常識知らずの若手、どう指導? 礼儀がなってない「モンスター新人」の取扱説明書

提供:PRESIDENT Online
※写真はイメージです(Getty Images)

 「先輩が話しているのに、スマホをいじる」。元横綱・日馬富士の貴ノ岩への暴行は、横綱・白鵬の説教中に貴ノ岩がスマホを操作したことに腹を立てたからだという。日馬富士は引退会見で「礼儀・礼節」という言葉を何度も発した。もちろん暴行は許されることではない。だが、「常識」を知らない若手にどう指導すればいいのか--。

 日馬富士「礼儀礼節を直し教えるのは先輩の義務」

 貴ノ岩に対する暴行の責任を取って引退した元横綱・日馬富士は引退会見で「礼儀・礼節」という言葉を何度も発した。

 「先輩横綱として『弟弟子』が礼儀と礼節がなっていない時に、それを正し、直し、教えてあげるのは先輩としての義務だと思っています」

 日本相撲協会の発表によると、元横綱・日馬富士の貴ノ岩への暴行は、横綱・白鵬の説教中に貴ノ岩がスマホを操作したことに腹を立てたからだという。

 礼儀作法やマナーを覚えることは一人前の社会人になるには不可欠であり、相撲だけではなくビジネスの世界も基本中の基本だ。とはいえ、それをわからせるために上司や先輩が暴力を振るうことはもちろん、暴言を吐くことは絶対に許されることではないだろう。

 そもそもそうしたパワハラをする者は、ひとりの人間として互いの尊重を前提とする「礼儀」の精神から逸脱している。それこそ“礼儀知らず”だ。

 ▼企業でも若手に対する“暴行”がまかり通っている

 企業のなかでも、後輩へのパワハラまがいの指導はまだなくなっていない。ブラック企業に対する風当たりは年々強まっているにもかかわらず、懲りない面々が組織の中にはいるのだ。最近ではこんなひどい例が報じられている。

 2013年、製薬会社「ゼリア新薬工業」の男性新入社員(当時22歳)が、研修会社による「意識行動変革研修」を受けたところ、精神疾患(統合失調症)を発症し過労自殺したとして、今年8月、男性の両親らが同社と講師などに約1億円の損害賠償の訴訟を起こした。研修では、講師から「吃音(きつおん)」と決めつけられ、いじめられた経験を同期入社42人の前で言わされたという。労働基準監督署は、労災認定基準の「ひどいいやがらせ、いじめに該当する」と判断し、男性の自殺は労災と認定している。

 すぐ離職する若手 原因は本人にあるのか組織にあるのか

 厚生労働省の「新規学卒者の離職状況(2014年3月卒業者)」(2017年9月)によると、2015年大卒就職者の3年以内の離職率は32.2%。高卒も40.8%、中卒67.7%となっている。

 大卒の内訳は入社1年目で12.3%、2年目で10.6%、3年目で9.4%と毎年10%前後が離職している。新人の離職率の増加は、採用・教育に費やしたコストの損失以上に経営のリスクに直結する。

 せっかく就職したのに、なぜ早々に離職してしまうのか。

 2013年の同省の調査によれば、若者の離職理由で最も多かったのは「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」(22.2%)だった。それに続くのは「人間関係がよくなかった」(19.6%)、「仕事が自分に合わない」(18.8%)。

 人間関係が悪い、仕事が合わない。そんな回答を深読みすると、前述したような「パワハラ指導」が原因という若者も相当数存在すると思われる。

 ▼スマホをいじる、敬語が使えない、あいさつができない

 ただし、最近の新人や若手社員の側に全く問題がないわけではない。私は日々、多くの人事担当者に取材しているが、彼らからはしばしば愚痴や嘆きの声を聞く。

 「最近の若い子は敬語が使えない」

 「取引先に帯同しても一言も話さない」

 「厳しく注意すると翌日に母親から体調を崩して休むとの連絡が入った」

 「始業時間ぎりぎりに出社して、あいさつもしないで平然と着席する」

 また、日馬富士や白鵬など先輩横綱が貴ノ岩に指摘したように、「こちらが話しているのにスマホをしている若者も少なくない」という。

 企業の若手育成能力低下でモンスター社員が増殖

 こうした若者の傾向について石油業の人事課長はこう冷ややかに語る。

 「バブル崩壊以降のこの20数年間に大企業の倒産や不況の現実を目の当たりにして育ち、安定や安心、安全を求める傾向が強くなっているのではないか。しかも、親や学校に大事にされ、安全なレールの中での選択肢しか与えられず、厳しい現実と対峙した経験も少ない。社会全体が過保護にしてきたからでしょう」

