キッズウイークは“愚策”か 「古くて新しい」休暇分散問題

 
夏休みで川遊びを楽しむ児童ら=兵庫県三田市

 政府は、小中学校や高校の長期休暇の一部を別の時期に分散する「キッズウイーク」を来年度から始める。「休み方改革」の一環として親に有給休暇(有休)取得を促し、夏休みなどに集中しがちな国内観光を分散するのが狙いで、実現すれば消費創出効果は約4000億円に上るとの試算もある。ただ、構想には発表直後から非難の嵐で、企業などの協力が得られなければ「笛吹けど踊らず」の“愚策”に終わりかねない。

 ネットに辛辣な意見

 「子供は休みでも親は休めない」「多くの人が休む時が稼ぎ時の業種には関係ない」「一番大変なのは(休めない)福祉の仕事に携わる私たちです」-。いずれもインターネットに書き込まれたキッズウイークに対する辛辣(しんらつ)な意見だ。

 「ヤフーニュース」が5月下旬に行ったアンケートによると17万件以上の回答のうち「反対」は66.2%に達し、「賛成」(22.3%)、「わからない/どちらとも言えない」(11.5%)を大きく上回った。

 安倍晋三首相は5月の「教育再生実行会議」で、キッズウイークの狙いとして、子供たちの豊かな心や人間性を育む▽観光需要の平準化や地域活性化を図る▽有休の取得を進める-などを挙げた。

 特に有休の取得率(企業が付与した年次有休日数に占める取得日数の割合)は2015年時点で48.7%にとどまり、政府が掲げる「20年に70%」という目標には、ほど遠い。キッズウイークを取得率改善の起爆剤にしたい考えだ。

 市場関係者の多くは、キッズウイークが実施されれば一定の効果があるとみている。みずほ総合研究所の試算では、旅行料金の安い「閑散期」に連休が移ることで新たな観光需要が生まれ、国内旅行消費が約4000億円押し上げられるとしている。

 もっとも、こうした効果を生み出すには「企業が有休の取得でどれだけ協力するかにかかっている」(みずほ総研の宮嶋貴之主任エコノミスト)。両親が休めなければ、子供が旅行に出かけることができないからだ。

 ただ近年、政府が呼び掛ける消費喚起などのキャンペーンは評判が良くない。今年2月、月末金曜の午後3時終業を推奨する「プレミアムフライデー(プレ金)」が始まったが、取り組みを企業に任せた結果、普及はいまひとつだ。ネット調査などを手掛けるジャストシステムが4月に発表した報告によると、3月のプレミアムフライデーで午後3時退社を実行できた人は3.7%に過ぎなかった。

 政府奨励金の声も

 キッズウイークも企業任せにすれば、普及しない可能性があり、「政府による(奨励金などの)インセンティブ(動機付け)を設けた方がいいのではないか」(明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミスト)との声も上がっている。

 だが、インセンティブがあっても、応えられるのは業績に余裕がある大企業に限られる可能性がある。小玉氏は「人手不足の中小企業は簡単に休みが取れないだろう」と指摘する。

 このほか旅館、外食など「休日が『書き入れどき』のサービス業は休めない」といった声や「子供のいない社員は有休を取れず仕事のしわ寄せがいくのではないか」といった懸念も少なくない。

 キッズウイークに関し、安倍政権は官民の合同会議を月内にも開き、反対意見も踏まえた上で、本格的な制度設計の議論を進める方針だ。旧民主党の菅直人政権も10年に「休暇分散化構想」を打ち出したが、国民からの反対意見も多く、12年に政権が交代し頓挫した経緯がある。「古くて新しい」ともいえる休暇分散問題に、安倍政権が決着をつけられるかが焦点となる。(山口暢彦)