS投稿を全面的に推奨しているようで、Instagramでも各撮影スポットでの写真が4000件以上も投稿されていた。口コミで話題になった「ナイトプール」も、Instagramが人気に火を付けた一因だったといっても過言ではないはずだ。

 インスタ映えの功罪

 いくつかの問題を抱えつつも、ユーザーにとってはインスタ映えを意識することで「写真技術を楽しみながら向上できる」というメリットもある。友達や全く知らない人から「いいね!」をもらうため、試行錯誤しながら“お気に入りの1枚”の撮影に尽力する。

 リコーの全天球カメラ「THETA」を使い、Instagramを楽しむ女性に取材した際は、「(いろんな荷物を入れるので)リュックはすごく重いんですが、Instagramでコメントをもらえたときのうれしさが尋常じゃないんですよね」とうれしそうに語る姿が印象的だった。

 遠出する際は、iPhone、キヤノンの一眼レフカメラ「EOS Kiss X5」、360度写真が撮れる「THETA SC」の他、100円ショップで買ったビー玉や水晶玉などの小道具も携え“フル装備”で向かうという。

 スキルシェアサービス「ストアカ」などでは、スマホカメラ教室を開く人たちも。「いいね!が増える」「SNS映え」などの文言が並び、スマホ撮影の技術を向上させたいニーズがあることがうかがえる。

 今年の「新語・流行語」には「AIスピーカー」「炎上○○」などIT・ネット用語も多くノミネートされた。来年を象徴する言葉は何になるのか。そこから生まれる“ITしぐさ”にも注目したい。

 ○ITmedia チーフキュレーター・松尾から一言

 「マストドンのインスタンスに映えるような投稿? 違うの? そうか……。例えばApple Storeは数年前は店内撮影厳禁で、「広報に問い合わせてください」だった。かつて写メがそうだったように、インスタ映えは確実によい方向に世の中を変えていっていると思う。若い女性がレンズ沼にズブズブ入っていく素晴らしい世界に」

 ●連載:「ITしぐさ」にツッコミ隊

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