円安傾向・米新政権 2017年春闘、期待と不安
「期待と不安が交錯している状況にある」
金属労協の相原康伸議長(自動車総連会長)は2日の記者会見で、2017年春闘に向けた情勢をこう言い表した。賃上げ交渉に向けた好材料と期待されるのが足元の円安傾向。対ドルで1円円安になると年間営業利益がトヨタ自動車で400億円、富士重工業で100億円押し上げられ、業績の上方修正期待が高まるからだ。株価の回復による景況感の改善に加えて、政府の賃上げ要請も交渉に向けた大きな追い風になる。
安倍晋三首相は働き方改革実現会議で基本給のベア実施を要請。労使で決める賃上げを首相が直接求める「官製春闘」は4年連続で、「首相の要請により交渉が進めやすくなった」(大手自動車メーカー労組幹部)との意見もある。加えて、政府が賃上げの浸透を目指して、17年度税制改正で賃上げした中小企業の法人税負担を減らすことなどを検討しているのも支援材料だ。
一方で、不安も大きい。「さまざまな経済変化が想定され、不確実性が高まっている」(相原議長)ためだ。とりわけ懸念されるのが、米国のトランプ次期大統領の政策。トランプ氏はメキシコなどとの通商協定の見直しをはじめ強硬な政策を掲げており、日本企業の事業にも影響を及ぼす可能性がある。
日本の経済状況にも懸念材料がある。とくに悩ましいのが賃上げの根拠となる物価だ。全国消費者物価指数は10月まで8カ月連続でマイナス圏に沈むなど、アベノミクスが掲げる「脱デフレ」は依然、見通せていない。
企業側が、16年春闘まで3年連続でベアに応じたことで人件費負担が高まり、賃上げに慎重な姿勢を強めていることも逆風だ。実力以上の賃上げを続ければ人件費などの固定費が重荷となり競争力を失いかねないとの不安があるためだ。経団連の榊原定征会長も「先行きが不透明な中でベアは重い」との見方を示しており、実際、NECの新野隆社長はベア実現について、「企業業績から言うと厳しい」と話す。
16年の春闘交渉ではトヨタや日立製作所の労組がベア月額3000円を要求したものの、結果は1500円の回答にとどまった。企業側は前回交渉時よりも、ベアよりも手当や一時金(ボーナス)で待遇改善に取り組む姿勢を強めており、労使がどこまで折り合えるかが焦点となる。
■2017年春闘に向けた環境
【好材料】
・円安で輸出企業の収益が持ち直し
・米国経済が消費中心に堅調
・安倍晋三首相が「今年度並みの賃上げを期待」と経済界に要求
・政府が賃上げ促進税制を拡充
【不安材料】
・トランプ次期米大統領の通商政策
・新興国経済の減速懸念
・消費者物価指数がマイナスを継続
・企業が先行きへの警戒感からベアに慎重
関連記事