「店を潰す気か!」厚労省禁煙案に続々反対 病院まで「命短い患者にたばこを…」

 

 愛煙家がますます生きづらい世の中だ。2020年に開催される東京五輪・パラリンピックに向けて、厚生労働省が10月、喫煙範囲をさらに狭める受動喫煙防止対策案を打ち出した。ところが、厚労省が関係団体から聴取を始めたところ、反対意見が相次いだ。小規模の飲食店からは「店を潰す気か」との批判があるほか、全面賛成かと思われた病院から「命の短いがん患者に最後くらいたばこを吸わせてあげたい」と喫煙室の設置を求める声も。厚労省は罰則付きの法制化を目指しているが、難航が予想される。

建物内も敷地内も…

 厚労省が五輪に向けて受動喫煙防止対策案を公表したのは10月12日。

 「世界に恥ずかしくないようにやっていかなければならない。諸外国の常識を考え、(受動喫煙のない)スモークフリー社会に向けて歴史的な一歩を踏み出さなければいけない」

 塩崎恭久厚労相はそう決意を示していた。

 案は「多数の人が利用する施設」と位置付けたスタジアムなどのスポーツ施設や官公庁、社会福祉施設、大学では「建物内禁煙」にした。特に未成年者や患者らが主に利用する施設では、受動喫煙による健康影響を防ぐ必要性が高いため、より厳しい「敷地内全面禁煙」を提案した。

 サービス業では「建物内原則禁煙」にした上で、喫煙室の設置を認める。ただ、煙吸引機を設置して横で吸わせるなどの「喫煙席」方式は認めない。

反応割れる医療界

 この案について、厚労省は10月31日と11月16日の2日間に分けて約30社・団体から意見を聴いた。

 「小規模では喫煙室を設置できない。商売が成り立たなくなる。地方の小さな店を潰すような規制を行うのか」

 バーやスナックなども加盟する全国飲食業生活衛生同業組合連合会は反対を唱えた。日本旅館協会も宴会場は規制対象から外したい考えだ。

 喫煙室の設置は、パチンコやパチスロの業界団体「日本遊技関連事業協会」も死活問題だ。完全分煙を実施すると「客離れ」が進みかねない。協会によると、パチンコの参加人口は1070万人。全国に1万1310店舗あるが、パチンコで遊ぶ人の喫煙者は43%とかなり高い。

 一方で、日本看護協会は「女性と若者の視点」から、「たばこのない社会」を目指して厚労省案に賛意を示した。ただ、医療界でも事情はさまざまだ。

 「生命予後の短いがん患者が多数入院する病棟の現状から、『原則建物内禁煙』(喫煙室設置可)としていただきたい」

 厚労省が意外だったのは、日本ホスピス緩和ケア協会からこんな要望が出されたことだ。

 協会は今年6月に加盟311施設に「喫煙に関する調査」を実施。敷地内全面禁煙が84%と最も多かったものの、ホスピス・緩和ケア病棟では、3割近い病棟が何らかの形で生命予後の短い患者の喫煙習慣に配慮して、喫煙を許可しているという事情がある。

加熱式たばこも罰則?

 厚労省の案で大きな変更点は、違反者に対し勧告や命令などを行い、それでも義務に違反する場合は罰則の適用を考えていることだ。

 火を使わずに煙も灰も出ない新しいタイプの「電気加熱式たばこ」も、やり玉に挙がっている。厚労省は受動喫煙禁止の罰則対象に含めることも検討しているのだ。同省の担当者は「業界は無煙というが、何が含まれているかをきちんと把握した上で規制対象とするかどうか決めたい」とした。

 発売開始からわずか2年で、200万台のヒットを飛ばした「iQOS(アイコス)」を販売するフィリップモリスジャパンの広報担当者は「煙は出ないが、蒸気には水分とニコチン、グリセリンが含まれている」と説明する。

 この担当者によると、たばこは吸えないが、アイコスなら使用できるという飲食店も増えているといい、有害物質は「9割以上カットできる」と話す。

 厚労省は業界団体を管轄する他の省庁とも調整を重ねており、どこで折り合いを付けられるか頭を悩ませている。