 もちろん企業も新入社員への対応については、研修をはじめ仕事を通じて業務上の知識やスキルを習得するOJTなどを実施している。

 だが、近年ではOJTがあまり機能していないともいう。上司や職場のメンバーが自分の仕事に忙しく、新人の成長度合いを共有することなく、若手社員の少し先輩である指導役に任せっぱなしにしている、といった背景があるからだ。

 厚生労働省の「能力開発基本調査」(2016年)でも能力開発や人材育成に何らかの問題があると解答した事業所は72.9%も存在する。

 具体的な問題点では「指導する人材が不足している」(53.4%)とする企業が最も多く、続いて「人材育成を行う時間がない」(49.7%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(43.8%)と答えている。

 若手の仕事への意欲が不足している原因は以前より企業の育成能力が低くなっていることがあげられるのだ。このことが、礼儀・礼節を知らず人の話も聞かないモンスター化した若手社員が増殖する原因となっているのかもしれない。

 ▼外国人社員も日本式の「組織」になじめない

 今後ますます先輩社員と若手社員との軋轢や乖離は大きくなり、若手の定着率は下がっていくかもしれない。しかも、日本式の「組織」になじめない存在は他にもいる。外国人社員だ。

 相撲界に限らず日本企業も2010年以降、外国人留学生を中心に外国人を積極的に採用している。だが、せっかく優秀な外国人を採用しても定着しないという問題を抱えている。

 新人や外国人という「多様性」をどう受け入れるか

 グローバル人材の採用支援事業を行うフォースバレー・コンシェルジュが企業に聞いた入社後3年の外国人の離職率は5~100%と大きく企業によって開きがあった。

 外国人は日本企業のどういうところに不満を持っているのか。同社に相談にくる外国人社員の代表的な声は次のようなものだ。

 ・つまらない仕事しか与えられない

 ・評価基準が不透明でまともな説明がない

 ・外国人である自分はいろいろな面で不利である

 ・本音で相談できる相手がいない

 ・どうすればマネージャーになれるかまったくわからない

 こうした声の背景には日本の雇用慣行と外国人の職業観の違いがある。長期雇用を前提とする日本企業では年功的運用で昇進が遅く、新卒採用後は育成を目的にさまざまな仕事を経験する「下積み」期間がある。製造業の中には事務・技術職も転勤による工場勤務を通じてじっくりとスキルを磨いていく経験も求められる。

 ▼新人社員と外国人社員に共通すること

 日本人はそのことを当たり前のことのように受け入れている。だが、日本以外の国では職務主義に代表されるように採用では専門性が重視され、処遇では実力主義を基調としている。そうした環境で育った外国人にとっては理由もなく配属先を決められること、専門性と直結しない仕事をすることに対する説明がなければ納得しない人も少なくない。

 キャリアに対する考え方も異なる。長期雇用の日本と違い、いろいろな会社を渡り歩いてキャリアを築いていくことが一般的な外国社会では平均勤続年数も短い。

 そのため日本企業に入社しても先行きが見通せないためにカルチャーショックを受けて辞めていく外国人社員も少なくない。

 外国人を採用し、定着してもらうには入社前にその企業独自の働き方やキャリアパスの仕組みなどについて丁寧に説明し、納得してもらうことが大事だろう。

 だが、それでも外国人が定着しないとしたら、企業の人事の仕組みやキャリアパスのあり方も見直していくべきだろう。それが多様性を取り込んで成長していくことにつながる。

 日本企業と相撲界。新人や外国人という多様性を受け入れて互いに成長し、発展していくための課題は山積みだ。

 (ジャーナリスト 溝上 憲文)