富裕層の私が月100万円分の肉を食べる理由 実は美味さが目的ではない

提供:PRESIDENT Online
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 富裕層を自認する筆者は、ほぼ毎日、昼は8000円、夜は1万円の「肉」のコースを食べる。このため食費は毎月100万円以上になるという。肉ばかりを食べる理由は糖質制限だ。白飯やパンなどの炭水化物は多くの糖質を含み、肥満につながる。筆者が肉中心の糖質制限を続けたところ、体重が減少し、健康になったという。いま多くの富裕層がはじめている「肉食」の効果とは--。

 「寿命」と「肥満」には関連性があるのか?

 スタンフォード大学のChetty Rとハーバード大学のCutler Dらは、「収入と寿命の関係」について2016年4月に『The Journal of the American Medical Association(略称:JAMA)』(米国医師会雑誌)に発表しました。そこで書かれた注目ポイントは以下の通りです。

 1)収入上位1%は下位1%より男性で14.6年長生き、女性で10.1年長生き。

 2)収入階層の「下位25%」が“短命”であることについて、相関関係があると判断できた保健行動(健康を維持・向上するためにとる行動)は「喫煙」「肥満」だった。

 前回は、2)の収入階層下位25%が“短命”であることについて、相関関係があると判断されている「喫煙」を考察しましたが、今回はもうひとつの項目「肥満」について考えてみます。

 まず、2010年の厚生労働省による国民健康・栄養調査の調査結果を見てください。

 この調査は「所得と生活習慣(肥満)」の関連について日本が初めて調べたものです(調査実施世帯数は3484、調査総数7881人)。女性は世帯所得が上がると肥満の割合が下がっていきますが、男性は世帯所得によって体形に影響をあまり受けない、という結果のように見えます(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/dl/h22-houkoku-01.pdf)。

 <世帯所得別肥満者の割合(2010年)>

 ●200万円未満:男性(31.5%)女性(25.6%)

 ●600万円未満:男性(30.2%)女性(21.0%)

 ●600万円以上:男性(30.7%)女性(13.2%)

 ▼世帯所得が低いと肥満率が高く、世帯所得が高いと肥満率は低い

 では、2014年の同調査はどうか(調査実施世帯は3548世帯、調査総数7641人。http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000117311.pdf)。

 <世帯所得別の肥満者の割合(2014年)>

 ●200万円未満:男性(38.8%)女性(26.9%)

 ●600万円未満:男性(27.7%)女性(20.4%)

 ●600万円以上:男性(25.6%)女性(22.3%)

 今度は男性も世帯所得と肥満者の割合に関連性が見て取れて、世帯所得が高いほど肥満者の割合が確実に減っています。調査年や性別によって、所得と肥満との関係に若干のブレはあるものの、世帯所得が低いと肥満率が高く、世帯所得が高いと肥満率は低いという「傾向」があると言っていい、と僕は思いました。

 この調査の残念なところは一番高い世帯所得層を「600万円以上」をひとくくりにしているところです。世帯所得が数千万円、数億円になってくるとその傾向はもっと強く表れてくるに違いありません。

 2カ月の糖質制限で体重が87kgから62kgまで減った

 さて、言うまでもありませんが、女性は見られることを意識する性です。よって、健康や美容に投資することは常に重要事項ですので、余裕のお金ができれば食生活も改善してジャンク・フード、ファスト・フード、チェーン系のレストランを避けるのは、自然なことにように感じます。そもそも高所得者にとって食事は、「量より質」ですので。満腹感ではなく、口にした瞬間のサプライズ感がすべてなのです。

 こうした健康や美容に投資する傾向がここ数年で高収入の男性にも顕著に見られるようになったと思います。満腹にするのが食事の主目的なら、小麦(麺類、パン、お菓子など)、お米、ジャガイモなど糖質中心の食事が効率的です。しかも、これらは極めてコストパフォーマンスがいい。

 ここのところ糖質制限がはやっていますが、僕の周囲のお金持ちの多くもこれに取り組んでいます。僕もダイエット目的ではありませんが、歯科医院の経営にたずさわっている関係で、ある研究論文の内容を知るところとなり、糖質制限を始めました。すると87kgだった体重が2カ月で25kg減の62kgまで減りました。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19405829)

 この研究というのは、4週間、旧石器時代食(脂肪分の少ない肉と魚を食べ、小麦を中心とした穀物、イモ類、乳製品などをとらない)をとる代わりに4週間歯を磨かないという実験です。

 旧石器時代食 昼も夜も生の肉を焼いて食う

 農耕文明が始まってわずか1万年ですが、その期間では人類の遺伝子は農耕文明に適応することができず、旧石器時代の先祖と同じような食事こそが人類の遺伝的な特質に合った理想的な食事法だという考えです。狩猟採集民のような食生活(糖質制限)を送れば、健康でいられる。心臓病や高血圧、糖尿病、がんなど、現代人を苦しませる病を予防できるのではないかというのです。

 旧石器時代には当然、歯ブラシもありませんでしたので歯も旧石器時代食をとって過ごす4週間は一切磨きません。実践した結果は4週間もの間、歯を磨かなかったにもかかわらず、歯茎からの出血は減り、歯周ポケットも改善された、というものでした。

 今、糖質制限と銘打った加工食品がたくさん発売されていますが、可能な限り旧石器時代食のように糖質摂取を徹底的にやめるのは当然ですが、非加工の肉も避けることになります。よって、現代ではおのずと食費が高くつくことになます。僕の標準的な食事は、昼は鉄板焼き、夜はステーキか焼き肉というものです。生の肉を焼く。シンプルな料理です。

