高い家賃や住宅価格、朝ラッシュ時の厳しい混雑…それでも東急沿線に暮らしたいワケ
東急沿線の中でも東横線や田園都市線は、家賃や住宅価格が高いといわれている。一方で、特に田園都市線の朝ラッシュ時の混雑は厳しくて、ピーク時の池尻大橋から渋谷までの区間は混雑率184%となっている。これは、首都圏の大手民鉄では最も高い数字だ(注:東京メトロは除く。東京メトロのもっとも高い混雑率は、東西線の木場~門前仲町間、199%である)。
混雑の影響を受け、田園都市線はラッシュ時の「急行」の運行を止めてしまった。「準急」として、二子玉川から渋谷までの間は各駅に停車することにした。そうでないと、列車が詰まってしまうのだ。
それでも、田園都市線沿線に暮らしたいという人は多い。ラッシュゆえにこの地を去ろうとする人は少ない。なぜか。東急沿線の暮らしは、心地いいからだ。
東急沿線の暮らしとは
東急沿線で暮らすと、あらゆるサービスが東急によって供給されていることが分かる。鉄道だけではなく、不動産、スーパー、百貨店なども手掛けている。スーパーにいたっては、駅周辺住民の所得階層に合わせて、一般向けのスーパー「東急ストア」と高級スーパー「プレッセ」を使い分けているのだ。
もちろん、東急沿線での消費生活が便利なように、クレジットカードもある。PASMO機能を備えているだけではなく、JALのマイレージも貯められる。
その上東急は、ケーブルテレビなどの情報インフラや、電力などのインフラをも持っている。電力の自由化により、家庭用の電力事業に参入してきたのだ。
家でも、東急なのである。
もともと東急は、住宅のための土地を販売する会社だった。そのため、土地をどう扱うかについてはノウハウがある。そして、東急の持てる能力と理想をすべて注ぎ込んだのが、田園都市線のニュータウン計画なのだ。
昨今、ニュータウンはもうダメなのではないかという声が高まりつつある。しかし、東急のニュータウン・多摩田園都市は活気を失っていない。
住民が鉄道を使うという前提でニュータウンをつくり、そこで理想の暮らしを営めるようにする。それが、東急なのだ。
高学歴層が集まる東急沿線
こういった場所のよさがあるせいか、東急沿線、それも東横線や田園都市線は高学歴層の住民が多い。特に田園都市線の青葉区は、大卒・大学院卒の住民が48%を占めている。 そのせいか、東急沿線では中学受験がさかんだ。難関中学受験対策で断トツの実績を誇るSAPIX小学部も、東急沿線に多くの校舎を開いている。東横線沿線では自由が丘、武蔵小杉、日吉、横浜にあり、田園都市線沿線では用賀、宮前平、たまプラーザ、青葉台にある。他の路線よりも、SAPIXが充実している。
沿線に高学歴層が多く、その層によいサービスを提供しているのが東急の強みだ。結果、地価も上昇していく。地域全体が、好循環の中にあるといえるだろう。
汎用性の高い車両たち
鉄道車両自体にも目を向けてみよう。東急の車両は、軽量ステンレス車両がメインである。消費電力も少なく、走りには力はないものの、ランニングコストが安く、使い勝手もいい。
いまや都会の鉄道では少なくなってしまった18メートルの車両を池上線や東急多摩川線で走らせている。これらの線に新車として導入された7000系は、30年後は地方の私鉄で余生を送る。のんびりとした環境で穏やかな生活を送るのか、厳しい環境で一生懸命働くのかは分からないが、さまざまな環境の中で活躍するに違いない。地方の私鉄では、18メートル車が足りないという話がよく出ている。その需要にも応えることになるだろう。
それだけ、東急の車両は優れているのだ。
沿線住民から見ても、ただのロングシートの車両と思われるかもしれない。しかし、使い勝手のよさで地方私鉄からも支持を集めているのが、東急の車両である。
万人受けの完璧さを目指す
東急が提示する沿線の暮らしは、多くの人から支持されている。ちょっとお金はかかるかもしれないが、多くの人が憧れ、万人受けするものである。そのために完璧さを追求している。鉄道だけではなく、生活環境もパッケージングして提供し、沿線住民の支持を集めている。田園都市線のラッシュが改善されないのは、東急の提供する生活環境があまりにも快適だからである。
そして人々を乗せる車両も、あくの強さというものはないが、それなりに快適だ。他社との共通点もあり、それゆえに相互乗り入れにも積極的である。地方私鉄でも余生はひっぱりだこだ。
完璧に、万人受けを目指す。最高の生活環境を目指す。それが、東急の考え方だ。そして集まった人々が、東急の強みなのである。その強みを求めて、受験産業や私立学校などが沿線にやってくる。慶應義塾の横浜初等部までもがやってきたのだ。
そういった東急を、多くの沿線住民は支持している。
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