「頭がいい子」の家にある意外な共通点 広さや間取り、勉強に集中できる条件

提供:PRESIDENT Online

 どんな家であれば、子供は集中して勉強ができるようになるのか。広さや間取りに条件はあるのか。建築学が専門の東京大学大学院・大月敏雄教授に聞きました--。

 「勉強をする場面」を考える

 頭のいい子供の住まいには、何か共通する特徴があるのでしょうか。

 私は毎年、東大建築科の2年生に授業を行う際、設計の練習のために、自分が住んでいた家の間取りを描いて提出させています。

 ところが、それらの中身は千差万別。田舎の広い家に住んでいた学生もいれば、狭い公営住宅や都会の超高層マンションに住んでいた学生もいます。そこに共通点は見当たりません。戸建てかマンションか、間取りがどうかといったことと頭の良さは、まったく関係がないのです。

 共通点があるとするなら、それは「勉強をする場面」や「子供たちの好奇心を刺激する場面」がきちんと考えられている点です。

 子供にとっては、机の前で教科書を読むことだけが学びではありません。リビングでニュースを見ているときに「最近、こんなことが流行っているらしいね」と話をしたり、キッチンで重曹に水をかけて泡立つ様子に驚いてみたり。あるいはガーデニングで植物を育てて「今年はアブラムシがたくさんいる」と声をかけてみたり。そうした場面が多様にあることによって子供の好奇心が刺激され、学びへとつながるのです。

 トイレにさりげなく本を置く

 たとえるなら、家は菌を培養するときに使うシャーレです。菌を培養するとき、シャーレの色や形は関係ありません。大切なのは、菌にどのような養分を与えるか。子育ても同じで、家の広さや間取りという容器の形にこだわるより、養分となる場面をどのようにつくるのかということのほうが、ずっと大事なのです。

 場面には、さまざまなパターンがあります。たとえば、算数は抽象的な思考を要しますから、1人で集中できる場面をつくってやったほうがいいでしょう。一方、社会や理科、国語は、親子のミューチュアル(相互)コミュニケーションで頭を刺激していく場面をつくったほうがいい。もちろん親子のミューチュアルコミュニケーションも一様ではありません。たとえばトイレに棚を作って読んでほしい本をさりげなく置いておくなど、直接介在せずに情報交換するやり方もあります。

 つまり、ある間取りにすれば頭が良くなるという単純な解が存在しないように、場面についても絶対的な答えはないのです。重曹が泡立つ様子を見て化学に興味を持つ子供もいれば、アブラムシは苦手だという子供もいる。親はそういった反応を観察しながら環境をつくっていく。

 建築家に具体的なイメージを伝える

 もう1つ、子供の興味は成長とともに変わることも意識すべきです。子供はまわりに影響されやすく、昨日まで興味を持っていたことに急に関心を示さなくなったり、逆に急に新しいものに興味を持つことも珍しくない。そこは柔軟に対応したいところです。

 中国には「孟母三遷(もうぼさんせん)」という故事があります。孟子の母親は、子の教育のために3回引っ越しました。実際に転居するのは難しいと思いますが、子供の成長に合わせて、場面を変えていく工夫は必要です。

 遅かれ早かれ、最終的に子供は自分の部屋に閉じこもるようになるでしょう。それは成長の正しいプロセスなので、親は「一件落着」といって喜ばなくてはいけません。逆にいうと、それまでは子供に適切な場面を提供できるように、丁寧に子供を観察し続けなくてはいけない。それが親の役目です。

 子供に用意してやりたい場面を想定できたら、次はそれを形にするプロセスに入ります。たとえば、家を購入する場合には、こう考えます。

 注文住宅の場合は、自分たちが望む場面を建築家に直接伝えます。「こういう間取りがいい」と言うより、「お母さんの料理中も子供と会話をしたい」などと、具体的なイメージを伝えたほうが、建築家はがぜんやる気になって積極的にアイデアを出してくれるはずです。

 もちろんすべての建築家が素晴らしいアイデアを持っているわけではありません。そこで、それを見極めるために、たとえば「頭寒足熱」というキーワードを投げかけてみる。

 一般的に学習時は頭部が寒くて足元が暖かい状態がいいといわれていますが、建築でそれを実現する方法はいろいろあります。簡単なのは床暖房ですが、予算的に難しければ1畳分だけ電気カーペットを敷いて対応してもいい。あるいは部屋の状況を見て、北向きの部屋なら窓から冷たい空気が入るのを防ぐため、窓の横にパネルヒーターを置くのもいい。そういった提案の引き出しをたくさん持っている建築家なら、信用できるといっていいでしょう。

 「衝立」で間取りを変える

 場面を形に落とし込むのは自分でも可能です。ふすまを外したり衝立(ついたて)を置いたりして間取りを変えてもいいし、場面に合わせて照明を変えてもいい。環境心理学では、暖色系の照明はコミュニケーションを促し、寒色系は集中を促すことがわかっています。もっとも照明の効果にも個人差があり、赤っぽいほうが集中できる子供もいます。そこは子供と一緒に実験して確かめればいいのです。

 建売住宅や集合住宅の場合は、場面を具体的に思い浮かべながら選ぶことが重要です。家の中に算数の問題に集中して取り組めるコーナーがあるか。ニュース解説などメディアを通じて刺激を受けられる場面や、子供と一緒に空を見上げて星の話をする場面をつくることができるか。これらはほんの一例ですが、場面リストを用意して物件を選ぶのです。

 もっとも、すべての場面を家の中につくる必要はありません。星が見えにくいのなら近所の公園に出かけてもいいし、集合住宅で庭がないなら共有スペースの花壇で植物を観察してもいい。あるいは勉強に集中する場面も、近所の図書館で代用できるかもしれません。家の外の環境を含めれば、場面は多様につくれるはずです。

 家というと、とかく広さや間取りなどの形に目が行きがちです。しかし、まず場面があってこそ、それを実現するための形が見えてきます。住まいの空間を考えるときは、この順序を忘れないでほしいです。

 大月敏雄/東京大学大学院・准教授

 1967年福岡県生まれ。東京大学工学部建築学科を卒後、同大学院修士課程修了、博士課程単位取得退学。東京理科大学工学部建築学科助教授などを経て、現在、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。専門は建築計画・住宅地計画。著書に『集合住宅の時間』(王国社刊)がある。(村上 敬=構成 遠藤素子=撮影)