【IT風土記】石川発 IoTが市民と温泉街を救う クラウド技術で水道管の漏水を監視

 
水道の漏水をチェックするセンサー。漏水の微細な周波数の振動を見分ける

 石川県七尾市は日本屈指の高級温泉街として知られる和倉温泉の上水道を守るため2016年からビッグデータの収集・分析の最先端技術を応用した漏水検知システムを導入した。海に近く、且つ温泉街であるため発生する雑音などの悪条件を克服し、ピンポイントで老朽化などによって漏水した水道管を検知できるという。水道管の老朽化は七尾市だけでなく、全国の自治体の悩みの種だ。高度成長期に設置した大量の水道管が寿命を迎えるものの、更新が追い付かないためだ。漏水検知システムの活用は自治体の抱える課題解消の切り札になる可能性がある。

 ピンポイントで漏水地点を探知

 和倉温泉は金沢市から北に約60キロ、能登半島の中央にある七尾湾に面した温泉地だ。30年以上にわたり「日本一の旅館」との評価を受け続けてきた旅館「加賀屋」をはじめ、高層の旅館やホテルが海沿いに立ち並び、年間約100万人の観光客が訪れる。

 温泉街の一角に市民のいこいの場所となっている共同浴場「総湯」がある。高級旅館のような豪華なエントランスで、観光客も日帰り入浴ができる人気スポットだ。市上下水道課は、供給量と使用量の差から総湯前に敷設された水道管に漏水があるのではないかと疑っていたが、なかなか見つけ出せずにいた。昨年、漏水検知システムを導入すると、すぐに総湯周辺の水道管のチェックに着手。ピンポイントで漏水地点を見つけ出すことができた。「観光スポットである総湯の営業にも影響が出る心配もありましたが、大きな被害を与えずに対応することができました」と上下水道課の深山明博課長補佐は説明する。

 市が導入したのは、NECが提供している漏水検知システムで、漏水がある場合に出てくる微細な周波数の振動をチェックする通信機能付きの高精度センサーを水道管のマンホールなどに複数カ所に設置し、センサーから得られたデータをクラウドシステムで解析して漏水の発生やその場所を把握する。

 センサーは缶コーヒーほどのサイズ。センサーを設置後、受信機を搭載した車で通行し、センサーを設置したエリアを通行しながら、データを取得。漏水地点はインターネット上の地図に表示して提供される。深山課長補佐によると、1週間ほど設置してデータを収集すれば、水道管の状況が把握できるという。

 温泉街特有の見つけられない事情

 一般的な水道管の漏水の探索は、舗装された道路に聴診器のような機器を当てて漏水の音を耳でさぐりあてる。住宅街やオフィス街では、寝静まった深夜から早朝にかけて作業が行われるが、和倉温泉は、この方法では漏水をうまく探し当てられない事情があった。

 「旅館やホテルでは、営業が深夜に及びます。旅館に温泉をくみ上げるポンプが深夜まで稼働していたり、深夜まで人の動きがあったります。そういった音があると、音だけで漏水を見つけるのが難しいのです」と市上下水道課の西本義光課長は語る。

 和倉温泉周辺の土壌は、藻類の一種である「珪藻(けいそう)」が堆積してできた『珪藻土』でできていて老朽化が進みやすい。水道管をつなぐボルトが腐食しやく、市内の他の地域よりも漏水を起こすリスクが高く、対策が求められていた。高性能のセンサーを活用したこのシステムは発見の精度が高く、さらにスピーディーに判別できるメリットがある。ほぼピンポイントで漏水地点を探し当てることもでき、工事の効率化やコストダウンにもつながったという。

 こうした市の対応に和倉温泉観光協会の宮西直樹事務局長は「水道水はどこにでもある当たり前のものというイメージがありますが、安全・安心という点では重要なインフラで、管理に力を入れていただいているのは大変ありがたい」と評価している。

 自治体を襲う深刻な「水道クライシス」

 現在、七尾市には約682キロの水道管が設置されているが、1990年以降に敷設された水道管が多い。今後、2040年以降、本格的な水道管の更新時期が訪れる。市の試算によると、今後40年間で必要となる更新費用は約320億円に上る。それでも、他の自治体に比べれば、まだそれほど老朽化は進んでいない方だ。

 全国の水道の総延長は60万キロにも及び、普及率は98%近くに達するが、大半は高度成長期の1970年代に整備が進められたものだ。水道管の法定耐用年数は40年。1970年代に上水道の整備を進めた多くの自治体が水道管の大量更新期を迎えているのだ。

 厚生労働省の調査によると、耐用年数を超えた水道管の更新率は2014年度の全国平均で0.76%。耐用年数を超えて利用している水道管は全体の12.1%に上り、2年前の9.5%からじわじわと上昇している。全国で発生している漏水などのトラブルの件数は2万2000件に上ったが、今後、この数字が増加するのは避けられない状況といえる。

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