ネット販売のED治療薬「4割はニセ物」 ゴミ溜めで製造、インクで着色… 死の危険性も

 
中国で見つかったED治療薬の偽造品製造現場。不衛生な状況であることが一目で分かる(ファイザー提供)

 73歳で8人目の子供をもうけたロックスター、ミック・ジャガー氏ほどではないにしても“現役”にこだわるシニア・中高年層は多いようだ。インターネット通販には、こっそり若さを手に入れたい人たちを狙ったバイアグラなどED(勃起不全)治療薬の偽造品が蔓延。製薬会社の調査によると4割を占めるという。偽造品の服用には死を招くリスクさえある。「まずは医療機関の受診を」と製薬各社は強く呼びかけている。

プリンターのインクで着色

 国内で販売されているED治療薬は、バイアグラとレビトラ、シアリスの3種類の先発医薬品とジェネリック医薬品(後発薬)。服用するには、医師の処方箋が必要だ。ただ個人輸入も認められており、「こっそり手に入れたい」「病院に入るのを見られたくない」などといった理由でネットを通じて購入する人も多いという。

 そこで、ED治療薬を国内で製造販売するファイザーとバイエル薬品、日本新薬、日本イーライリリーの4社は昨年、通販サイトでED治療薬を実際に購入し鑑定した。

 国内のサイトから発注した45種類と、日本人が偽造品販売に関係する事件があったタイのサイトから発注した25種類を調べたところ、国内の35・6%、タイの48%が偽造品で、合わせても40%になることが分かった。

 またファイザーの調査によると、中国の偽造品製造現場の1つはゴミが散乱する不衛生な場所だった。製造過程でプリンターのインクを混ぜて正規品の色に似せていた作業場も確認したという。同社は「流通経路での品質管理にも問題がある」とも指摘し、ホームページで現場の写真を公開するなどしている。

死の危険性も

 偽造品が蔓延する背景には、ED治療薬の市場拡大への期待がある。バイアグラの全世界での2015年の売上高は17億800万ドル(前年比1%増)。日本国内の動向についてファイザーの広報担当者は「シニア層となる『団塊の世代』はライフスタイルも若々しく、市場はこれからも広がる可能性がある」と話す。

 偽造品には、正規品の1・5倍の有効成分を含んでいるものや、一方で、ほとんど有効成分が含まれていないものもあるとされる。有効成分が多すぎると、頭痛やほてり、胃腸不良などの副作用が強く出る可能性もあるという。

 実際、各社の相談窓口にはネット購入した治療薬の服用者から「胸を圧迫されるような感じがし、首や背中に鈍痛が走るようになった」「服用を続けていたところ健康診断で不整脈が出た」などの相談が寄せられている。

 昭和大学藤が丘病院泌尿器科の佐々木春明教授は「これまで見つかった偽造品には、血糖降下剤を含むものもあった。糖尿病ではない人が服用して、低血糖による意識障害や死につながった事例も海外で報告されている」と指摘する。

EDの原因

 佐々木教授は「中高年のEDの場合、ほとんどが動脈硬化により陰茎に達する血液が不十分になることが原因」と解説。ED治療薬の効果がなかなか表れない人は動脈硬化の進行が疑われ、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞のリスクも抱えている。「糖尿病や高血圧、脂質異常症、メタボリック症候群などの疾患を詳しく調べる必要もある」という。

 医師の診断抜きでネット購入した偽造品を服用した場合、効果が期待できないばかりか、隠れた病気を悪化させる恐れもある。

 若い人の場合、EDはほとんどが心因性、つまり「気持ちの問題」とされるだけに、佐々木教授は「偽造品で期待した効果が得られなければ、さらに落ち込み、自信をなくす負の連鎖に陥る」と危惧している。

 レビトラを製造販売するバイエル薬品の井上智子偽薬対策担当部長は「健康被害の危険性はもとより、偽薬品の販売利益は反社会的組織の資金源となっている可能性もある。確実に、安心してED治療していくためにも医療機関を受診してほしい」と訴えている。