 夜は西麻布の松坂牛焼肉店「東海亭」1万円コース

 添加物が入っている可能性のある加工肉(ソーセージ、ロースハムなど)、残留農薬が入っている可能性がある加工食品は一切口にしません。これらは安くておいしく腹持ちもいいですが、先ほども述べた通り、富裕層にとって食事は腹を満たすことが目的ではありません。

 ソーセージなどの加工肉はウインナーソーセージ1本あたり25秒、ロースハム1枚あたり19秒、ジャンボフランクフルト1本あたり1分14秒寿命を縮めると言われています(『それで寿命は何秒縮む?』半谷輝己著・すばる舎)。

 前回原稿で、WHO(世界保健機関)などがリスク指標のひとつとして使用している「損失余命」を紹介しました。これは、人間が行う食事や日常の行動などに寿命を短くするリスクがどれくらいあるのかを示したものです。

 糖質制限しながら、可能な限り体にいいものを摂取するという食事法を本格的にやろうとすると、結局、質の高い肉や野菜に行き着きます。よりよい肉や野菜。それらを口にするためには案外お金がかかります。逆に、安い食品には健康を害するというコストが伴います。

 「肉がうまい」と思って食べてない。すべては美容と体づくりのため

 僕は普段、お昼は目黒の雅叙園内にあるステーキハウス「ハマ」の8000円の鉄板焼きランチ、夜は西麻布の松坂牛専門焼肉店の「東海亭」の1万円のコースなどを食べています。いま理由があって、ほぼ毎日外食のため、その2店の他にもホルモン焼き、豚の焼きしゃぶ屋など肉のオンパレードなので、月の外食費は軽く100万円は超えているんじゃないでしょうか。ただ上質なのは確かですが、「肉がうまい」と思って食べてはいません。すべては美容と体づくりのためなのです。

 聖路加国際病院長の故・日野原重明さんも100歳を超えても週に2回は肉を食べていたと言います。医師・日野原さんの複数の著書によれば、高齢者ほど血管を丈夫に保つためにも肉の摂取が重要になるとのことでした。肉は年齢を重ねるほど、必須な食物なのです。

 月100万の肉、贅沢だとも高額だとも思わない

 それにしても月に100万円の肉……。

 「贅沢な食事をして!」とおしかりを受けるかもしれません。しかし、僕はこの100万を高額だとは思いません(当然、仕事の打ち合わせを兼ねていますので投資回収はできています)。安易に腹を満たそうと体の炎症を起こすリスクもあると言われる糖質を摂取して、寿命を短くするのは本当にばかげています。

 もちろん、肉(タンパク質)を過剰摂取すると脂肪に変わってしまうので、余計な注文をしないように必ずコース料理を事前予約しています。ネット予約する際に、たいていの店の受付画面には客が食べられない食材の有無を記入する欄を設けています。そこに「糖質NG」と書いておけば、何の問題もなく外食できます。

 “投資”をすると、もったいなくて「いまさらデブに戻れるか!」と

 そうした日頃の心がけで少し痩せてくると、性別が何であれ、美容にもお金をかけたくなるのが人情というものです。美容にこれまで何の興味関心もなかった僕もシミ取りのためのトーニング、VIOラインを含めたヒゲ、ワキ、アシなどの全身脱毛、歯のホワイトニングにお金を注いでいきます。

 その中で、アンチエイジングへの投資もするようになり、長寿のために寿命を延ばすとされるメトホルミンなどのアンチエイジング系の処方薬を服用するようになります。

 そうやって美容・アンチエイジングに投資していくと、もったいなくて、ますます「いまさらデブに戻れるか!」と思い始めます。いまの生活を一日でも延ばすために健康に長生きしたいとも思い始めます。

 そうなると、富裕層はもともと強い自制心を持っていることが多いですが、さらに強力な自制心が働いて、一生、糖質制限食で生きていこうと思えてきます。

 人間の体のメカニズムに関する情報、長寿に関する情報に異常なほどに鋭敏になってきて、医学論文を読んだりして食生活の改善に一層拍車がかかります。健康と美容の相互作用が働くんですね。

 ■年収が高くなるとオスが種の本能で“美容”に投資する

 男性富裕層向けの雑誌にはアンチエイジング関連の広告が山のように掲載されています。

 また、富裕層向けに会員制の高級メディカルクラブも増えてきていて、健康や美容への投資は男性であっても怠ることはありません。

 データがないのではっきりしたことはわからないですが、クジャクなどはメスよりもオスが華美だという他の動物の“性淘汰”がそうであるように「年収が高くなるにつれてオスが、種の本能として“美容”に投資する」というのは仮説として面白いとは思いますね。

 ヒトは女性が化粧をしますが、農耕文明によって財の蓄積が進んで、オスが選択される側から選択する側に回ったことが女性が化粧するようになった一因かもしれません。それが、一定の財の蓄積が進んだ段階では、差別化要因にならず、次の段階では美容投資の競争になるとか。あくまで僕の仮説ですけれども。

 「寿命はお金で買える」

 今回の考察を踏まえ、富裕層が一通りいろいろなものやことにお金を使った後で、最後に向かうのが「非地位財」だというのは納得がいきます。非地位財とは、他人が何を持っているかどうかとは関係なく、それ自体に価値があり喜びを得ることができるもの。例えば「休暇」「愛情」「自由」に加え、「健康」「長寿」「美容」なども、これに含めていいかもしれません。

 もし、肥満と寿命に相関関係があり、スマートな体形がお金で買えるとすれば、「寿命はお金で買える」としてもあながち間違いとは言えないのではないでしょうか。

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 (行政書士・不動産投資顧問 金森 重樹)